死にたがりの私
作者/桜

―6章― 12
目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。
カーテンを開け、日差しを浴びる。
暖かくて、私を包み込んでくれる感じがする。
ただ、するだけ。
制服に着替え、自分の部屋を出る。
姉の部屋は、今日も静かだった。
いつもと同じで、今日も朝食は食べない。
母と食べるのは……、どうなんだろう?
そろそろ大丈夫かな、とか思ったり。
うん、無理だね。
だって、解決策がないから。
私は、無言で家を出た。
行ってきます、なんて言わない。
どうせ返事は帰ってこないから。
駅に行き、電車に乗る。
学校へ行く為に。
転校したけれど、引っ越しはしなかった。
いや、できなかった。
……姉の所為で。
姉は部屋から出てこない。
風呂とかは、こっそり出てるのかもしれないけど。
私は自分の部屋にいる事が多いから分からない。
で、姉が出てこないから引っ越しはできない。
一応賃貸だから、無理にやれば引っ越せるけど。
姉が何を仕出かすか分からない。
だから、私は電車通学になった。
そういえば、転校した理由に「父の転勤で」って答えたけど、電車通学。
今の家に近い学校は沢山ある。
前、通っていた学校も含めて。
……皆、忘れてくれたよね?
そう、願っておく。
神様なんていないのだから、願ってもしょうがないけど。
駅を出て、5分ほど歩いたら学校。
上履きに履き替えるついでに、蓮華の靴箱を見る。
中には外履き。
蓮華は、もう来ていた。
私は、教室に行くのが怖くなった。
蓮華がいる。
休まなかった。
いじめに立ち向かった蓮華。
強い蓮華。
そんな蓮華が怖かった。
思い切って教室のドアを開け、中に入る。
「あ、穂乃実ー!これ見てー!」
心が私の前で何かをヒラヒラさせる。
1万円札。
「本当に持ってきたんだよ!」
嬉しそうに言う心。
私も合わせて笑っておく。
「1万円なんて、どこから持ってきたんだろうね?まさか盗んだとか?」
私は冗談っぽく言った。
「あははっ、そうだったら蓮華、犯罪者だね!捕まってここから居なくなれ!」
心は笑いながら蓮華の髪を引っ張る。
「痛っ……」
小さな悲鳴をあげる。
「悪い子にはお仕置きだね?」
蓮華の髪を離し、昨日の曲がったシャーペンを机から取り出す。
「きっと、目が覚めるよ?」
蓮華の手に、曲がったシャーペンの先が突き刺さる。
蓮華は、痛みで顔を歪めた。
「これは夢じゃないから覚めないか」
心は笑いながら、蓮華の手からシャーペンを抜いた。
シャーペンの先が刺さった所には、血は出ていなかったが、痕が出来ていた。
「夢じゃないから痛みがあるでしょ?」
心は、楽しそうにシャーペンを指で器用に回す。
「次は―――――――」
私は、ただ眺めていた。
このいじめの発端は私なのに。
今日のじゃなくて、全て。
蓮華がいじめられるようになった理由。
全て、私の所為。
……なんて。
蓮華が裏切られたから悪いんだよね?
そうだよね?
そうだと言って。
もう1人の私。

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