死にたがりの私
作者/桜

―4章― 13
私は、トイレには行かず、屋上へ行った。
屋上のドアを、ゆっくりと開いた。
古いのか、耳障りな音がした。
先の屋上に来ていた人が、その音で私の方へ振り向いた。
先に屋上に来ていた人、坂本春菜。
私は屋上のドアを閉じ、春菜に近づく。
春菜は、私が怖いかのように。
昔の私のように。
ただ、怯えているだけだった。
「……ここに居たんだ」
私は、感情をこめずに言った。
その言葉を聞いた春菜は、突然私に土下座をしてきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!!」
何回も、何回も謝りながら。
涙を流しながら。
「ごめんなさい!許して!私が悪いの!ごめんなさい!」
額を床に打ち付け、血を流しながら言った。
『許して』と。
私に、春菜をいじめる権利などないのに。
だから、許すも何も、ないのにね?
私は春菜から視線を外し、屋上のフェンスごしから下を覗いた。
「ここは、落ち着くね」
静かに、呟いた。
誰に向けてでもなく、ただ、呟いた。
「死に近い場所だからかな?」
私は、春菜に微笑んだ。
嘘ではない、真実の微笑み。
「ねぇ、春菜。死にたい?」
春菜は、涙を流しながら、小さく言った。
「死にたい。こんな苦しみの世界なんか嫌。早く、解放されたい。この生き地獄から」
昔の私と一緒。
生き地獄からの脱出する術は1つ、死ぬ事。
そう信じていた。
「なら、死ねばいい。死にたいんなら、死ねばいい。私は止めないよ?」
春菜は、驚いたような顔を私へ向けた。
「何、その顔は?止めてくれるとでも思ったの?」
春菜は、驚いた顔を、今度は哀しげな顔にした。
「それに、同情なんか望んでないでしょう?欲しいの?カタチだけの同情が?」
春菜は、何も言わない。
ただ、苦しそうに俯くだけ。
「『頑張って。これを乗り越えれば光はあるよ』なんて、綺麗事を言われて、どう?耐えられる?」
春菜は、両手で耳を押さえ、顔を横に振りながら、叫んだ。
「やめて!そんな事言わないで!私を苦しめないで!」
「それが現実でしょう?」
私は、春菜を苦しめる。
春菜は、蹲り、声を上げて泣いた。
今までの苦しみをさらけ出して。
私は、静かに屋上を出た。
春菜、苦しかったよね?
辛かったよね?
けれど、春菜に現実を見てもらえたかな?
死ぬ勇気がないという現実が。

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