ダーク・ファンタジー小説

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この馬鹿馬鹿しい世界にも……【番外編追加】
日時: 2025/05/23 09:57
名前: ぶたの丸焼き (ID: 5xmy6iiG)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12919

 ※本作品は小説大会には参加致しません。


 ≪目次≫ >>343


 初めまして、ぶたの丸焼きです。
 初心者なので、わかりにくい表現などありましたら、ご指摘願います。
 感想等も、書き込んでくださると嬉しいです。

 この物語は長くなると思いますので、お付き合い、よろしくお願いします。



 ≪注意≫
 ・グロい表現があります。
 ・チートっぽいキャラが出ます。
 ・この物語は、意図的に伏線回収や謎の解明をしなかったりすることがあります。
 ・初投稿作のため、表現や物語の展開の仕方に問題があることが多々あります。作者は初心者です。
 ※調整中



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 ありがとうございますm(_ _)m
 励みになります!

 完結致しました。長期間に渡るご愛読、ありがとうございました。これからもバカセカをよろしくお願いします。

 ≪キャラ紹介≫
 花園はなぞの 日向ひなた
  天使のような金髪に青眼、美しい容姿を持つ。ただし、左目が白眼(生まれつき)。表情を動かすことはほとんどなく、また、動かしたとしても、その変化は非常にわかりづらい。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 笹木野ささきの 龍馬たつま
  通称、リュウ。闇と水を操る魔術師。性格は明るく優しいが、時折笑顔で物騒なことを言い出す。バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 あずま らん
  光と火を操る魔術師。魔法全般を操ることが出来るが、光と火以外は苦手とする。また、水が苦手で、泳げない。 バケガクのCクラス、Ⅱグループに所属する優等生。

 スナタ
  風を操る魔法使い。風以外の魔法は使えない。表情が豊かで性格は明るく、皆から好かれている。少し無茶をしがちだが、やるときはやる。バケガクのCクラス、Ⅲグループに所属する生徒。

 真白ましろ
  治療師ヒーラー。魔力保有量や身体能力に乏しく、唯一の才能といえる治療魔法すらも満足に使えない。おどおどしていて、人と接するのが苦手。バケガクのCクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

 ベル
  日向と本契約を交わしている光の隷属の精霊。温厚な性格で、日向の制止役。

 リン
  日向と仮契約を交わしている風の精霊。好奇心旺盛で、日向とはあまり性格が合わない。

 ジョーカー
  [ジェリーダンジョン]内で突如現れた、謎の人物。〈十の魔族〉の一人、〈黒の道化師〉。日向たちの秘密を知っている模様。リュウを狙う組織に属している。朝日との関わりを持つ。

 花園はなぞの 朝日あさひ
  日向の実の弟。とても姉想いで、リュウに嫉妬している。しかし、その想いには、なにやら裏があるようで? バケガクのGクラス、IVグループに所属する新入生。

 ???
  リュウと魂が同化した、リュウのもう一つの人格。どうして同化したのかは明らかになっていない。リュウに毛嫌いされている。

 ナギー
  真白と仮契約を結んでいる精霊。他の〈アンファン〉と違って、契約を解いたあとも記憶が保たれている不思議な精霊。真白に対しては協力的だったり無関心だったりと、対応が時々によって変わる。
  現在行方不明。

 レヴィアタン
  七つの大罪の一人で、嫉妬の悪魔。真白と契約を結んでいる。第三章時点では真白の持つペンダントに宿っている
が、現在は真白の意思を取り込み人格を乗っ取った。本来の姿は巨大な海蛇。

 学園長
  聖サルヴァツィオーネ学園、通称バケガクの学園長。本名、種族、年齢不明。使える魔法も全てが明らかになっている訳ではなく、謎が多い。時折意味深な発言をする。

 ビリキナ
  朝日と本契約を結んでいる闇の隷属の精霊。元は朝日の祖母の契約精霊であったが、彼女の死亡により契約主を変えた。朝日とともにジョーカーからの指令をこなす。朝日とは魔法の相性は良くないものの、付き合いは上手くやっている。

 ゼノイダ=パルファノエ
  朝日の唯一の友人。〈コールドシープ〉の一族で、大柄。バケガク保護児制度により学園から支援を受け、バケガク寮でくらしている。バケガクのGクラス、Ⅴグループに所属する劣等生。

≪その他≫
 ・小説用イラスト掲示板にイラストがありますので、気が向いたらぜひみてください。

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【完結】 ( No.345 )
日時: 2022/12/18 15:50
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: CFpxvhHi)

笹木野ささきの 龍馬たつま

○性別
 男

○年齢
 九十三歳

○外見
 快晴の空色を映したような短髪と水色の瞳。怪物族にしてはやや珍しい明るい色素を持つ。高身長で体つきもがっしりしている。容姿はかなり整っている方で女性から好意を寄せられることは多々ある。(しかし全身から滲み出る日向ファーストに引いて離れていかれる。)
 とある事情で右目だけほんの少し、ほんの少しだけ色が黒い……が本人以外は気づけないくらい、ほんの少し。

○種族
 吸血鬼族(人間とのハーフ)

○力
 主に闇と水を操る。純血の吸血鬼でないにも関わらず生まれ持った能力が高く、〔邪神の子〕という異名を持つほど。
 大きな鉄球付きの鎖を振り回す描写が作中にあることから腕力もなかなかあると思われる。

○家族構成
 シルヴス(祖父) 辰人たつと(父) ハヤ(母) 雅狼がろう(兄) 華弥かや(姉) 沙弥さや(姉) 真弥まや(姉) 龍馬 明虎あきと(弟)

○交友関係
 日向、蘭、スナタの三人とよく一緒にいる。むしろこの三人以外に友人らしい人物はいない。本人曰く日向は友人ではないらしい。他二名についても友人と呼べるのか自信を持てないでいるよう。
 男女問わず言い寄ってくるヒトはいるが自他ともに認める日向狂なのでこれから新たに交友関係を構築する気はない。

○生い立ち
 怪物族の中でも高位の種族〈吸血鬼族〉の中でもさらに高位の家系、『吸血鬼五大勢力』の一つにも数えられる名家中の名家『カツェランフォート』の第五子として生を受けた。幼少期はなにに対しても無気力で、折角の生まれ持った高い能力も存分に発揮することがなく、周囲からは宝の持ち腐れだと非難されていた。日向と出会ったことで生き生きしだしたが、今度は影で人間に現を抜かすカツェランフォートの恥さらしと言われているとか言われていないとか。

○概要
 聖サルヴァツィオーネ学園に通う、ⅡグループCクラスの優等生。
 日向たちからは『リュウ』というあだ名で呼ばれている。
 作中数多くいる日向依存者の筆頭。基本日向のことしか考えていない。自分のことも含め、なによりもまず日向日向日向。日向に対して抱いている感情にいまのところ名前はない。ただひたすらに日向を『愛している』。そして日向狂の中で唯一日向に愛されている人物でもある。
 二重人格者であり、時々人格が交代する。裏人格とは互いに嫌いあっているが仲がいいように見えなくもない。しかしあくまで裏人格と離れたがっており、その方法を日々捜し求めている。
 日向依存者筆頭。

○作者からのコメント
 日向、リュウ、蘭、スナタの四人の中で、リュウだけが知らない三人だけの秘密があるらしいことが作中で匂わされています。そのことに悶々としつつそれが日向の口から語られることをひたすらに待つ、健気なキャラ。かわいい。たまに日向愛が破裂して早口になるところが好きです。
 まだバカセカの方向性が定まっていなかった連載初期は日向と恋愛関係を築く可能性があった。今では考えられん。日向はみんなの日向なんだ。

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【完結】 ( No.346 )
日時: 2022/12/20 20:26
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: CFpxvhHi)

あずま らん

○性別
 男

○年齢
 三十一歳

○外見
 頭頂部から毛先にかけて金から橙のグラデーションになっている特殊な髪色を持つ(魔力非混融症の症状)。瞳は赤みの強い橙色。成長が遅く小柄で、童顔ということもあり年齢よりも幼く見られる。筋肉はあるがなかなか見た目に反映されずに体はあまり大きくならない。必要時以外は実は引きこもり傾向にあるので肌もあまり焼けておらず、白い(元々の体質もある)。

○種族
 天陽族

○力
 主に光魔法と火魔法を操る。他にも風、土を操ることが出来るが滅多に使用しない。水は本人が毛嫌いしていて習得していない。生まれつき魔力保有量が多く純度の高い魔法を放つことが出来る。破壊力の高い攻撃魔法が得意。

○家族構成
 血族
 はる(祖父) 菖蒲あやめ(祖母) りん(父) 紫蘭しらん(母) 蘭 彗星さとせ(弟) 美世みよ(異母妹)

 その他
 ミューカ(父の愛人)
 ハルヤ(ミューカの娘)

○交友関係
 日向、リュウ、スナタの三人とよく一緒にいる。むしろこの三人以外に友人らしい人物はいない。本人も必要としていない。人嫌いで人から好かれる努力を微塵もしないため嫌われ者。外見が良いので釣られる人もいるが、そういう人は怒鳴るか舌打ちをするかで追い返している。初対面に対しては何故か猫を被るがすぐに本性をあらわにするので結局嫌われる。

○生い立ち
 大陸ファーストの権力者『六大家』の一つ、『東家』の長男として誕生。両親は政略結婚で、愛のない家庭に生まれた。父は蘭に無関心で、母は愛するというよりは蘭に依存しており、煩わしく思っていた。それでも母と弟である彗星のことは家族としてそれなりに愛している。生まれながらに持っていた高い魔法の才能によりかつては〔神童〕と呼ばれていたが、家系の能力【呪解】を不得手とするため早々に見放され、冷たい幼少期を過ごす。
 やがて父が愛人を作るなどして長年の鬱憤が積もりに積もり、日向のバケガク入学をきっかけに実質実家と絶縁して家を飛び出しバケガクに入学した。

○概要
 聖サルヴァツィオーネ学園に通う、ⅡグループCクラスの優等生。
 本作の主人公、花園日向の幼馴染であり、日向の家族を除けば日向と最も付き合いの長い人物。日向からの信頼もリュウやスナタより厚い。日向を大切に思っているが、その愛情は他の登場人物たちとは種類が微妙に異なる。
 幼少期に温かい人情に触れる機会が少なかったため人と関わることを嫌い、他者に滅多に心を開かない。他者からの評価を欠片ほども気にかけず人当たりが悪いので嫌われ者。
 水が嫌いで、泳げない。
 
○作者からのコメント
 魔力非混融症とか日向と幼なじみとか、もっと活かしたい設定があったキャラ。書き直しでは改善する予定。水嫌いのカナヅチ、名前、ミートボール等、バカセカの中ではネタが多いキャラ。これで多い方なのか……。完結後しばらく蘭熱が激しかった作者です。
朝日「東蘭は姉ちゃんに似ている気がする。達観しているというか、無欲というか」
蘭「おれのミートボール……」
作者「無欲とは?」

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【完結】 ( No.347 )
日時: 2022/12/29 20:56
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: b/Lemeyt)

《スナタ》

○性別
 女

○年齢
 十九歳

○外見
 柔らかな桜色の長髪ストレートヘアと特徴的な銀灰色の瞳を持つ。大柄でもなく小柄でもなく平々凡々な身長。顔はどちらかと言えば整っている方。元々筋肉質だったが別のものに変わりつつある。自分では太っていると思っているがむしろ平均よりやや痩せている。

○種族
 バルバル人

○力
 風の魔法を扱う。実力は中程度で特別優れているわけでもなければ劣っているわけでもない。風そのものを動かす魔法を使うことが多く、複雑な魔法(応用魔法など)は苦手。女性の中では腕力がある方。

○家族構成
 ロト(父) シユ(母) スベガ(長男) エンサ(次男) リー(長女) (スナタ)(次女) モニア(三男) ルナ(三女) トナ(四男) バソ(五男)

○交友関係
 日向、リュウ、スナタの三人とよく一緒にいる。むしろこの三人以外に友人らしい人物はいない。コミュニケーション能力は高い方だが、スペックの高い蘭(とリュウ)と仲がいいことが原因で陰で『ぶりっ子』と言われて主に女子生徒から嫌われている。それを寂しく感じながらも悲観的に捉えないようにしている。
 
○生い立ち
 放牧国家[ナームンフォンギ]の大家族の次女として生を受ける。平和でのんびりとした日常を過ごしていたがある日バケガクからの『案内状』が届き、バケガクへの入学を決意。その際に家族(特に両親)と衝突し家出同然でバケガクを訪れてそのまま寮暮らし。家族仲は頻繁に文通する程度に回復している。

○概要
 聖サルヴァツィオーネ学園に通う、ⅢグループCクラスの女子生徒。
 チートキャラが多いバカセカには珍しい一般人枠。明るく前向きで優しい性格で、他三人と出会っていなければクラスの人気者だったと思われる。甘いものと流行りものが好き。
 例に漏れず日向のことが大好き。リュウと蘭が直接日向の役に立っているのに対して自分が力足らずなことを自覚し、多少二人に劣等感を抱いている。
 
○作者からのコメント
 一般人です。スナタは一般人なのです。リュウとだって仲良しですよ。はい。
 本編であまりスナタに焦点を合わせた話が書けなかったのでそれが惜しい。書き直しでは出番を増やす予定です。スナタというキャラクター自体がプリンくらいしか固まっていないのでコメント出来ることが少ない……(話すことはあるがネタバレ防止のため話せない)。
 とにかくかわいいかわいいキャラクターです。

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【完結】 ( No.348 )
日時: 2025/05/23 09:50
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 5xmy6iiG)

《番外編 風邪》

「朝日」
 お昼ご飯を作っている最中に姉ちゃんに呼ばれた。振り向いた拍子にほんの少し視界が揺らぐ。無意識に頭を押さえて、それから返事をした。
「なぁに? 姉ちゃん」
 ソファに座って本を読んでいたはずの姉ちゃんがすぐ近くに来ていた。珍しい。ボクから姉ちゃんの方に行くことは多くてもその逆はあまりない。そういえば今日はずっとリビングに居る。これも珍しい。ボクが呼びに行った時以外はずっと自分の部屋に籠りきりなのに、用事もなくずっと本を読んでいた。どうしたんだろう。
「わっ」
 急に目の前に姉ちゃんの手が迫る。驚いて咄嗟に目を閉じた。直後ひんやりとした感触を額に感じた。姉ちゃんの体温はいつも低いけど、今日はそれよりも冷たく感じる。それで大体のことは察した。
「熱がある」
 ただ一言、姉ちゃんはそう言った。
 朝から何となく違和感はあったんだ。立ち上がると軽い立ち眩みがしたし、普段より動きが鈍い自覚もあった。大したことないと思ってたけど、そっか。姉ちゃんから見ても分かるくらいなら、ボクが思っていたより体調は悪いのかもしれない。今度はボクの首に手を当てる姉ちゃんをぼーっと見ながらそう思った。
「風邪引いちゃったかも」
「そうだろうね」
「気を付けてたんだけどなー」
 だって、ボクが動けなくなったら姉ちゃんは人間じゃない生活に戻ってしまうから。ご飯は食べない。寝もしない。ただただ本を読んで過ごす。本が好きというわけでもないくせに。
「これが終わったら部屋で大人しくしてるよ。もうすぐ出来るし」
 今日のご飯は肉じゃがだ。ちゃんと魚や海藻から出汁を取るところから作っている。折角拘ったのに姉ちゃんに任せたら台無しにされそうだ。姉ちゃんには美味しいものを食べて欲しい。

「だめ」
 姉ちゃんの何を考えているのかよく分からない虚無の目が、ボクを見ている。表情も人形みたいに少しも変わらなくて、喋るために口が動いているのが逆に違和感だ。
「心配してくれてるの?」
 とてもそうは見えないけれど。声音も常に一定で、やっぱり姉ちゃんの考えていることは分からない。他の人なら。でもボクは違う。ボクは姉ちゃんの弟だから。
「うん」
 やっぱりそうだった。口角が上がったのを自覚する。
「へへ、そっか」
 ボクはコンロの火を消した。
「じゃあ休むけど……姉ちゃん、これの続き作れる? まだ野菜固いから食べちゃダメだよ。コンロの使い方分かる? 多分使ったことないでしょ」
「大丈夫」
「ほんとにぃー?」
 間髪入れずに言うけど疑わしい。姉ちゃんのことだから、ボクが居なくなったらお鍋の中のものをそのまま食べそうだ。味付けだってまだ終わってない。さっきはもうすぐ出来るって言ったけど、そんなことない。ああ言って誤魔化して取り敢えずご飯は作っておきたかった。姉ちゃんは自炊の経験無さそうだし……ちゃんとまともなもの食べて欲しいのに、当の本人は胃の中に入れば全部一緒だと思ってるらしい。ボクが居なくなったら人参まるかじりとかやりそうだ。
「大丈夫」
 おそらく姉ちゃんもご飯が終わりかけではなくかなり途中だってことを分かっている。姉ちゃん、知識は豊富だから。姉ちゃんはボクの嘘が分かるのにボクは分からない。姉ちゃんの目を覗き込んでも、そこに感情なんてものは一切映ってないから。
 だから、ボクは姉ちゃんを信じるしかないんだ。
「ん。分かったよ。ちゃんと食べてね。折角作ったんだから美味しく食べてくれないと、ボク悲しいよ」
 ボクは知っている。心配だからちゃんと食べてっていうより、ボクが悲しいって言う方が姉ちゃんには効く。
「……分かった」
 今度は返事が少し遅かった。やっぱり絶対このまま食べようとしてたな! 野菜を煮込むくらいはしてくれたかもしれないけど。
「朝日、そろそろ戻って」
「んー、そうだね。ちょっとふらふらしてきたかも」
 最後にもう一度、「ちゃんと食べてね」と伝えてボクは自室に戻った。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 とはいえただの風邪だ。大人しく寝ていればすぐに良くなる。さっきの姉ちゃんは、姉ちゃんにしては大げさだった。きっとああやって姉ちゃんが心配するのは弟のボクくらい……。
 ……『ヤツ』の顔が脳裏に浮かんで、布団を頭から被った。
 多分アイツが体調を崩したら、ボクよりもっと心配するんだろうな。さっきまで気分良かったのに。きっと熱があるからネガティブになっているんだ。うん。寝よう。そう思うのにもやもやが止まらない。いっそ起きて勉強でもしていようかな。悪化したら姉ちゃんが心配してくれるかもしれないし。

「それいいかも」

 ぽつ、と呟いて、ボクは体を起こした。立ち眩みみたいな目眩がする。でもまだ酷いものじゃない。えっと確か、来週歴史の小テストがあった気がする。対策はしてあるけど教科書を読んでおこう。そう思って立ち上がろうとした時、扉がノックされた。
「姉ちゃん?」
 どうしたんだろう。やっぱりコンロの使い方が分からなかったのかな。冗談だったのに。いや、それはないな。もし仮にコンロの使い方が分からなかったのだとしたら、姉ちゃんはまず調理を諦める。
「入っていいよ」
 ボクが言うと、扉が開く。その先に居たのは当然ながら姉ちゃんだ。姉ちゃんだけど、でもその姿を見てほっとする。
「氷嚢持ってきた。あとこれ食べて」
 姉ちゃんがベッド近くの小さな机の上に茶碗とスプーンを置いた。……て、え?
 それはどう見てもおかゆだった。ちゃんと湯気が立っていて、卵も乗っていた。見る限りでは水分が多すぎるということも無さそうだ。
「なにこれ?」
「おかゆ」
「それは見たらわかるって」
「?」
 姉ちゃんがきょとんとした顔をする。眉一つ動いてはいないけど、ボクの言葉の意味が分からないという気持ちは伝わった。
「姉ちゃん、まとなご飯作れたの?! ちゃんと美味しそうなのびっくりだよ」
「うん」
「もうちょっとなんか言ってよ……」
 ああそうだった。姉ちゃんは豊富な知識を持っている。足りないのはやる気だ。姉ちゃんなら作ったことない料理でも完璧に作ることが出来るんだろう。だって姉ちゃんだから。姉ちゃんは凄い人だ。当たり前すぎて忘れていた。
「食欲あったら食べて。また後で来る。残ってたら片付ける」
 なんだか事務的な言い方だ。姉ちゃんがそういう人だっていうのは知っている。知っている、けれど。
「待って」
 部屋から出て行こうとする姉ちゃんの背中に向かって言う。姉ちゃんは立ち止まって、振り返ってくれた。
「なに?」
 感情のこもらない姉ちゃんの声。実際姉ちゃんは何も思っていないってことは分かっているのに、突き放されていると錯覚してしまう。熱があるから、思考がネガティブになってしまう。
「もうちょっと……ここに居て」
 そう言ったボクの声は、思っていたより小さかった。でも姉ちゃんには届いたらしい。姉ちゃんとの距離が縮まって、姉ちゃんはベッドに座るボクのとなりに腰掛ける。
「……」
 何か言いたげに姉ちゃんがボクを見る。でも何も言わない。なんだろ、あ、おかゆ食べて欲しいのかな。
「おかゆありがとう。いただきます」
 手を合わせてから茶碗を持って、スプーンでおかゆを掬った。茶碗からじんわりと熱が伝わってなんだか心地いい。そう言えば、おじいちゃんと暮らしていた時は毒見が終わった冷えたご飯ばかり食べていた。こんな温かいご飯は出なかった。ううん、それ以前に姉ちゃんがボクにご飯を作ってくれたのなんて初めてだ。それだけで充分温かい気持ちで満たされる。
 数回息を吹きかけて、口の中に入れる。ちゃんと出汁が効いているし、卵の火加減も絶妙だ。ボクが何もしなければ生野菜をまるかじりして栄養を取った気でいそうな姉ちゃんが作ったとは到底思えない。姉ちゃんは自分に対してこんな労力は使わない。アイツだって、姉ちゃんの手料理を食べたことなんて無いだろう。
「美味しい……」
 ボクがそう言っても姉ちゃんの表情筋は少しも動かない。ただじっとボクを見ている。こういうことはあまりないからちょっと緊張するな。
「昔ボクがこんな風に体調を崩した時は、おかゆなんて作ってくれたことなかったよね」
「必要無かったから」
 そう。姉ちゃんの看病は必要無かった。本家に居た時もこの家で暮らしていた時も、使用人や両親がボクの看病をして、白眼で不吉な姉ちゃんはいつもに増してボクから遠ざけられた。姉ちゃんが居ると病状が悪化するとか回復が遅れるとか散々な言い様で。姉ちゃんはその時も、少しも表情を動かさず無言でボクから距離を取った。それが今では、こんなに近くに居てくれる。
「姉ちゃん。ボク、すごく嬉しいよ」
 おかゆが喉元を過ぎて、お腹に落ちて、その熱が体中に行き渡る。その心地良さの余韻に浸り、姉ちゃんの肩に寄り掛かった。
「……そう」
 姉ちゃんはそれだけ言って、また黙る。でも拒絶はしない。それだけで充分だった。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「ご馳走様でした」
「じゃあ寝て」
 姉ちゃんは食器を持って立ち上がる。あまりに早い行動に一瞬呆気に取られた。しかし慌てて姉ちゃんに声を掛ける。
「え、戻っちゃうの?」
「うん」
 即答だった。姉ちゃんが忙しいってことはないはず。姉ちゃんは暇人だから。多分姉ちゃんはボクから距離を取りたいんだろう。そういう気配は常に感じている。昔からそうだった。ずっと同じ家に居ると姉ちゃんに風邪が移っちゃうかもしれないからボクとしても別の部屋に行ってもらうのが良いとは思う。ボクと一緒に暮らすようになるまでぐちゃぐちゃな生活習慣で暮らしていた姉ちゃんだから多分免疫力弱いだろうし。
「でも……」
 無意識に声が漏れていた。だけどそれ以上は出てこない。姉ちゃんがボクとあまり深く関わりたがっていないことは確かだ。ボクはそれが悲しいし、姉ちゃんとはもっと仲良くしたい。本音を言えばもうちょっと傍に居て欲しい。熱があるから弱虫になってるな。でもおかゆ作ってくれたし食べ終わるまでここに居てくれたし、これ以上我儘を言うのは良くないかもしれない。
 姉ちゃんに、嫌われるかもしれない。そう思うと、声が出てこなかった。
「顔色が悪い。寝た方が良い」
 姉ちゃんがボクの額を軽く押して、ボクは布団の上に倒れ込んだ。姉ちゃんが掛け布団を被せてくれる。そしてそのまま姉ちゃんの手が、ボクの頭に伸びてきた。
 多分いま、すごくびっくりした顔をしてると思う。対して姉ちゃんはやっぱり無表情。
「子守唄でも歌おうか?」
 頭を撫でるのを止めて、ボクの手を握った姉ちゃんが言った。

「…………うん、お願い」

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【番外編追加】 ( No.349 )
日時: 2025/05/25 08:16
名前: ぶたの丸焼き ◆O5JXAtSDNY (ID: q9W3Aa/j)

てすと1234


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