― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

足に絡み付くのは荊
何かを求めて来た自分を縛っていたのは荊
荊を解いて次へと進んでも塞がるは荊の城
城を抜けて進んでも立ちはだかるのは絡み付く荊
その荊は永遠に解ける事は無い
その荊は自分の恐怖だから
恐怖の荊は永遠に解けない
自分の恐怖と立ち会わない限り――――。
第30夜
「みッ、ミランダ?!」
セリーヌは驚いて引き下がる。
ズキリと体が痛んだ。
「痛・・・・ッ・・・・」
セリーヌは思わず腹を抑えて膝を落とした。
座り込むセリーヌの体は震えていた。
「・・・」
ミランダは黙って座り、セリーヌを後ろから抱き締めた。
ピクリと震えが止まった。
「・・・痛いでしょう?」
ミランダが口を開いた。
セリーヌは黙って頷く。
「痛いと感じること、素晴らしいと思わない?」
その言葉にセリーヌは黙ったまま。
「こうやってセリーヌちゃんと話してる事、
こうやって痛いと感じてる事、
そうやって、泣き叫んでる事・・・
全て生きている印なのよ」
ミランダの言葉に滴り滴り涙が零れ落ちて行く。
今まで心を酷く突き刺した言葉の刃はこんなにも哀しい。
でも、こんなに鈍った言葉の刃はこんなにも優しい。
「言葉って・・・凄いですよね・・・
どんなにキツイ言葉でも・・・
ありきたりの言葉の方が傷付いて・・・
どんなに優しい言葉でも・・・
ありきたりの言葉の方が優しい・・・
言葉は刃だけど、心を治す傷薬にもなる・・・」
セリーヌが涙声で言った。
「嫌な事を隠して生きていくって・・・楽だと思うわよね・・・
私達が喧嘩するように、ようは自分が傷付かないようにするための言葉のベールなの。」
ミランダの言葉を黙って聞いていた。
いつの間にか、傷の痛みが消えている。
「・・・だから・・・
今までセリーヌちゃんが人を傷付けるように言った言葉は、表面的な事だから本当はそうじゃないって思えばいいじゃないの。
そしてその相手には普通に接すれば・・・それが出来る人ってとても強い心を持っていると思うの」
ミランダの言葉はまるで、私の傷を治すように優しかった。
「でも・・・
私・・・アレンの事を傷付け過ぎて・・・
なんて・・・言葉をかければいいのか・・・
分からない・・・」
セリーヌが顔を伏せた。
「私はもう大人だから・・・
過去という前には戻れない。
でもセリーヌちゃんはまだ子供でしょう?
だから、まだ戻れる。
今からなんて遅いなんて・・・思わないで。
過去に戻りたくても戻れないで苦しんでいる人だって一杯居るわ。
失敗しても、気持ちを切り替えなきゃ。
私の知っているセリーヌちゃんは、そんな子なのよ」
ミランダが笑った。
そしてブーツの光速のボタンを指で押した。
ブーツが光を帯びて、体がふわりと浮く。
「え・・・?!ミランダ?!」
セリーヌは驚いて叫んだ。
その顔には涙跡が生々しく残っていた。
「大切なものって・・・
自分で気付かないけれど・・・
傍に・・・あるんだよ」
ミランダが笑う。
ブーツは少しずつ私は宙に浮かせて行く。
そして丸くなっていた背中も次第にピンとのびた。
「さぁ、これから大切な人に向かって?
セリーヌちゃんなら戻れるから・・・
だから・・・振り返らないで前に進んで?」
ブーツはどんどん高く舞い上がって行く。
セリーヌは目を瞑った。
―君に届く光は強く
君に届く思いは強く
咲き誇りたい・・・薔薇のように
君はもう抱き締めてくれないかもしれない
でも行きたい・・・君の元に―
ねぇ、皆。
私、今物凄く怖いよ。
怖いのは周りの視線なんかじゃない。
君はきちんと私に会ってくれるだろうか?
君は私に笑ってくれるだろうか?
君は私を許してくれるだろうか?
こんなに軽々と赦してもらいたいと思う私は
罪の子でしょうか―――――?
第31夜
光を帯びた体は教団内を突き進む。
すれ違った団員達は皆驚いて騒ぎを起こしていた。
「せ、セリーヌさん!!!」
突き抜けていると、後ろから声がした。
止まって振り返ると、遠いところにレイアの姿があった。
すると、レイアはこっちに向かって走ってきた。
「あの・・・・今から・・・・アレンの所へ向かうんですか?」
その言葉に反応するかのようにブルリと身が震えた。
「脅かすつもりは無いんです!!!
ただ・・・謝りたくて」
レイアは言い難そうに視線を落とした。
セリーヌはその言葉に大きく目を開いた。
「あの・・・ッ・・・・
今まで散々酷い事をして・・・
すいませんでした・・・!!!」
レイアは素早く深く頭を下げた。
「赦してもらえなくてもいいです・・・
私・・・ただ・・・」
レイアの頬を涙が濡らした。
滴り滴り零れ落ちて行く涙は教団の床も濡らして行く。
「・・・いいの」
セリーヌは掻き消されそうな声でボソリと呟いた。
その声にレイアが驚いて顔を上げる。
「レイア・・・
過去に辛い事あったんでしょう?」
セリーヌはレイアの髪を撫でながら言う。
「私が憎かったんだよね・・・?
幸せそうにしてるから・・・
自分はどんなに頑張っても幸せになれないのにって・・・」
レイアはその言葉にゆっくりと頷く。
「でもさ・・・
私も人間だから・・・辛い事もたくさんあるの・・・
本当は赦したくない気持ちもあるよ・・・
でも赦さなかったら・・・何も始まらない・・・
心は広く持った方が得だって・・・
大切な人から教わったの・・・」
セリーヌは優しく微笑んだ。
「これから私はアレンの所に行く・・・
レイアには悪いけど・・・・行かなきゃいけないような気がする」
セリーヌは決意を秘めた表情で言った。
「・・・アレンに伝言して下さい・・・
〝好きだったけど別れよう〟って・・・
頑張って下さいね・・・
もしもセリーヌさんが泣いて帰ってきたら・・・
まぁ・・・そんな事は無いけれど」
レイアは涙を指で拭って笑った。
「じゃぁ・・・行って来るね」
セリーヌがブーツで体を浮かせた。
「ええ・・・頑張って下さいね!!!
応援してます!!!」
「ありがとう・・・頑張るよ!!」
笑って手を振るレイアにセリーヌは笑って答えた。
セリーヌは光を帯びて遠くへ遠くへ消えていく。
レイアはその姿を寂しそうに見ていた。
でも、その姿は何処か嬉しそうに見えた。
教団の廊下を駆け抜ける。
ご飯時なのか、人が全くと言っていいほど居ない。
「セリーヌ・・・!!!」
そんな廊下で私の名を呼んだ君。
セリーヌはゆっくりと振り返った――――。
君の名前を叫びたい。
でも何故だか・・・・怖いの。
もう不安は棄てたはずなのに・・・・
君に抱き締められる事、
君に好きと言って貰える事、
君に笑ってもらえる事――――。
こんなにも
こんなにも
大切な事だったんだね――――――。
満月の夜
私は振り返ったものの、アレンの姿を見て硬直していた。
こんな切り揃えてない乱れた髪で、
包帯だらけの体で、
君に会った事に後悔してしまった。
こんな姿で君に会おうとしてたなんて、私はなんて無様なのだろう・・・・。
私は恐怖で足が竦んだ。
「・・・・ッ・・・!!!」
セリーヌは唇を噛み締めて逃げようと前を向いた。
「待って下さい!!!」
ブーツで浮いた瞬間、アレンが叫んだ。
セリーヌは唇を噛み締めながら振り向く。
ぎゅっと噛み締めた唇は今にもはち切れそうだった。
「・・・・・・なっ・・・」
アレンが黙ってセリーヌを抱き締める。
セリーヌは〝何〟と言いたかったのだが、言い終わる前に言葉を止めた。
体がぐらついた。
「・・・聞いてください、セリーヌ」
アレンの言葉にセリーヌは頷きもしなかった。
抱き締められたその瞬間、熱いものがこみ上げて来て喋る所じゃなかったのだ。
「今まですいませんでした・・・
セリーヌが僕の事を憶えてなかった時・・・
セリーヌが・・・僕の事を嫌いになってしまったのかと不安になって・・・・」
アレンの声が涙声に変わって行く。
「・・・・もう言わないで」
セリーヌが低い声で呟いた。
「え?」
アレンが聞き返した。
「・・・」
セリーヌは黙り込む。
「・・・もう一度言ってもいいですか?
好きです・・・セリーヌ」
抱き締める力は次第に強くなる。
「遅い・・・今更遅いよ・・・ッ」
セリーヌの声も涙声に変わって行く。
「愛してる」
アレンがぼそりと言った。
「アレンなんて大ッ嫌いなんだからぁッ!!!
一生・・・一生赦さないんだから!!!
今更愛してるなんてもう言わせないんだからぁッ!!!!」
セリーヌは泣き叫んだ。
その声は最早悲鳴と言ってもいいだろう。
出るのは〝嫌い〟という言葉ばかり。
「嫌い・・・嫌いよ・・・
アレンなんか大ッ嫌いよ・・・
今更・・・今更遅いんだからぁっ・・・・」
セリーヌの全身の力がスルリと抜け落ちた。
今にも膝を落としそうなセリーヌの体をアレンはしっかりと支えていた。
「嫌い・・・大ッ嫌い!!!
アレンのバカ!!鈍感!!!!」
出るのは〝好き〟という言葉ではなく、〝嫌い〟の言葉ばかり。
好きな気持ちは言葉にならない。
嫌いじゃない。
それでもアレンはあえて何も言わなかった。
「どうしたらセリーヌは僕に好きと言ってくれますか?」
「どうもしないもん」
「答えになってないですよ」
アレンが笑った。
「なってるもん」
セリーヌが頬を膨らませて反論した。
「セリーヌ可愛いです」
「可愛くないわ」
「可愛いです」
「可愛くないの」
「可愛いです」
「私の何処が可愛いって言いたいの?
こんなに切られて短く乱れた髪に、
包帯だらけのこの体に・・・・
私の何処が可愛いと言いたいの?」
セリーヌが早口で言う。
「表面を言ってるんじゃ無いんですよ?
ただ・・・・セリーヌの反応が」
アレンはセリーヌの唇に自らの唇を重ねた――――。
-5章END-

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