― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

ねぇ泣かせてはくれないの?
どうして君には分かるの?
私が優柔不断で涙脆くて弱い事
〝傍に居たから〟
そんな返事はしないでよ――――――?
第12夜 ―セリーヌside―
コッコッコッ・・・・
歩くは真夜中、セリーヌは1人廊下を歩いていた。
真夜中の2時頃の事。
廊下の壁にかけてある時計によれば、後12分で3時になろうとしていた。
コンコンコン・・・
セリーヌは一つの部屋の扉の前で止まると、扉をノックした。
「・・・・アレン、起きてる?」
静まり返った廊下とアレンの部屋に、綺麗な声が響いた。
「・・・起きてますよ」
しばらく経ってから扉の向こうから返事が返って来た。
「・・・・入ってもいい?」
セリーヌも、少し経ってから訊く。
「・・・・駄目です」
アレンの返答に、セリーヌが驚いて表情を変える。
「僕はそんな優柔不断な人を部屋に入れるつもりは無いです」
アレンの言葉は、セリーヌに刺さっていた魂の剣よりも深く、セリーヌの心に突き刺さった。
セリーヌは改めて自分の事を知らされて、唇を噛んだ。
窓から吹いてくる夜風はとても寒く感じられた。
「・・・・夜風が寒いや」
セリーヌは見えもしない悲しそうな笑顔で言った。
「寒いなら帰ればいいじゃないですか」
容赦なく浴びせられる、諦めの言葉。
「・・・・帰りたくないの・・・
帰ったら・・・・泣いて立ち直れそうに無いから」
セリーヌの声は涙声。
「そんな所で泣かないでください」
「分かってるよ・・・耳障りなんでしょ?」
セリーヌはアレンの言葉の剣を言葉の盾で撥ね返す。
「そうじゃないです」
「だったら何なの?」
「ただ僕は・・・・」
「そんな不器用な事言わないでよ・・・・
アレンが本当に好きなら扉を開けて、私を抱きしめてよ」
すると、すぐに扉が開いた。
コートを着ていないアレンは少し、大人っぽく見えた。
あっという間にアレンはセリーヌを包み込むように優しく抱き締める。
「これでいいですか?」
そう訊ねるアレンの声は、月の光のように優しく私の耳に射して行く。
「・・・・アレン・・・私怖いよ・・・・
あんなにも優しくて強く生きているのに・・・・
私は殺める事なんか出来ないよ・・・
優柔不断だよね・・・
私はエクソシストなのに任務が出来ないなんて・・・・
エクソシストは私の表面だけだ・・・・」
セリーヌの瞳から涙が零れる。
「殺められないよ・・・・
こんなにも魅力的なドール達を・・・・
殺めるなんて・・・出来ない」
セリーヌの震えた声。
その声はセリーヌのエクソシストとしての後悔の形だった。
「私がこの手で殺めなくとも・・・
でも・・・殺められる瞬間を見るのも嫌なの・・・・
皆助かって・・・・そしてイノセンスを取る方法を・・・
知りたいと思うのは・・・私だけなのかな・・・・」
色褪せて行くセリーヌの声に、誰が色を足してくれるのだろうか。
廊下で響く寂しい泣き声は、朝日が昇るまでずっと響いていた――――。
―消えて欲しくない君の温もり
どうしてだろう
こんなにも近くに居て抱き締めてくれるのに
君の姿は遠く抱き締めてるのは他の人のようで
とても寂しい―
見つめる亡骸
ドールだとしても
悲しみは深淵にある
強制的なAlice捜し、今始まる――――。
第13夜
セリーヌはその夜、アレンの部屋で眠りについた。
翌朝、セリーヌが見たものとは――――。
「・・・・そんな・・・・」
ガタンッ!!
セリーヌは1人、当たるはずの太陽も当たる事が出来なかったドールの前で膝を落とした。
「・・・早いよ・・・早過ぎるよ・・・」
セリーヌは真っ二つにされた亡骸の右手を握り締めた。
千切れそうな程強く握ったセリーヌの手は悲しみで小刻みに震えている。
「早過ぎる?
随分な戯言を言うな」
後ろから聞こえた、冷たい声。
セリーヌは声をピタリと止める。
「そんな戯言を吐く暇があンなら支度をしろ」
言い放たれた言葉の刃は見事にセリーヌの心に突き刺さる。
「ちょっ・・・ユウ!!!」
チェリーの声が聞こえる。
そんなチェリーの声でさえも、耳障りだった。
緑色のドレスに、一雫の涙の染みが出来た。
「緑嬢・・・・」
セリーヌの声は本人に届くはずも無く、響くこと無く消え失せる。
斜めに真っ二つにされたドールは、8番ドールの緑嬢だった。
―――――緑嬢。
貴女は斬られる瞬間、何を思っただろう。
死に満たされて行く瞬間、何を思っただろう。
そして斬られた時、どんなに痛かっただろう。
こんなにも早く死んでしまったドールを見て、〝哀しみ嘆く〟事は罪になるのだろうか?
罪にならないならば・・・・私は泣くだろう。
罪になっても・・・・それでも私は泣くだろう。
泣 く だ ろ う 。
無残にも切り裂かれた緑嬢の亡骸を抱き締めて、セリーヌは呟く。
「・・・・・・お休みなさい、緑嬢」
もう二度とは開かない、亡骸の唇にそっとキスを落として。
―食堂
今朝見たもののせいでセリーヌは何も食べられず、ただ食堂の椅子にぼぉーっと座っていた。
「・・・・食べないの?セリーヌ」
チェリーはそんなセリーヌの様子を視て呟く。
その言葉にセリーヌは頷く事も無く、遠くを見つめるような虚ろな目で何処かを見つめていた。
チェリーは辛そうに視線を落とす。
「・・・・私、食べる気になれないから先に部屋に戻ってるわ・・・・」
セリーヌが立ち上がる。
その皿にはいじられていない出されたままの食べ物が置かれていた。
ふらりふらりと食堂を出て行くセリーヌを、チェリーは哀しそうに見つめていた。
「・・・・」
次は誰が死して行くのだろう。
誰がAliceなのか、セリーヌには分かっている。
―蒼海―
夢の中で、蒼海の中にイノセンスが眠っている事が分かった。
夢の中で何故そんな事が分かったかなんて、知る由も無い。
「・・・・ッ・・・」
次々にドールは死して行くだろう。
たった1体のドールの死で、これ程心を痛める人間は居ないだろう。
居ないだろう―――――。
―もう二度と動かない亡骸
枯れた緑色の薔薇のように
彼女はもう動かない―
光は地へ闇は獄へ
漆黒の闇の天使
今、降臨――――――。
第14夜
ピィピィピィ・・・・
屋敷の木々の枝の中で、小鳥が鳴いている。
セリーヌは虚ろな目でぼぉーっと小鳥達を見つめている。
そのとき、セリーヌは遠くから何かが向かって来るのが見えた。
数は8体程で、1人がズバぬけて大きい。
「・・・??」
セリーヌが眉間に皺を寄せながら8体の黒い影を見つめる。
間近に迫ってやっと気付く。
――――あれは・・・・ドール?
「セリーヌさん!!!逃げて!!」
蒼海がそういうとセリーヌを突き飛ばした。
大きく尻餅をつく。
「・・・・君が蒼海ちゃんかな」
黒いドレスを身に纏い、蒼海の耳元で呟くドール。
「・・・輝鋼ッ!!」
蒼海はブルリと肩を震わせ、すぐに逃げ出そうとする。
「逃がさないよ」
もう1人の紳士服のドールが蒼海の前を塞ぐ。
「・・・蒼嬢ッ・・・」
蒼海は逃げられずに後ろに一歩後退する。
「中の物質・・・採らせて頂きますわ」
翠嬢がスルリとリボンを出す。
「・・・中の物質ッ?!
なんでよりによって私なの?
心の翡翠なら他のドールも持ってるわ!!」
蒼海が叫ぶ。
「それが違うんだよぉ~?
君の中に入ってるのは心の翡翠なんかじゃない」
癒夢は蒼海の心臓部分を指差して言う。
「・・・・神の結晶・・・だ」
癒夢の手はスラリと蒼海の体を突き抜ける。
「御機嫌よう、新たなるお客様」
蒼嬢と呼ばれたドールがセリーヌに一礼をした。
コイツ トキ
「どうぞ蒼海が殺される瞬間をご覧あれ」
蒼嬢の言葉とともに、癒夢の手が光を帯びた。
「・・・っ・・・あ゙ッ・・・!!」
蒼海の目が細くなっていく。
癒夢のが腕を高く上げると蒼海の足が地から浮く。
快感に満たされて行くかのような表情でセリーヌを見つめる。
「蒼海ッ!!」
「退きなさい!」
セリーヌが叫んだ瞬間、滑り込んで沙希が飛び込む。
振り向けば9体のドールと翡翠石が後ろに立っていた。
「やあ、citrusのdoll達」
蒼嬢がニヤリと笑って言う。
「お姉様・・・ッ・・・・」
一番最後に立っている2体のドールの後ろに、背の高い女の人が立っていた。
「久しぶりね、翡翠石」
お姉様と呼ばれた女性は口を開く。
「闇水晶様」
Purpledollsは一斉に闇水晶、そしてお姉様と呼ばれた人物の方を向く。
「蒼海を返してくれるかい?
ジャンク
壊れた人形たち」
セリーヌの後ろから現れた颯。
その顔は怒りに満ちていた。
「・・・・ねぇ、翡翠石・・・・
貴女に一つ・・・・聞きたい事があるの」
闇水晶は快感に溺れるような表情をしている蒼海の髪を撫でながら言う。
「何を聞かれても貴女に答える気は無いわ」
翡翠石の冷たい一言。
「あら・・・そうなの?
じゃぁこの子がどうなってでも?」
闇水晶がニヤリと笑う。
蒼海が苦しそうにもがき始める。
癒夢がニヤリと笑って瞬時に手を抜く。
一瞬だけ蒼海にごく普通の表情が戻ってきた。
だが、それも束の間。
今度はガッチリと蒼海の首を掴んで居る。
「っぅ・・・・っあ゙ッ・・・」
途端に苦しみもがき始める。
「止めてッ!!!」
セリーヌが叫ぶ。
「ねぇ、翡翠石・・・もう一度聞くわ。
その子が持っているブーツと長い腕輪は神の結晶かしら?」
闇水晶が見下ろすように笑うと、セリーヌを指差した。
「・・・・違・・・」
「そうよ」
翡翠石の言葉をさえぎってセリーヌは言う。
「セリーヌさん!!」
翡翠石が怒鳴る。
その言葉にセリーヌが一瞬目を瞑った。
「へぇ・・・・
じゃぁ・・・セリーヌさんというやらがつけてるのは・・・
蒼海と同じもので作られた・・・
神の結晶で作られたモノなのね?」
闇水晶がニヤリと笑う。
「・・・・そうよ」
セリーヌは言う。
「なら・・・・話は早いわね・・・
癒夢、手を離してあげなさい」
闇水晶が見下して言うと、癒夢はパッと蒼海を翡翠石のほうに放り投げる。
ドサッという音がして蒼海は勢いよく床に叩き付けられた。
「全員、この子に取り掛かりなさい」
闇水晶の言葉に、全ての者が耳を疑った。

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