― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

小さな体の奥の強さ
小さな体の奥の大きな闇
闇と強さは
容赦なく
彼女に襲い掛かる――――。
第15夜
「闇水晶さ・・・・ま?
今なんと・・・」
蒼嬢は呟く。
「この子を捕まえろって言ったのよ?
捕まえられたならば我が屋敷に連れて来なさい。
いいわね?
期待してるわ、ドール達」
闇水晶はそういうと窓ガラスの割れた窓から下へ飛び降りて行った。
「・・・・さて、行こうか・・・我等同胞」
蒼嬢がステッキをくるりくるりと回し始める。
「了解ですわ」
翠嬢が薔薇模様のリボンをくるりくるりと回す。
「「「「闇の力よ・・・・降臨!!!」」」」
Purpledollsが一斉に唱えた。
エクソシストがイノセンスを発動する様に、ドール達はそれぞれ武器を持っていた。
「・・・大人しくしていて頂きたい。
任務をこなせなかった僕等はどうなるか分からないからね」
蒼嬢がそういうとセリーヌに飛び掛ってきた。
「イノセンス・・・発動!!!」
セリーヌが蒼嬢に襲われる瞬間、叫んだ。
蒼嬢の顔色が変わり、蒼嬢の目の前にはセリーヌが居ない。
「此処よ」
セリーヌは蒼嬢の頭上からブーツの踵で蒼嬢の頭を突いた。
今のセリーヌは発動状態で、突いただけでも少々のダメージがある。
「痛っ・・・」
蒼嬢はそう呟きながら窓から外に出た。
それにつられて他のドール達も外に飛び出す。
そしてセリーヌも、窓から外に飛び出した。
「暗闇を舞え・・・・」
「ハハッ・・・・まるで僕等みたいだね」
セリーヌの声の後に続く、輝鋼の声。
「黒風!!!」
セリーヌの叫び声と共に、漆黒の突風がドール達を襲う。
「・・・隙あり・・・ですわ」
セリーヌの後ろから声がする。
「薔薇の蔦!!!」
翠嬢が叫んだ瞬間、リボンが薔薇の蔦に変わる。
蔦はヘビのように空中を舞って、セリーヌを拘束する。
「・・・碧い・・・治療・・・夢を・・・伝え・・・・」
「そうはさせないわ」
もう1人のセリーヌがブーツでセリーヌの後頭部を蹴った。
セリーヌはガクリと首を垂れる。
もう1人のセリーヌの正体は未海。
未海が得意とする能力は、
〝コピー能力〟。
だからセリーヌに変身出来たのだ。
セリーヌは自分と化した未海に抵抗出来るはずも無い。
下に見えたのは屋敷の庭。
此処でセリーヌの意識は途切れた。
プリンセス
拘束されたお姫様
自由を奪われたお姫様の手足は
いつか、薔薇となって――――。
第16夜
ジャラッ・・・
動けば響く、金属が擦れ合う音。
「・・・・ッ・・・」
動きたくても思うように動けずに居る。
体に力が入らない。
力が入らない上に物凄い快感がセリーヌを襲う。
「・・・気持ちいい?」
突然聞こえた、冷たい声。
セリーヌはその声に思わず目を開く。
そこにはうっとりとした表情でセリーヌを見つめていた。
「それとも痛い?」
闇水晶はクスクスと見下すように笑いながら言う。
「放せッ!!」
セリーヌは闇水晶の発言を訊きもせずに叫んだ。
「・・・・そんな生意気な事言っていいのかしら?」
闇水晶が見下すように笑う。
「う・・・・ッ・・・・」
セリーヌは襲う快感と手足の痛みで床に倒れ伏す。
「気持ち良いでしょう?
そして・・・・痛いでしょう?
ねぇ・・・・どっちの方が強い?」
闇水晶は面白そうにセリーヌに訊く。
「黙れッ・・・ッ・・・あッ・・・」
セリーヌは床に伏しながら闇水晶を睨むが、快感によって視線はかき切られた。
「快感の方が強いみたいね・・・・
・・・どう?
今度私とプレイしてみない?」
闇水晶はクスクスと笑う。
「ふざけっ・・・ん・・・なっ・・・・」
セリーヌは言葉にならない言葉で必死に抵抗する。
だが力も入らないまま、両手足鎖で固定され、首には犬の様に首輪で繋がれている。
首輪の鎖の根元は灰色の壁に頑丈に貼り付けられてあった。
「フフフ・・・・
なんて醜いのかしら・・・
こんなのを彼氏さんが見たら嫌っちゃうわね」
闇水晶はそういうと指をパチリと鳴らした。
鳴らされた瞬間、目の前の灰色の壁がクルリと回転して大きな鏡の壁に替わった。
「・・・・ッゥッ・・・」
セリーヌは自分の醜さに改めて吐き気を感じ、チャリンという音を立てて倒れ伏した。
「あら、吐き気を感じさせてしまったようね」
闇水晶はそういうとパチンと指を鳴らして、壁を元に戻した。
「大丈夫・・・そんなに苦しむ事は無いわ。
だって本当の苦しみはこれからだもの。
ごめん遊ばせ、お客様」
闇水晶はそういうと灰色の室内から姿を消した。
セリーヌは如何する事も出来ず、ただ灰色のコンクリートの床に倒れ伏して涙していた。
自分の腕を見て気付けば、武器が無い。
セリーヌは慌てて足を見る。
足にブーツは無いが、ブーツのイノセンスが足に寄生していた。
つまり、イノセンス最大解放状態。
「・・・ッ・・・」
セリーヌは息を飲んで目を瞑った。
「イノセンス・・・・発動!!!!」
一か八かで叫んだ。
叫んだだけでは足は発光しただけ。
セリーヌは力を振り絞って足に力を入れる。
力が入らなくとも、必死でイノセンスと同調しようと目を強く瞑った。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ただひたすら同調しようとして叫ぶ。
キュイン・・・
叫んですぐ後、キュインという音が部屋に響く。
驚いてセリーヌは足を見る。
――――発動していなかった。
「・・・ッ・・・・」
セリーヌは悔しくて目を瞑る。
「そんな格好で寒くないのかい?
・・・・まぁ、どうせ着る物は与えないが」
部屋のドアの所に立っていたのは蒼嬢。
蒼嬢の声が聞こえた瞬間、今まで凍ってたんじゃないかと思う位血の気が引いた。
世界は見えない影
君は世界に隠れ
悪は君と僕を突き放す
口移しの快楽は一瞬だけ
絶望に堕ちた僕が望むもの
たった1人の君を見つけたい
第17夜 ―アレンside―
荒れ果てた4階の廊下。
僕達はその光景を瞬きもせずに見つめていた。
「・・・・何よ・・・これ・・・・」
忍は無残にも割られたガラスが飛び散り、ガラスの無い窓に残ったガラスを指でなぞる。
忍の指からは血が流れた。
「・・・・これはどういう事なのよ!!」
忍は血で汚れた手で翡翠石の胸倉を掴む。
「忍!!」
チェリーが叫ぶ。
「どういうことなの?!説明しなさいよ!!!」
忍の力で翡翠石の足が床から浮いても、翡翠石は辛そうに視線を伏せて何も答えようとはしなかった。
「聞こえてるの?!」
忍が開いた左手を大きく振り上げる。
振り下ろされようとした左手を、誰かが掴んだ。
忍は驚いて後ろに振り返る。
「そんな事をして何になるんですか?」
「アレン・・・」
忍の瞳が大きく揺らいだ。
アレンの声はアレンとは思えないほど低かった。
そして、哀しかった――――。
忍は下を向いたままのアレンを見てそっと翡翠石を下ろす。
「・・・・・・・なさい・・・御免なさい・・・・」
話してもらった翡翠石は、息を切らしながら呟いた。
「御免なさい・・・・」
バサッ!!
翡翠石はただそれだけを言って膝を落とす。
「翡翠石様!!」
光姫が叫んで、翡翠石に駆け寄る。
それにつられてぞろぞろとドール達が出て来た。
「御免なさい・・・
私が無力だからセリーヌさんが・・・・」
「いいえ?翡翠石様」
アレンの横に居た蒼海が翡翠石に駆け寄る。
「セリーヌさんが連れ去られたのは決して・・・・
翡翠石様のせいではございません・・・
セリーヌさんは私の身代わりになって・・・・
だから・・・・信じましょう。
セリーヌさんは弱くなんかないじゃないですか。
心の底から真の強さを持って、懸命に笑ってる。
そんなセリーヌさんが・・・
帰って来ないはずなんか・・・そんなはずないでしょう・・・・」
蒼海は小さな指で翡翠石の涙を拭う。
「・・・でも・・・・」
「もう止めてよぉッ・・・」
翡翠石の声を、レイアが掻き消す。
「・・・もう・・・止めて・・・・
そんな無知に自分を責め合ったって・・・・
帰って来るものなんか・・・1つも・・・・」
レイアは泣きながら崩れ落ちる。
崩れ落ちる寸前のレイアをファルがしっかりと受け止めた。
「レイアの言う通りだよ・・・・
お互いを責め合っても、自分を責めても・・・
結局は・・・・
何も・・・戻っては来ない」
ファルはそういうと立ち上がる。
休んでくると一言言うと、ファルはレイアと一緒に歩き出した。
「・・・・とにかく・・・
セリーヌを助け出せるように、頑張ろう・・・・
今度は・・・私たちが攻めに行こう」
リリーは力強く呟いた。
その発言に、その場に居た全員は静かに頷いた。

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