― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

第21夜 ―チェリーside―
「チェリーさん!!」
たくさんのファインダーに追われる日々。
「気持ちだけで嬉しいわ、さよなら」
たくさんの愛の言葉を引き裂いて来た。
そして、どれだけの人を傷付けただろうか――――。
誰だって、最初は私の外見に惹かれてやって来るものばかり。
〝君が私だけを見てくれたらな〟
「哀れなアクマに、魂の救済を」
エクソシストの言葉。
私は地獄から這い上がって来た女。
本当に私の事を好う男など居ないだろう―――。
上辺だけで結婚しろと言った、地獄の王様。
私は〝上辺だけで〟結婚して、人間界へ逃げた――。
コンコン・・・
そして今日も、私の為に怪我をした彼の元へ―――。
「ユーウ♪」
ドアから小動物のように顔を出したチェリー。
「俺のファーストネームを口にすんじゃねぇ・・・」
仏頂面をして睨んだのは、神田ユウ。
返って来たのは聞き慣れたこの言葉。
「あはは♪」
毎回この言葉を笑って受け流していた。
―これも一種の愛の言葉だとも知らず―
「でねー♪・・・・がさ~・・」
楽しそうに林檎の皮を剥きながら話すチェリー。
神田は仏頂面のままだ。
コン・・・
林檎を小さく切って机に置いた。
「あ、私任務入ってるから行くね!!」
チェリーは時計を見て立ち上がった。
その時、しっかりと神田がチェリーの手首を掴んだ。
「え?」
チェリーは驚いて聞き返す。
「・・・行くなよ」
第22夜
「・・・行くなよ」
「・・・え?
いきなりどうしたの・・・?」
チェリーが驚いて目を見開いた。
「お前以外の奴なんかもうどうでもいい・・・
俺の傍に居ろ」
神田はチェリーの白い手首をぐいっと引っ張り、引っ張られたチェリーを抱き締めた。
紅い液に浸けられた白い布のようにチェリーの頬が紅く染まった。
「・・・失敗することは怖いこと・・・
後悔なんてしたくない・・・
でもそれじゃ疲れてしまうよね・・・
一番大切な事は自分を信じてあげること。
信じ続けてあげること。
ほんの少し変わるだけで・・・
きっと・・・自分を好きになれる・・・
あと少しの勇気で君の未来が変わるはずだから・・・」
チェリーが操られたように突然呟いた。
「11歳の頃ね・・・
友達と喧嘩して、その1カ月位後の日に・・・
手紙が来たの・・・
その封筒に今言った事が書かれてた・・・
その言葉に涙が出たの・・・
〝こんなにも大切に思っててくれたんだ〟って・・・
そういう意味で・・・
初めて・・・仲間っていいなぁって思ったの・・・
形には見えないけれど・・・
こんなにも温かくて、綺麗なの・・・」
チェリーが神田の肩に寄り掛かって言う。
「・・・勘違いすんなよ・・・
俺等は仲間なんかじゃねェぞ」
神田が低い声で言う。
「俺等は仲間じゃねェ・・・
〝恋人〟だ・・・」
神田の言葉にチェリーの頬がますます紅く染まって行く。
「・・・好きだ・・・チェリー・・・」
神田の言葉にチェリーが柔らかく笑った。
「初めて名前・・・呼んでくれたね・・・
言うの遅いよ・・・?私・・・ずっと待っていたのよ・・・
愛してるわ・・・ユウ」
―君の温かい鼓動の
壊れない愛の鋼が
私を包み込むの
どうか君の体温で私を奪って
愛という名の羽で私を眠らせて―
第23夜 ―ファルside―
―翌日―
私は今、とある屋敷に来ていた。
探索部隊でも話題となっているこの屋敷。
庭には色とりどりの薔薇が咲き乱れ、枯れているものは一つも無かった。
「・・・噂どおり・・・綺麗な屋敷ね」
ファルは屋敷を見上げて独り言をこぼした。
「・・・この屋敷に何か御用?」
後ろから気高い声がした。
ファルは驚いて後ろに振り向く。
「貴女は・・・」
「この屋敷の主人でございます。
庭の薔薇が欲しければ好きにもらって行きなさい」
冷酷だけれども美しい少女は言った。
「・・・後・・・
お望みならばリボンも差し上げますわ・・・
そのまま渡すなんて失敬でしょう?」
少女が振り返って言った。
「あ・・・ありがとうございます・・・」
ファルがカチカチと言った。
少女の後ろから坂道を登って行く。
しばらくあるくと、綺麗で高い門が見えて来た。
「お入りなさい」
少女は自分を中に入れてからファルに言った。
「お邪魔しまーす・・・」
ファルは呟くとそろりと中に入った。
見渡す限りはずっと薔薇の花畑。
色も種類も色々なものがある。
「薔薇・・・好きなんですか?」
ファルは薔薇の花畑を見渡しながら呟いた。
「・・・私のお母様が好きだったのよ・・・。
この薔薇の花畑はお母様の形見なの・・・
薔薇達を枯らせる事はお母様を枯らせる事・・・
だから私はこの薔薇達を気高く咲き誇らせてる」
少女は酷く悲しい目をしていた。
「私リボンの用意をしてきますわ。
お好きな数だけお取りになって?
終わったら言って頂戴」
少女は気高くそう言うと屋敷の方へ向かって行った。
何処までも続いているような薔薇畑はまるで自分を眠りに誘うかのように風に靡いていた。

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