死にたがりの私
作者/桜

―3章― 11
枕から顔を離し、時計を見る。
0時7分。
私は音を立てない様に、こっそりと家を出た。
外は真っ暗。
私は上着のポケットから携帯を取り出し、裏サイトを見た。
私の半裸の画像の下には、何百件もの私を痛めつけるコメントが書いてあった。
「……これで、いいの」
私は携帯を閉じ、ポケットにしまう。
私が今向かっている所は、あの公園の近くのアパート。
死ぬ場所は、あそこしか思いつかなかった。
学校なら、校舎に入れない。
運よく壊れている窓を見つけても、屋上の鍵は持っていない。
だから、あのアパート。
門を開ければ、すぐ入れるから。
アパートへの道はあまり覚えていないけれど、時間ならある。
夜中なら、いつでもいい。
人があまりいない時間帯なら。
死んでまで、人に視線を向けられるのは嫌だから。
20分くらいでアパートに着いた。
2回目のアパート。
前と何も変わっていない。
いや、空が変わった。
星が見えない、曇り空。
私と一緒。
光がない、私の人生。
さぁ、これで終わり。
ギシギシと軋む階段を上る。
3階に着き、下を覗く。
前より、高く感じた。
前より、怖く感じた。
私はもう1度、裏サイトを見る。
『氏ね氏ねww』
『この世から消えてよ。見てると気分悪くなるから』
携帯を持っている腕が震えてきた。
「……皆、望んでいるのよ」
皆、私の死を。
携帯をポケットに戻し、柵に触れる。
これを越えれば、私は苦しみから解放される。
そして、皆の願いも叶えられる。
「私は、必要のない存在だったの」
自分に言い聞かせる言葉。
死へ向かわせる言葉。
「早く死んで、生まれ変わるの」
生まれ変わって、幸せになるの。
こんな辛い人生なんて、やめればいいの。
だから、死のう?
「死なんて怖くない」
自分へ向けて。
「さぁ、飛び立とう?」
これが、私の光。
死ぬのが私の光。
下を見る。
下に、私の死体が。
苦しみから解放された私の死体が、
―――――――――――――――――見えた気がした。
私は笑った。
涙を流しながら笑った。
柵に座り、空を見上げる。
私と同じような空。
「さようなら」
私は小さく、呟いた。
そして、体を柵から離した。

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