― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

第9夜



―私は・・・・・

  囚われし者に同情出来るようになるのか

   囚われし者など・・・

  私の傍に居るだろうか―


「お前はそぉだなぁ・・・
 セリーヌって奴と同じ瞳の色にしてやろうかぁ?」

ロードが言う。


「・・・・どうでもいいわ・・・そんなコト・・・
 好きにして頂戴」

ファルは呆れたように言った。


「じゃぁ・・・深紅がいいかぁ?
 髪の色は深緑に黒をかけたような色でいーかぁ♪

 お前せっかく髪長いからぁ・・・

 巻き髪にしてやるよぉ♪」

ロードが楽しそうにピッピッと決めて行く。


「肌の色は死んでる程真っ白♪
 まつ毛長くて目を大きくしよぉっと♪」

ロードは私の前に手を出す。


とっさに視界がぼやけて来た。


ロードが指先を動かす。



濃紺の瞳を深紅に染めた。


まつ毛がピンと張られ、切れ目で大きい、前以上に冷酷な目。


そして長い黒髪が上から順々に深緑に染まって行く。


黒いけれど緑が入っている、そんな色。


ツインテールに束ねていた腰下まである長い髪はさらに長く伸びた。


肌は前よりも白い。


白いというより、蒼白いと言った方が正しいだろう。


「出来たァ♪
 後はオシャレして名前をつけるだけだねぇ♪」

ロードが嬉しそうに言う。


「お前は本物のお人形にしてやるよぉ♪」

虚ろで紅い目を輝かせたファル。


一瞬だけ、その長い深緑の髪を靡かせた。



第10夜



「そーだなぁ♪
 お前は特別に深緑と黒を着せてやるよ♪」

ロードが楽しそうに服を選んでいる。


「よォ、ロード・・・
 お前さっきからこんな所で何してんだぁ?
 ずいぶんと楽しそうじゃねぇか」

ドアの前に立っていたのはデビットだった。


「コイツの服選びだよぉ♪
 デビットも見た通り、コイツの外見をムッチャクチャに打っ壊すんだよぉ~♪」

ロードが飴を嘗めながら言う。


「お!!いーもん発見!」

デビットが目をさらに大きくしてある一着の洋服に目をつけた。


「こんなもんどーだ?」

デビットが服をロードに見せた。


デビットが掴んだ服は、ファルの髪の色と同じような色のドレスだった。


長袖で裾に黒いレースが使われている。


真ん中に細い紐でリボンが作られていて、後ろの腰部には大きなリボンがついていた。


胸から足首の辺りまで白い紐がクロスして通っていた。


「お♪いーの見つけたじゃーん?
 じゃー靴は・・・

 これがいーねぇ♪」

ロードが出して来た靴はヒールの高いブーツだった。


横に緑色のリボンが付いていて、全体的に深緑。


「じゃぁこれを・・・よっとぉ♪」


ロードが服とブーツを飛ばせてファルに身に着けさせた。


手足を拘束されているファルは、体はピクリとも動かず、ドレスのスカートだけが揺れた。


「髪は巻き髪にして・・・
 リボンは緑色ぉ♪」

長い緑色のリボンを出して来て、ファルの目の前に持って来たロード。


そしてさっきと同じように指先を動かす。


リボンが龍のように動いて、ファルの髪に結びつく。


髪がポンと巻き髪になる。



「あははは♪
 お前の名前は・・・そーだなぁ・・・
 
 ティアナ・コールなんてどーぉ?」

ロードが出来上がったファルを見て言う。


「記憶を消して出来上がりぃ♪」

ロードは指をスルリとこちらに向けるように動かした。


咄嗟に白い煙のようなものが抜け、空気に溶けて消えた。


首をカクリと下に落としている。


「お前の名は?」

ロードがファルの耳元で言う。


「・・・ティアナ・・・コール・・・」


少女はゆっくりと顔を上げた。


虚ろで深紅の切れ目の瞳が怪しく光った。



彼女は紛れも無い人形のようだった。


そして少女は笑う。



「御機嫌よう・・・ロード様」


と。



第11夜



深紅色の瞳は全てを見抜くように繊細で、


動くたびに揺れる深緑の長い髪。



前までのファルとはまるで別人だ。


「・・・いい子だねぇ・・・♪
 拘束解いてあげるよぉ♪

 その代わり、余計な物には手出ししないでねぇ♪」

ロードが言う。


「かしこまりました・・・ロード様・・・」

操られたような虚ろな目では無い、深紅色の繊細な目で笑った。


コッコッコッコッ・・・


廊下を歩いて向かう先は、ノアが集まる部屋―――。



大きな扉の前でピタリと足を止めた。


コンコン・・・


「入りなサイ♪」


伯爵の声。


「入らせていただきます・・・ノア様・・・伯爵様」

蒼白い手でそっと扉を開けた。


扉を開いた先は、13席のうち2席が空席になっていて、浅黒い肌をした人間達が座っている・・・そんな光景だった。


「誰ですカ、君ハ?」

伯爵が笑う。


「ティアナでございますわ・・・伯爵様」

少女は笑う。


「アァ、ファルですカ♪
 一番端の椅子に座りなサイ♪」

伯爵が一番端の席を指差した。


「失礼いたします」

少女がドレスのスカートを持って一礼すると、歩く音を響かせて席に着いた。


「千年公、あれ改造し過ぎじゃねぇの?」

とタバコを銜えた少年が言う。


「そんなコトありませんヨ♪
 原形が見えたら大変ですからネ♪」

伯爵が笑う。


「終わったよォ、伯爵ぅ♪」

ドアの向こうからロードが現われる。


「改造お疲れ様デシタ♪ロード。
 任務お疲れ様デシタ♪デビット」

伯爵は言う。


デビットは無言で席に着いた。


「記憶にはノアに有利なものばっか入ってるよぉ♪
 後戦闘技術は最高値に設定してあるからァ♪」

ロードが飴を嘗めながら言う。


「舌切らないようにお気をつけ下さいませ・・・
 ロード様」

ファル・・・いや、ティアナと言った方がいいのだろうか。


ティアナは首を軽くかしげながら言った。


「ありがとぉ、ティアナぁ・・・
 おーい、もう1個飴あるぅ?

 あったらティアナにあげてよぉ」

アクマのメイドに言いつけるロード。


おでこに星のついたメイドは青い飴を一つ持って来て、ティアナの前に差し出した。


「有難う・・・」

アクマの手からそっと飴を手に取った。


「お前みたいないい子ちゃんには飴あげるよぉ♪」

ロードが言う。


「有難うございます・・・ロード様」

ティアナは飴を一口口にした。


「・・・甘い・・・」


それは、何処かの何かの味を思い出すような感覚だった。