― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

第12夜
―医務室―
「・・・どうでしたか?」
医務室の奥から出て来た医療班員に訊き求める。
「・・・どうやら栄養失調みたいですね・・・。
最近・・・何かありましたか?」
班員の言葉にリリーは黙った。
「・・・すいません・・・
変なコト聞いてしまいまして・・・」
「いいえ・・・。
でも・・・この子の為を思ったら・・・」
リリーがベットで眠るセリーヌを優しく撫でた。
哀しい涙の一雫は白いシーツに染みを作った。
「・・・リリー」
後ろから聞こえた声。
医務室のドアの前にレイリーが立っていた。
「・・・任務・・・」
レイリーが言い難そうに視線を反らしながら呟いた。
「・・・今行く・・・。
・・・セリーヌ・・・1人で抱え込んじゃ駄目だよ」
リリーは哀しそうにセリーヌの髪を撫でると医務室を後にした。
―司令室―
「・・・あれ?セリーヌちゃんは?」
コムイが書類を手にしながら言う。
「・・・セリーヌは・・・
医務室で寝てます」
「はぁ・・・どうして?」
コムイは何も分かっていないようで、首を傾げた。
「・・・倒れました」
リリーが呟く。
その発言に一番端に座っていたファルが驚く。
「・・・どうして来ないんだい?」
コムイの冷酷な一言。
「・・・倒れました」
リリーはもう一度呟いた。
「悪いけど・・・。
セリーヌちゃんも君達も1人のエクソシスト。
そんな倒れた位で任務に行かないというわけには行かない。
セリーヌちゃんに何があろうが任務には行ってもらう。」
コムイは冷酷に言い張った。
「兄さん!!!」
リナリーが叫んだ。
「室長!!」
それに続くようにファルが叫んだ。
「任務に行く以外にセリーヌちゃんには何がある?
セリーヌちゃんの仕事はエクソシスト。
任務に行ってもらえなければ辞めてもらう」
コムイはそういうと地図を引っ張り出してきた。
そうして口を開こうとした時――――。
「室長・・・少々時間頂けますか?」
リリーは低い声をあげて立ち上がった。
「え?ちょっと・・・リリーちゃん・・・?」
リナリーが驚いて呟く。
リリーは返答を聞かずにスタスタと歩いて行く。
リリーが向かうのは医務室。
そう・・・リリーは―――――。
第13夜
コッコッコッコッコッ・・・!!!
急いでいるせいか、足音が早くなる。
バタンッ!!
司令室の扉を足で開けて中につかつかと入る。
「・・・!!」
リナリーが驚いた表情で私を見つめた。
コムイは呆然としている。
リリーはそんなコムイの前につかつかと歩いて来て、セリーヌの左腕の団服を捲くった。
「・・・これでも・・・
これでも行けっていうんですか?!」
リリーは叫んだ。
涙で汚れた無数の切り傷。
痩せこけたセリーヌの姿が全てを物語っているよう―――
「・・・セリーヌちゃん!!!」
リナリーは堪らずに叫んでリリーの元に駆け寄って来た。
だらんと垂れ下がった手を握る。
「セリーヌ・・・」
ファルはそれだけ呟くと呆然と座っていた。
レイリーは辛そうに唇を噛んで下を向いている。
「・・・兄さん・・・」
リナリーはそう呟くとセリーヌの蒼白い手を握り締めた。
「・・・分かった・・・。
セリーヌちゃんに休暇をとらせよう・・・
よくなるまでしっかりと休んでくれ」
コムイが言う。
「あ・・・有難うございます!!!」
リリーが叫んで頭を下げた。
ストン・・・
その時、セリーヌが書類の地面に足を着かせた。
「?!」
リリーは驚いて振り返る。
フラフラだけれども、リリーの肩をしっかりと掴んで立っているセリーヌの姿があった。
「・・・室長・・・。
任務に行かせて下さい・・・
もう護られっぱなしは嫌・・・」
セリーヌは涙を零しながら言う。
ダンッ!!
「セリーヌちゃん!!!」
リナリーは机を叩いて叫んだ。
「・・・護られるのは・・・もう・・・嫌・・・
今度は護られるんじゃ・・・無くて・・・
私が皆を・・・護りたい・・・。
だから・・・任務に・・・」
セリーヌは涙を伝わせながら言った。
「セリーヌ・・・」
ファルは痛ましげな姿に思わず立ち上がった。
「私はエクソシスト・・・
護られる人間なんかじゃ・・・無い・・・
戦場に・・・行かせて・・・」
ガタンッ!!
セリーヌはそういうと膝を落として前に倒れた。
―戦場等何処に在る?
どうして私達は争う?
何を想って争う?
何をどうしたいから争う?
私は気付く
まるで自分はイノセンスに操られた人形のようだと―
第14夜
あれから2ヵ月後――――。
やっと立って歩けるようになったものの、食事はろくに摂っていないままだ。
今は科学班に頼まれて教団の奥の書庫室に向かっていた。
ガラララ・・・
古びたドアがゆっくりと開く。
床に詰まれた書類は今にも崩れそうで、何年も使われていない事が読み取れる。
「・・・ゴホッ・・・
こんなところにあんのかなぁ・・・?」
セリーヌは書庫に足を踏み入れる。
司令室と同様、床は書類の絨毯だ。
「・・・司令室じゃん・・・」
無駄な呟きを残しながら書類を探していた時―――。
――ガツッ・・!!!
鈍い音が響く。
その衝撃でセリーヌは前に倒れた。
ガララララッ!!!
勢い良く扉が閉まる。
「・・・・ッ!!」
これからされる事はもう何と無く分かっていた。
こんなにも私は憎まれる存在なのか――――?
「・・・あ♪
ブーツと武器とっちゃおぉ♪」
1人が楽しそうに声をあげてブーツと武器を取る。
これを取られた以上、私はただの人間だ。
「エクソシストにこんな表面的なオシャレはいらないよねぇ?
中身で勝負なんじゃなぁい?」
また別の女が言う。
見渡す限り、居るのは・・・
6人?
「・・・放せっ・・・」
セリーヌが声をあげる。
「死んだら放してあげるぅ♪」
ザクッ!!
腹に激痛が走る。
血がどくどくと出ている様な・・・そんな感覚がした。
パサパサと音がする。
自分が今やられていること、
自分をこういうようにしている犯人の顔、
全て見たくなくて目を瞑った――――。

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