死にたがりの私
作者/桜

―4章― 2
「……ごめんなさい」
私は涙を流しながら、かすれた声で言った。
偽りの涙。
皆が偽りで私と接するなら、私も偽りで接する。
「もう、しないよ……」
嘘だけど。
私は、心の中で言った。
しないかは、分からない。
だって自分が分からないから。
生きたいけれど、死にたいから。
両親は、私の嘘を信じてくれたみたい。
「もうしないでくれ。親を哀しませないでくれ……」
「穂乃実は私達の希望なのよ……」
両親が嘘を吐く。
どうでもいい言葉。
何故嘘を吐き続ける?
両親は、それから何か言っていたけど、私は聞き流しといた。
そして、両親は家に帰った。
私のもとから離れて行った。
それから何日後かは分からないけど、私は自分の間違いに気づいた。
別に、自殺したことが間違いだったわけじゃないよ?
ただ、飛び降りた場所が間違いだっただけで。
柔らかい草が生えた地面。
そこに落ちていたら、少しは重傷になってたかもね。
でも、私が落ちたのは背の低い木。
それも何本も並んでいるところに。
何て運が悪いんだろうって思う。
まぁ、あそこを選んだ自分が悪いんだけど。
分かっていたんだ、死ねないって。
あそこじゃ駄目だって。
でも、あそこを選んだ。
それは、怖かったから。
死にたくなかったから。
私は、生きたいのか死にたいのか。
はっきりしてほしいな。
……自分の事だけど。
それから数週間後、亜美達が私の病室を訪ねてきた。
私は、亜美達に笑顔を向けた。
もちろん、偽りの。
亜美達の顔は、恐怖で歪んだ。
何故そんなにも怖がるの?
「何の用?」
私は笑みを浮かべたまま、言った。
亜美は、土下座をした。
「ごめんなさい!!!!」
そう言って、何回も何回も。
涙を流しながら。
私は分かっていた。
この涙は、私への謝罪ではない。
自分が少年院に行くかもしれない、恐怖の涙。
亜美の取り巻き達も、次々と土下座をする。
『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』
聞き飽きる程、何回も繰り返す。
私は、笑みを崩さなかった。
そして、私は静かにこう言った。
「今までの事は、許してあげる」
嘘だけど。
亜美達が顔をあげる。
恐怖はなかった。
自分達は助かったのだと、安堵した顔だった。
私の事は気にしない、愚かな人達。
自分が良ければ、誰が傷ついてもかまわない人達。
亜美達は病室を出て行った。
私まで聞こえるような、大声で喋りながら。
私の今までの苦しみを知らないような、明るい声で。
私の心を傷つけた。

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