― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

元通りに戻らなくてもいい

 たとえ魂だけになってもいい

 どんなになってもいいからだから

 私を帰して

 ※一部GL表現有



第18夜 ―セリーヌside―



「・・・・・・来ないで・・・・」


 セリーヌは壁に繋がれた首を震わせる。


「大丈夫・・・・僕は何もしない」


 蒼嬢はソロリソロリとセリーヌに近付く。


 顔を震えるセリーヌの目の前に近付ける。



「・・・・君の武器から神の結晶を取らせて頂いた。
 いやぁ・・・実に不思議な物質だよ。

 そして・・・・力が強い物質だ」


 蒼嬢は笑う。


「だっ・・・黙れ!!!」


 セリーヌは悲鳴のような声を上げる。


「怖がらないでいい・・・・
 そんなに泣いていては心が枯れてしまう」


 蒼嬢は滝のように流れるセリーヌの涙を指で拭う。


「っ・・・・」


 その言葉にセリーヌの涙は自然と止まった。


「・・・・理解の得やすい人だ」


 蒼嬢はそういうとセリーヌの唇に自らの唇を重ねる。



「んっ・・・ふぁ・・・・」


 舌が入って来る為、自然と声が出る。



 出て来る声を必死で押し殺そうとした。



「本当に可愛らしい人だ・・・
 こんなにも可愛らしい君を恋人に出来る彼が憎いね」


 蒼嬢は息を切らしながら涙を零すセリーヌを見つめて言った。


 そして流れる涙を蒼嬢が舌で舐め取る。


「そんなに泣かないでおくれよ・・・・
 理性を失ってしまう」


 蒼嬢はそういうと再び唇を重ねる。


「んぅ・・・・ふぁっぅ・・・・ん・・・」


 言葉にならない奇声を発する。



 蒼嬢がセリーヌの服に手を掛けた時――――。






 コンコン


「蒼嬢、神の結晶の研究結果が出たわ。
 今すぐ来て頂戴」


 ドアの向こうから翠嬢の声がした。


 蒼嬢は唇を離した。



 銀色の糸がセリーヌと蒼嬢を繋ぐ。


 蒼嬢は舌打ちをすると舌なめずりをして言った。



「僕は大事な用事があるからね・・・・
 次に僕がこの部屋に来たときは・・・・

 セリーヌ、君は僕のものだ。

 GooDby・・・my.princess・・・」


 蒼嬢は軽くセリーヌの唇にキスを落とすと、部屋を出て行った。



 誰も居なくなった灰色の部屋の床に、一雫の涙が零れた。


「・・・ッ・・・・うぅっ・・・・」


 見知らぬ相手のキスに、性感を感じてしまった。



 アレン以外のキスを、もう一度して欲しいと一瞬願ってしまった――――。




 青色の温もりが残された部屋の唯一の悔いだった。




―温もりが残ってる

  他人との唇の温もりが


  キスだけでも

   こんなにも重過ぎるモノ―



 ドアの前に現れた君

 声は通じるはずも無い事

 そんなことは分かってるはずなのに

 それでも君を抱き締めたい・・・

 そして理性がつかなくなってしまう――――。



第19夜



 コッ・・・


 灰色の部屋に足音が響いた。



 ふと私の涙が止まり、ドアの方を向く。


「・・・セリーヌ・・・・」


 そこには、アレンの姿があった。



「アレン・・・?」


 姿はアレンだけれど、何処かが違っていた。


「セリーヌ・・・今助けますからね・・・・」


 顔をあげたアレンが笑う。


「アレン・・・よかった・・・・」


 優しいアレンの微笑みに、涙を流す私。



「セリーヌ・・・」


 アレンの優しい声。


 抱き締められて、思わず目を瞑った。




 ザクッ




 突然腹に痛みが走り、鈍い音が響いた。


 私は表情を変えて、恐る恐る下を見る。




 視界がぼやけていく。



 







 一体これは――――――――?










「・・・・・・・・ヌ・・・・セリーヌ・・・?」


 気が付けば明るい部屋。



 綺麗な景色が広がっていて、上に見えるのはアレンの顔。


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!」



 セリーヌは叫んで、壁に向かってアレンから逃げる。


 息を切らして、涙ながらにアレンを睨む。



 あの夢のせいで、まともなアレンでさえも見分けられなくなっていたのだ。


「・・・・セリーヌ?」


 アレンは心配に思い、セリーヌに近付く。



「いやぁぁぁぁぁ!!!
 来ないで・・・・来ないで来ないで・・・!!」


 セリーヌの目から涙が零れ落ちる。


 セリーヌの首は壁に繋がれたまま、足も手も拘束されたままだ。



「セリーヌ?
 僕の事分かりますか・・・・?」


 アレンが目の前で手を振る。


 今のセリーヌには手を目で追う余裕もなかった。



「来ないで!!
 これ以上近付かないで!!!来ないでッ!!!」


 どんどん近付いて来るアレンに、セリーヌは体を縮ませる。


 セリーヌは、自分が2週間も眠っていたのを覚えていなかった。



 憶えたのは、あの夢の鮮明さと恐怖だけ。



 小刻みに震えるセリーヌを、アレンがそっと包み込むように抱き締めた。



「いやあぁぁぁぁぁ!!!
 放して!!放してよ!!うわぁぁぁあぁぁ!!!!」


 セリーヌはアレンの腕の中でじたばたと暴れる。


 アレンはそんなセリーヌをぎゅっと強く抱き締めた。



 突然、セリーヌの力が弱まる。


「セリーヌ・・・分かりますか?
 貴女は薬でずっと此処で眠っていました。

 そして貴女は怖い夢を見た。
 違いますか?」


 アレンはセリーヌの耳元で言う。



 セリーヌもやっと真のアレンだと分かって、そっと頷いた。


「大丈夫です・・・・
 もう絶対に・・・この腕から君を放さない」


 アレンの言葉に、思わず涙が零れる。


「うっ・・・アレン・・・・」


 好きなキモチ、こんなにも愛おしすぎて言葉に出来ない。



 こんなにも助けに来てくれたことがうれしくて、〝有難う〟って言えない。



 こんなにも君の温もりが温かくて、抱き締め返す事が出来ない。



「セリーヌ、好きです」


 アレンの言葉。



「そんな事言わないでよ」


「・・・・どうしてですか?」



「理性がつかなくなっちゃう・・・///」


「それはこっちのセリフです」


 アレンが笑う。



「・・・・セリーヌ」


「な・・・・」



 セリーヌの言葉を、アレンの唇が塞いだ。


 そのままセリーヌは目を閉じる。




 2人は今、一番深い愛の中――――。



お姫様の奪い合い

 姫が好いているのは此奴の方

 姫は誰のもの?



第20夜



「・・・・やあ。
 君がセリーヌの王子様かい?」


 聞こえた聞き覚えのある声。



 そして、





 最も恐れている声――――。



「・・・誰です?君は」


 アレンはセリーヌを抱き締めたまま振り返る。


「僕かい?
 僕は・・・・

 Purpledolls第1dollさ・・・

 名は・・・


 『蒼嬢』」


 蒼嬢は恐ろしい形相でアレンを睨む。


「そして君はアレン・ウォーカーだね?
 奇怪な左目と白髪が父親の呪いだ。

 その左腕も・・・・

 セリーヌと同じ『神の結晶』」


 蒼嬢は笑う。


「・・・・何故それを・・・」


 アレンは蒼嬢を睨む。


 自然と眉間に皺がよった。


「・・・そんな鋭い視線をぶつけないでおくれよ・・・・
 僕はただ・・・

 君の腕の中に居る姫を貰いたいだけだ」


 蒼嬢はそういうとアレンの腕の中から微かに姿を現すセリーヌを指した。


「・・・・ッ・・・!!
 セリーヌは渡しません・・・」


 アレンは唇をかみ締める。


 セリーヌは力なく、アレンの腕の中で震えていた。



「そうか・・・・
 それはそれは残念だね。

 さて、力ずくで奪おうとしようか・・・・」


 蒼嬢はゆっくりと2人に近付く。



 自らの持つ黒いステッキを回しながら。


 そして黒いステッキは光を帯びて、剣に変わって行く。



 鋭く光った剣の先は、アレンの胸を指す。


「さぁ・・・彼女を渡してもらおうか・・・・
 それとも・・・・先に君が死ぬか?」


 蒼嬢は余裕の笑みを浮かべる。


 アレンの額から、一筋の汗が流れた。



「蒼嬢・・・独り占めは好ましくないわ」


 後ろから聞こえた声。


「突き刺すのは僕にしてくれないか?」


 蒼嬢と同じ様に、鋭い閃光を放つドール達。


「やぁ、同胞達。
 君達も殺しに来たのかい?」

 蒼嬢が剣の先をアレンの胸に当てながら振り返って笑う。


 底には、蒼嬢を除く6体のドールが立っていた。


「ええ、もちろん・・・・」


 翠嬢はそういうと薔薇模様の黒いリボンを出して口を開く。


「・・・・薔薇の蔦」


 翠嬢が呟いた瞬間、リボンが薔薇の蔓に変わり、龍のように翠嬢の周りを回る。


 翠嬢は無言で手を横に振り上げた。



 薔薇の蔓はスルスルリといとも簡単にセリーヌを拘束する。


「・・・ッ・・・・セリーヌ・・・」


 アレンは動かずに拘束されたセリーヌの方に振り向く。


「さて・・・
 姫の処罰は後にまわしてと・・

 君の処罰を先にしようか・・・。

 輝鋼、セリーヌを動けないように拘束しろ」


 蒼嬢が横目で輝鋼を睨むが、視線はすぐにアレンに向けられた。


「やっ・・・・!!止めてッ!!!」


 セリーヌがじたばたと抵抗しながら言う。



 蒼嬢の口端が上に引き攣った。



「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


 セリーヌが泣き叫んだ。





ズサッ



 鈍い音が響いた。



 セリーヌはそっと目を開ける。



「・・・・かはッ・・・」


 バタッ・・・・



 倒れたのはアレンでは無く――――






「・・・・・・颯・・・・?」