― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

第30夜



「・・・みっ・・・見ないでください!!!」


アレンが後ろを向く。


「あー・・・」


セリーヌがニヤリと笑ってアレンの正面へと回る。


「もしかしてぇ・・・妬いてるぅ?」


アレンの顔を覗き込んだ。


「・・・」


図星だったのか、アレンは黙り込む。


「やっぱりぃ~♪?」


セリーヌがニヤリと笑いながら言う。


「せっ、セリーヌがいけないんですよ・・・!!!」


アレンが言う。




「・・・アレン」


セリーヌはそんなアレンを静かに呼んだ。



「本当に妬いてないのぉー?
 じゃぁなんで泣いてるのぉ?」

セリーヌがからかいながらアレンの顔を覗き込む。


明らかに涙が溢れていた。


「め・・・目にゴミが入っただけです!!
 妬いてなんか・・・いませんよ・・・・・・」

アレンが強く言う。


「泣いてるじゃん・・・しかも妬きまくりじゃん」


セリーヌが突っ込む。


「妬いてません!!!」


そしてまたそっぽを向く。


コッ・・・


セリーヌはアレンに一歩近付くと、


「・・・・アレン」


再び名前を呼んだ。


数秒たってアレンが振り返る。


「なんです・・・」


セリーヌは言葉を遮る様にアレンを抱き締めた。


アレンの頬が赤く染まる。


「・・・どうして?」


しばらくしてセリーヌが口を開いた。


「どうして?
 私がそんなにシフォンの所へ行きそう?

 そんなに私が軽い女に見えるの?」

セリーヌが早口で言う。


「いや・・・そんなつも・・・」

「じゃぁなんで?
 どうして逃げるように走るの?

 私・・・私はッ・・・

 アレンの傍、離れないから・・・

 だからッ・・・
 もう少し信用してよ・・・」


セリーヌの声がだんだん涙声になっていく。



「御免なさい・・・セリーヌ・・・
 だから・・・もう泣かないでください」

アレンがセリーヌを肩から離す。


アレンはセリーヌの唇に優しくキスを落とした。


「許してもらえますか?」

アレンが笑う。


「うん・・・」


「そして」


アレンが強く言う。


「・・・そして?」


セリーヌが首を傾げる。



「もう・・・一生離さない」


アレンはセリーヌの首に腕を絡めて口付けをした。




―甘い、甘い口付けを―



第31夜



―翌朝―


コッコッコッコッ・・・


廊下を歩く音が響く。


「ふわぁ~・・・
 シフォン怪我大丈夫かなぁ・・・」

セリーヌが欠伸をしながら言う。


「そんなにシフォンが心配ですか?」


アレンが言う。


「仲間としてなら心配だよぉ~?
 でもぉ・・・

 アレンは男の子として心配なのぉ」

セリーヌがアレンの首に腕を絡める。


「そこイチャイチャ禁止ぃー♪」


リリーが楽しそうに言う。


「まぁまぁ・・・放っておけばいいさ」


ラビがリリーを見て笑う。



賑やかに廊下を歩いていた時の事。




「こいつアウトォォォォォ!!!!ノアのティアナ・コールだ!!!」


門番の声が廊下に響いた。


「!!!」


その声を聞いた5人は驚く。


「・・・行こう」


セリーヌが呟く。


「でも!!!」

「・・・着いて来なくてもいい・・・
 でもただ・・・

 何か・・・変わったような気がして」


セリーヌがそう呟き、操られたように歩き出す。


アレンがそれについて行く。


それに続いてラビが走りだす。



レイリーとリリーは顔を見合わせて3人の後を追った。




―玄関―


「煩い門番だわ・・・
 いい加減にその変な顔を休めたらどうなの?」

「うるせぇのはそっちだよ!!!
 お前ノアのくせになんで教団にインだよ!!!」


門の前で少女と門番が口喧嘩をしていた。


「あら・・・
 貴方に聞こえてなかったかしら?

 ならもう一度言うわ・・・

 エクソシスト
 適合者のファル・アルフェイスよ・・・?
 今すぐセリーヌ、リリー、レイリー、アレン、ラビの5人に会わせて頂戴」


ティアナがニヤリと笑った。


「ファ・・・・・・ル・・・・・?」


セリーヌが上空から呟いた。


「降りましょう!!」


アレンが高い柵の外へと身を乗り出す。


アレンは風を切って下へと落ちて行く。


そしてラビ、レイリーと下へ落ちて行く。


「さ・・・セリーヌも行こう?
 1人の私達の仲間が私達を呼んでる」

リリーはそう笑うと下へ落ちて行った。


私もその後を追って下へと落ちる。


私は履いているブーツのスイッチを入れた。


咄嗟にブーツが光り、音速で下へ真逆さま。


下を降りていたリリー、レイリー、ラビ・・・そしてアレンまでもを追い越して行く。


シュゥンッ・・・



地面に激突しそうになったところで空へとUターン。


10メートル程地面から離れて再び地面に向かう。


セリーヌは下を向いたまま宙に浮く。


皆も無事に地面へと着地した。


「・・・誰かお呼びですか?

 私達の事」


しばらくしてセリーヌが言う。


「えぇ・・・呼んでるわ・・・

 私がね」

ファルが笑い返す。


姿はティアナ・コールそのものだ。


「・・・皆覚えてる?
 お菓子好きで特技は酒を飲める事。
 ちなみに15歳の未成年♪」

ファルが淡々と喋る。


「はいコレ」


セリーヌがポケットから出した小さな飴を後ろに投げた。


ファルが犬のように飴を追い掛ける。



「・・・ほらね?皆。
 これでこの子がファルだって分かったでしょ?」


マイクに向かって口走るセリーヌ。


ファルは飴を開けてもぐもぐと嘗めている。



第32夜



―司令室―


「久しぶりね・・・ファル・・・」


リナリーがファルを懐かしい目で見ながらコーヒーを運んできた。


「有難う・・・」


ファルは優しく微笑んだ。


「本題に入ろうか・・・。
 ファルちゃんは何で此処に来たんだい?」

コムイがファルに単刀直入に言う。


「私記憶が戻ったんです・・・
 それで・・・その記憶を辿ってたら此処に来て・・・
 なんかッ・・・

 今まで会ってきた人が5人で・・・ッ・・・
 会いたいなって思って門番に聞いたんです・・・」

ファルが言う。


「はぁ・・・ということは・・・
 ノアに居た時は記憶を消されてたんだね?」

コムイが片手でペンを取り、メモをしながら言う。


「・・・はい・・・
 ノアに居た時は機械にかけられて・・・

 その前に・・・
 もう1人連れて来られた女の子が・・・ウウッ・・・」


ファルは突然泣き崩れる。


「・・・その女の子が・・・ッ・・・
 セリーヌの・・・ッ・・・実の妹さんでッ・・・

 ロードに無残に刺されて・・・ッ・・・

 最後はティキに心臓を取り抜かれて死んだそうで・・・
 メッタ刺しにされる時は見たんです・・・

 先が尖った蝋燭で・・・

 グサッ・・・って鈍い音を立てて・・・
 きゃぁぁぁぁって叫んでて・・・

 それで刺されてからも・・・ずっと・・・ずっと・・・

 〝ふざけるな〟って嘆いてたんです・・・
 息絶えるまでそれを言い続けて・・・

 アァァァァァッ・・・」


バサッ・・・


ファルは書類の床に膝を落とした。


ポツポツと書類に出来るシミ。


「・・・それでぇっ・・・
 最後は・・・かくんと首を折るように死んで・・・

 それで・・・ロードに・・・

 持ってかれて・・・
 

 アァァァアァァァァッ・・・アァァアァッァァ・・・・」

ファルは泣き叫んだ。


「それで・・・それでッ・・・」


「ファル・・・もういいよ・・・」

リナリーが泣き崩れたファルの肩をたたいて言う。


「・・・御免なさい・・・
 思い出しただけでも辛いんです・・・

 でも辛いのは実の姉・・・セリーヌさんだって・・・
 そう思って・・・」

その話を聞いたセリーヌはカクンと頭をアレンの肩に乗せた。


虚ろな青い瞳からは涙が溢れていた――――。


そんなセリーヌをアレンがそっと抱き締めた。


「・・・それで・・・ッ・・・
 1つだけ・・・1つだけ・・・お願いがあるんです・・・

 聞いてくれますか・・・?」


ファルが涙声で言う。


皆迷うことなく頷いた。


―聞きたくないのは分かってる

  でもこれが『現実』だから

   そんなに現実は甘くないんだよ?―


自分への励ましの言葉。


「・・・私と誰か・・・入れ替わって欲しい・・・」


ファルは今にも掻き消されそうな声で言う。


「!!!」


皆の顔に驚きの表情が表れる。


「・・・ファル・・・
 それって・・・・どういうことなの・・・・?」


リナリーがファルの顔を覗き込みながら言う。


「今ノアは油断してるからッ・・・
 エクソシストは今頃は動いていない・・・
 これからもしばらく動かないから・・・

 そういう予想を立てて・・・
 私達を甘く見てる・・・

 その隙に私が逃げ出してきたんです・・・
 このまま帰ってこないとまずいから・・・

 だから誰かノアに帰って欲しいんです・・・」

ファルが言う。


「ちょっと待てよ!!!
 それって誰かが犠牲になれって事だろ?

 そんなの誰も出来るわけねぇだろ!!!」

ラビが椅子から立ち上がって怒鳴り声を上げる。


ファルがそれを涙を流しながら耳を塞いでいる。


「ラビッ・・・!!!」


リリーが怒鳴る。


そんな中、スッと蒼白い手が挙がる。





「・・・・・・・私が行く」


名乗り出たのは――――。