死にたがりの私

作者/桜

―3章― 12


私の体は、いつまで経っても下に落ちなかった。

当たり前。

私は手を離さなかったから。

いや、離せなかった。

もしかしたら、誰かが止めてくれるんじゃないかって。

そんな、信じられないような事を願って。



「……勇気のない私……」

そう、私には勇気はなかった。

誰かが止めてくれる人がいるかも、と思って飛ばなかったのもあるけど、1番の飛ばなかった理由は、怖かったから。

裏サイトの私を痛めつけるコメントを見て、勇気を出したつもりだった。

でも、無理なの?

私には無理なの?

手を離すだけなのに。

そんな簡単な事も無理なの?

楽園より、地獄を望むの?

この手を、離せば……。

ここから飛べば……。

私は、苦しみから解放される。

だから、飛ぶの。

今までの苦しみを思い出す。

水をかけられ、ライターであぶられ、見せ物にされ。

この世界に私の居場所何かないの。

私は、いらない存在なの。

何をしても変わらない、無意味な存在なの。

だから、死なせて。

死にたがりの私と、生きたがりの私。

2人の私。

ねぇ、死んだら生まれ変われるんだよ?

また新しい人生が始まるんだよ?

だから、お願い。

死なせてよ……。

私は空から視線を外し、自分の手を見る。

柵を強く掴み、落ちない様にしている手。

恐怖で震えている手。

体は、正直ね。

私は、本当は死にたくない。

だけど、私にそれしか道はない。

私には、死ぬという選択肢しかない。

だから、迷ってもしょうがない。

さぁ、飛び立とうよ。

未来に向かって、輝きながら。

苦しみを、快楽に。

「私の苦しみは、これで終わる……」

もう、笑いは止まり、涙だけ流れる。

下へ、涙が落ちて行く。

下へ下へ、見えなくなるまで私は涙を見続けた。

涙は、光輝くことなく消えて行った。

……私みたいに。

光り輝くことなく消える私。

それが私の望んだ事なのだから。




苦しみと輝きを天秤にかけたらどちらに傾くのかな?

……もう、分かってる。

苦しみにしか傾かない。

輝いてどうする?

苦しみを隠して輝くの?

そんなの、私には無理。

弱虫の私には。

生きる事さえ出来ないのだから。



何も考えなくていいんだよ?

ただ、この手を離すだけで。



私は、柵からゆっくりと手を離した。

私は、涙を流しながら落ちて行く。

とても遅く感じた。

落ちるのが。死に近づくのが。



あぁ、これで私は救われるのね?

これで、良かったの。

私の選択は合ってたの。

これでやっと苦しみから解放される……。