― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

第5章 序章



「・・・ねぇ・・・セリーヌは?」


リリーがアレンに訊ねる。


「・・・知りません」

「そうですよぉ・・・。
 アレンは何も知りませんよ?」

食堂で会った時からべったりなレイア。


今朝の出来事が原因なんだろう。


私は何か食べる気にもなれず、紅茶をちびちびと飲んでいた。



「セリー・・・・ヌ?」


レイリーが私の顔を覗き込む。




私は涙が零れ落ちている事さえ気付いてなかったのだ。



ポチャン・・・



ずっと持っていた紅茶の入った紙コップに、涙が零れ落ちた――――。



第1夜



「・・・セリーヌ・・・。セリーヌ?」


アレンが何度もセリーヌの名を呼ぶ。


「・・・それとも何ですか?
 僕がそんなに嫌いだからそんな事してるんですか?」

アレンが冷たく言う。


その冷たい発言にセリーヌは見向きもしなかった。


「やっぱりそうなんですね」


アレンが冷たく捨てゼリフを吐いた。


「・・・アレン・・・!!」


リリーがアレンを見つめた。


パシッ!!



すぐに手が飛んで来た。


「・・・ッ・・・」


リリーが右手を大事そうに抱えると、レイアを睨んだ。


「・・・アレンの気持ちも分からないくせに言わないで」


レイアが言った。


「ッ!!あんたこそ!!!」


ファルが机をバンッと叩いて叫んだ。


「あんたこそなぁに?」


レイアがわざとらしく微笑みながら言う。


レイアのあまりにも強気な態度にファルが殴り掛かろうとした。



「さっきからなぁに?」


冷たい声が空気を引き裂く。


8人はその声がした方向へゆっくりと振向く。


「私争いごと嫌いなのよねー・・・。
 煩いのも嫌いだしー・・・?

 それとも貴方達の体を引き裂いてボロボロにするショーでもやって欲しい?」


恐ろしい形相で睨む女。


「だ・・・誰??」


レイリーが小さな声でリリーに訊ねる。


「・・・忍ちゃんよ・・・。
 通称神田の次に怖いエクソシスト・・・。

 前ショーの実験台になって骨折った子が居るらしいわ・・・」

「ひゃー・・・怖いねぇ・・・」

ファルとレイリーとリリーが対談していた時。


「其処!!ごちゃごちゃ言わない!!!」


忍が3人を指差して言った。


「「「はっ、はいぃぃぃ!!!!」」」


3人の声が引き攣った。


忍がセリーヌの元に近付く。



「そんな所で泣いていると涙が枯れるわよ」


忍がセリーヌの耳元で囁くと、そっと団服のコートを掛けた。


目がかっと開いて忍を見た。


「・・・」


忍はそんなセリーヌに微笑むと食堂を去って行った。


セリーヌはそっとコートに触れる。



微かな温もりが感じられた。



「よかったね・・・・セリーヌ」


リリーが言った。


「ッ・・・ううッ・・・」


セリーヌの瞳からますます涙が溢れ出す。


「ふッ・・・ふぇぁっ・・・・」


忍にかけて貰ったコートをぎゅっと握り締める。



今のセリーヌには一言の励ましの言葉が涙が出るほど嬉しかったのだ。


泣き続けるセリーヌをリリー達は痛々しく見ていた。



レイアとアレン以外は――――。



第2夜 ―アレンside―



レイアは相変わらず僕の右腕に腕を絡めてご機嫌だった。


そしていかにも、〝ざまあみろ〟というような目でセリーヌを見ていた――――。



こんな事をして何があるか分からない。


『逃げてる』



そんな事も分かっている。


僕はセリーヌから逃げている。


そして、生活からも逃げているような気がした―――。


「・・・卑怯よねぇ・・・。
 あんな風に人の手を借りるなんて・・・。

 まるで逃げてるみたいじゃない・・・。

 醜いね・・・アレン」

レイアが言った。


「・・・」


僕は黙って頷いた。


まるで僕の事を言われているかのように、ドクドクと大きく心臓が脈打っていた―――。



リリーは泣き続けるセリーヌの背中を叩きながら、横目で僕を睨んだ。


気持ちを読み取られた・・・



そんな気がして思わず席を立ち上がった。


「ちょっと・・・アレン?!何処行くの・・・?」


そう戸惑いながらも着いて来るレイア。



食堂を出て、自分の部屋の前に着いた。


アレンは操られたように自室へと足を運ぶ。



レイアが息を切らしながらアレンの部屋へと入って来た。


「・・・アレン・・・!!
 いきなりどうしたの・・・?

 急に食堂を飛び出し・・・んっ・・・」


がむしゃらにレイアにキスをする。


「んっ・・・あっ・・・・アレン・・・」



――そんな声出すなよ。


そんな声出されたら狂ってしまう。


僕自身を見失ってしまう―――。


「んあっ・・・」


止めろ、止めてくれ―――。


「アれん・・・」



―動き始めた狂い時計

  時計は止まる

   時計止まる時僕の思考が止まる

  時計はまた狂いだす

   時計狂う時僕の心も狂いだす

  そして時計は時間を刻む

   僕の心の時計はもう時は刻めないだろう―