― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

第27夜



「・・・セリーヌ・・・
 どうして髪切っちゃったの?

 あんなに綺麗だったのに・・・」


リリーが席に座るセリーヌを見つめながら言った。



「・・・綺麗?
 あんな不格好なのに・・・?

 左右の長さが違う髪なんて美しくも何とも無いわ・・・

 不格好なら切る・・・当たり前でしょ?」


セリーヌが冷たく言い放った。


「じゃぁリリーは朽ち果てた木は切らないの?

 切るでしょう?

 それと同じように、私の髪は不格好だったの。
 私の髪はアクマに食われて不格好になったのよ!!!」


セリーヌが叫んだ。



「・・・ねぇ・・・セリーヌ・・・・」


リリーが優しく撫でるように名前を呼んだ。


「・・・セリーヌの髪は不格好なんかじゃないよ・・・。

 セリーヌは入団した時のコト、憶えてる?


 私は憶えてるよ・・・?セリーヌが入団した時のコト・・・」


リリーは酷く優しい目をしていた。


―入団当初・・・。


リナリー達に道端に倒れていたのを拾われて・・・


それでそのまま教団に連れて行かれて・・・


初めて1人で教団の廊下を歩いた時は・・・。


よく親を離れられたよなとかよくそうやって堂々と歩けるよなとか沢山言われたっけ・・・



当時私は8歳で・・・



チビだのバカだの散々言われてろくに仕事も出来なかったよなぁ・・・



でも死んで帰って来た仲間を見て


〝嗚呼、死んじまったんだなぁ〟



って思って



1人で頑張った時・・・あったなぁ・・・―



「・・・セリーヌ?」


私はリリーに呼ばれてハッと我に帰った。



「・・・・どうしたの?急にぼぉーっとして・・・」


「別に・・・ただ昔を思い出していただけよ・・・」


セリーヌはそう冷酷に言いながら涙を零した。




―アレンside―



僕はふと我に帰った。



久しぶりにみたセリーヌの姿は変わっていた。



冷酷で、ますます綺麗になって――――。



まるで仲を引き裂くかの様にどんどん美しく麗しくなっていく―――。



フォークとナイフを止めてぼぉーっとしているアレンをラビは不思議そうに見ていた。



どうしてか、物凄く悲しかった。



セリーヌはもう僕の傍には居ない。



分かってる、分かってるよ――――。



―分かっているはずなのに・・・。

  心の何処かに君が欲しいと言う僕が居て

   君を欲しがっている

  もう僕は諦めた・・・・はずなのに―



第28夜



♪♪♪♪♪~~♪♪~~~



明くる朝、早くから自室で踊り狂っていた。


何かしないと、自分を見失ってしまいそうだったからだ。


リボンを高く舞い上げた時――――。




パリン・・・



私の心の何かが割れた。



―後ろから抱き締められたアレンの温もり。


後ろから好きって言ってくれたよね。



突然停電になって、アレンが戻らなくて良いって言ってキスしてくれたよね。



食堂でアレンが口を切っちゃった時。


流れた血を私がすくい嘗めたよね・・・。



操られたファル・・・。


矢を左手で掴んで握りつぶして・・・必死で護ってくれた。


傷だらけのシフォンにキスされた・・・



それで妬いて何処にも行かないって約束したよね・・・・―



全て、全て思いだせる。



アレンの笑顔、アレンの悲しそうな顔・・・。



カラン・・・


黒いリボンはフラリフラリと待って地に落ちた。




「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」



セリーヌは膝を落として思いっ切り叫んだ。



そして変わる、表情。



その顔は決意に満ちていた――――。



セリーヌはコートを羽織って部屋を駆け出した。




向かうは貴方の元―――――。



―リリーside―


タッタッタッタッ・・・



誰かが部屋の前を走り去る足音でふと目が覚める。



起き上がると時計は3時48分を差し、月が沈んでいなかった。


机に置いてあるペットボトルは空。


隣にあるお菓子の袋も空袋だった。



「お腹空いたなぁ~・・・・」


私は1人月を見ながら呟いた。



「あっ!!!」


私は何かを思い出したように立ち上がった。



―食堂へ行こう―



私は真っ先に団服を羽織って部屋を出た。


広い廊下に足音が響き渡る。


この時間に団服を羽織って廊下を歩く者等居ないだろう。


しばらく歩くと、食堂に行き着いた。


ガタンガタンッ・・・



中から音がした。


―誰かいるの?―



私は食堂の重いドアに手を掛け、そっと力を入れた。



ギィー・・・・


扉が徐々に開いていく。



扉の向こうには――――。




「・・・・・ラビ・・・?」



第29夜



「・・・?
 おー・・・リリーさ?」


ラビがストローを銜えて手を振った。


「・・・あはは・・・おはよ・・・」


リリーは苦笑いをして手を振り返した。


「こんな時間にどうしたさ?」


ラビは言う。


「べ・・・別に!!
 ただ早く目が覚めたから来ただけだもん!!!

 ラ・・ラビこそどうしたの!?」

自棄になって言う。


「オレ?
 オレも早く目が覚めたさー・・・。

 そんで腹減ったから此処にきたんさ」

ラビが一番奥の席に座って言う。


「へー・・・。
 私も飲み物もお菓子もなかったんだぁ・・・」


リリーはそういうとセルフサービスの紅茶を紙コップに入れて、ラビとは反対方向の一番入り口側の窓に近い席に着いた。


白い月が淡い青色の空の向こうに沈みかけている。


紙コップの紅茶が静かに湯気を立てていた。


「はぁ・・・」


紙コップを両手で持ち、ため息をついた。


湯気が変形しながら消える。


紅茶を少し口にし、テーブルに置いた。


すると、後ろから手が回ってきた。



「ため息ついて・・・どうしたさ?」


腕を絡めたのはラビ。


「べっ・・・別に・・・」


リリーは頬を赤く染める。


「いきなりこんな事されて驚いたさ?」


ラビが微笑みながら言う。


「・・・」


図星だったからか、リリーは黙り込んだ。


「リリー可愛いさ・・・」


ラビは笑ってリリーの頭を撫でた。



「・・・で?いつ離してくれるの?」


リリーが不機嫌そうに言う。


「・・・離さない」


「え?」


ラビの言葉にリリーが聞き返した。