― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

どうしたら、君に届きますか?
どうすれば、君は笑いますか?
どうすれば、君に振り向いてもらえますか?
今の僕には何も分からない。
何一つでさえ、分からないんだ――――。
第27夜 ―アレンside―
今日の朝の事だった。
いつも通り、重い足取りで食堂に向かって行く。
今までは、軽い足取りで向かえてたのに。
こんなになってしまったのも、全て君の影響。
人のせいにしてるのではなく、何故か影響されているような気がした――――。
ドアを越えればいつも通り、賑やかな食堂。
「Bセットおまちどーん!!」
ジェリーの軽やかな声が耳に入る。
その軽やかな声でさえ今日は重く感じた。
「よォ、白髪のお坊ちゃん」
アレンの耳元で囁くのは、シフォンだった。
「・・・!!」
アレンは肩に寄り掛かってきたシフォンをすらりとかわした。
「おぉ、今日も機嫌悪いな?
セリーヌとは上手く行ってるんかい?」
シフォンはやけに調子よく淡々と言いこなす。
「それは一番そっちが分かってるんじゃないんですか?」
アレンは冷たく返した。
「そうかぁ?
じゃぁセリーヌちゃん俺にちょーだい?」
シフォンの言葉にアレンは勢いよく振り返った。
「セリーヌはものなんかじゃない!!!」
アレンが叫んだ。
その目には怒りに満ちていた。
今にも死にそうな程辛い思いをしているセリーヌをそんなに軽く扱えるなんてと思う自分が居たからだ。
「おぉ?美少年の顔が台無しだぜ?」
シフォンはいかにもバカにしているような口調だった。
「・・・ふざけるな!!」
アレンはシフォンを殴り飛ばした。
シフォンは勢いよく壁に叩き付けられる。
「いって・・・
やり返さないと思うなよ?」
シフォンが声を低くして言った。
シフォンは立ち上がってアレンを殴り倒す。
「え・・・?ちょ・・・2人共!!」
見ていたリリーが慌て始めた。
その声にも気付かずに2人は殴る殴り返すを繰り返していた。
蹴って殴って、壁に叩き付けて・・・
何回繰り返したらいいのかさえ分からない。
軽い口調でセリーヌを口にするシフォンが許せなかったんだ。
「僕はセリーヌを傷付けていなんかいない!!!」
アレンの下手な言い分。
言葉と同時に殴った。
「嘘つけ!!!
セリーヌがあんなになったの誰のせいだと思ってんだよ!!!」
シフォンがアレンを殴り返す。
叩きつけられるばかりで両方の壁にひびが生え、凹んで来ている。
「貴方のせいなんじゃないんですか?!
セリーヌがあんなになったのも!!!」
アレンは言葉と同時にまた殴り返す。
擦り付けたいわけではない。
だけど――――。
「ざけんじゃねーよ!!!
セリーヌにべたべたくっ付いてた俺等とセリーヌを見て女のファインダーが嫉妬してセリーヌをあんなにしたんだよ!!!」
シフォンの言葉にアレンはふと我に返った。
シフォンの言葉に耳を疑う。
そして荒く息を吐きながらお互いを睨んでいた。
「ねぇ・・・セリーヌが目を覚まさないのどうしてだと思う?」
間に立っていたのはファルだった。
「ファル・・・!!」
アレンが驚いて立ち上がろうとする。
「動かないで」
ファルは冷静にアレンの動きをピタリと止めた。
「セリーヌはきっと・・・
大好きな人の夢を見ているんじゃないかな・・・
セリーヌが本当に好きな人の夢を・・・」
顔を上げたファルの顔は実に綺麗だった。
でも何処か嬉しそうで、何処か寂しそうだった。
「・・・もうこう言った地点でシフォンは分かると思うよ。
セリーヌが本当に好きな人・・・
アレンはもっとセリーヌの事を考えてあげればよかったのにね・・・
こういうと八つ当たりになっちゃうかもだけど・・・
セリーヌが記憶無くしたからって・・・諦めちゃいけなかったんだよ」
ファルは優しい眼差しをこちらに向けた。
「セリーヌね・・・記憶戻ったんだよ・・・。
それでね・・・その戻った記憶の中には・・・
アレン・・・貴方の事ばかりだったんだって・・・
貴方を思い出して、セリーヌは貴方の部屋に駆けつけた。
でも見たのは違う女の子。
セリーヌ・・・どれだけ悲しかったと思いますか?
そして、どれだけ傷付いたと思いますか?」
ファルが言う。
「でもセリーヌはそんな事を表に出さなかったの・・・。
表に出したらみんなに迷惑かけるってね・・・
私は言ったの・・・
私達は何のタメに仲間なの?って・・・
セリーヌは何も答えなかった・・・
セリーヌね・・・
小さい頃、日本に居た時・・・
セリーヌのセリの二文字から、瀬梨っていう日本名をもらったんだって・・・。
瀬っていう字ね・・・
置かれている立場っていう意味もあるんだって・・・
その置かれている立場っていう意味ね・・・
〝置かれている立場は恵まれた場所〟
っていう言葉からなんだって・・・
まさにその言葉の通りだと思わない?
こんなにも自分を想ってくれている人が居て、こんなにも自分が愛しいと想う人が居て・・・
恵まれてる・・・よね」
ファルの目から涙が伝った。
そして、アレンの目にも涙が伝った。
色んな意味の篭った涙だった――――。
眠ればいつも見る、君の夢――――。
それは君、ただ1人だけで――――
夢だからなのか、本当に甘い夢。
もう一度だけ、君の甘いキスをください――――。
第28夜 ―セリーヌside―
ピッピッピッピッ・・・
寂しく鳴り響く、機械音。
動いてもいないのに、体が激しく痛んだ。
そして目を開ければ、白い天井。
温かい布団。
「私・・・・は・・・」
セリーヌは自分自身に向かって呟いた。
気が付いたのか、はっと目を見開いた。
ゆっくり布団の中から上げるのは、包帯で形しか読み取れない白い腕。
「わ・・・たし・・・
いき・・・てる・・・の・・・?」
生きているという素晴らしさ。
それだけでセリーヌは涙を零した。
―――本来、死ぬはずだった自分に。
神は、生きる道を示してくれたんだ。
「かみ・・・さま・・・ありが・・・とう・・・」
セリーヌは誰も居ない医務室で呟いた。
そしてはっと起き上がる。
白い糸で機械に繋がれ、口には麻酔、体には包帯。
私は・・・
私は、死んでいたのだろうか――――。
セリーヌは此処が地獄なのか天国なのか、それとも人間界なのかが心配になってきた。
プチン・・・
セリーヌは力ない手で点滴と外し、機械と私を繋ぐ線をプチリと千切った。
ゆっくりと麻酔を外す。
今にも倒れそうなくらい、吐き気がした。
「う・・・っ・・・」
セリーヌはそれでも目を開けて、地に足を着いた。
足に物凄い激痛が走る。
私は置いてあった愛用のブーツを足に纏ってスイッチを入れた。
キュィィィン・・・
ブーツが光を帯びて、体が勝手に浮いた。
傷も痛まない。
セリーヌは震える指先で速いのボタンを押した。
前に構えるとブーツが走り出した。
すれ違う、団員達。
そんな光景を見てもセリーヌは此処が人間界だと信じられなかった。
ドン・・ガシャンッ・・・!!
食堂から大きな音が聞こえる。
セリーヌはそこに何かの気配を感じ、操られたように足を運んだ。
―そこに誰かが居るような気がした
そこに君が居るような気がした
だから私は進みたい
どんなに辛くても進みたい
逃げたくない―
少しでも早く、君に会いたい。
体は痛まないのに、胸騒ぎがするの。
私じゃない誰かが、行けって言ってるような
そんな気がする。
だから、私は向かうの。
そして向かうは、君の元――――。
第29夜
コンッ・・・
地にブーツの先が着いたせいか、傷が痛み出した。
「う・・・っ・・・あぁぁっ!!!」
閉じられた傷口がまた開きそうで怖かった。
「お前のせいでセリーヌが傷付いたんだよ!!」
「人のせいにしないでください!!」
見たのは、愛しい君と、シフォンの殴り合いだった。
「セリーヌはあんなにお前の事を思ってたのによ!!!
俺と居た時だってずっとお前の事を考えてたんだぜ?!
振り向いてもらえない奴の気持ちも分かれよ!!」
「2人とも・・・止めて!!」
止めに入ろうとする、リリー。
だが一向におさまろうとはしなかった。
「セリーヌ!!!」
こっちを向いたファルが叫んだ。
その叫び声に皆が振り向く。
私はコツンと、柱に体を寄せた。
「・・・セリーヌ・・・!!!
これは・・・違うのよ?
セリーヌのせいなんかじゃ・・・」
「いいわ・・・そんな無駄な気遣いしないで・・・
邪魔な・・・・邪魔なだけなの・・・!!!」
セリーヌの瞳に強さが戻って来た。
「全て私のせいなんでしょ?
私だって人間だもの、見ていれば分かるわ。
喧嘩しといて今更何よ・・・
皆・・・皆大ッ嫌いよ!!!」
セリーヌは泣き叫んでブーツの音速ボタンを押した。
気が付けば、もうそこにセリーヌの姿は無い。
そしてセリーヌも気が付く。
―自分は何てことを言ってしまったんだろう―
と。
虚ろな目のまま音速で教団内を走り続ける。
バタンッ!!!
そして行き着いたのは、教団の屋上だった。
自分でもどうして此処に来たのか分からない。
ブーツの発動を解いて、自分の足で歩き出す。
いつ倒れるか分からないけど・・・・
歩きたい・・・歩いてみたい。
浮かぶのは、君の顔ばかり。
思い出す度に、涙が零れ落ちた。
バサッ・・・!!!
倒れる様に置いてあった長椅子に座った。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!!!」
誰に届くか分からない、叫び声。
いや、届きもしない――――。
「あぁぁぁぁぁぁ・・・!!!!
うああぁぁぁぁぁぁぁ・・・!!!!!」
ただひたすら泣き叫ぶ。
「皆なんか嫌いよ・・・大ッ嫌いよ・・・」
涙声で呟いた。
コッ・・・
そこに響いたのは誰かの足音。
「どうして――――――?
どうして、皆が嫌いなのかしら?」

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