― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

第15夜



ドガッ・・・バキッ!!



刺した次は腕を傷付けて、蹴って殴って――――。



「・・・・放せッ・・・!!」


「そんな事いってる暇あったら死んじまえ!!」


ドカッ!!



セリーヌは後頭部を強く蹴られ、瞳を閉じた。



「ッ?!
 なんだよ・・・これ・・・」


1人の女が驚いて声をあげる。



「ばかな・・・!!
 この女は装備型のはず・・・」


足の横に緑色の線が出来、光を帯びている。


その緑の線に白いボタンが3つ。



「痛ッ!!!」


女が刃物で切りつけようとするとバチリと電気が走った。


「クソッ・・・!!
 マジで殺してやらぁ・・・!!!」


女は思いっ切りセリーヌの頭に向かって刃物を振り上げた。


ガツッ!!



「何っ?!」


女達がざわめいた。




気絶しているはずのセリーヌの足が刃物を止めたからだ。



カランッ!!


セリーヌは足で刃物を跳ね返す。


刃物はスリップして戸棚の下に消えた。



意識の無いはずのセリーヌが立ち上がる。



もちろん本人は意識無しだ。


「こんにゃろ・・・」


女達が一斉に襲い掛かる。



それにも構わずセリーヌは一気に足でふるい落とした。


書類の山に転ぶ女達。



次々とバラバラに襲い掛かるも、すべてかわされる。



ガツンッ!!!



リーダーらしき女の腹を強く蹴る。


「レイア様ッ!!」



―――――え?



その言葉にセリーヌが瞳を開けた。


彼女はすぐに立ち上がってセリーヌの首を鷲掴む。



「なめんな・・・ッ!!」


女は足でセリーヌを突き放した。


一瞬だけ、黒い中にまぎれた白いシンボルマークが見えた。




「・・・エクソ・・・シスト・・・・」


バタッ・・・



セリーヌはそう呟くと手の力を抜いた。




―アレンside―



「・・・・・・・ト・・・」


アレンは誰かの声が聞こえたような気がしてふと我に返った。


「・・・どうしたの?アレン」


リリーが訊ねる。



「・・・セリーヌが・・・」



アレンはふと立ち上がる。



「・・・え?!
 ちょ・・・ちょっと!!」

リリーは焦って操られたように走っていくアレンを追いかけた。



それを見てファルとレイリーが靴を発動して追いかける。


エクソシストの女子は移動にちなんで特別な靴を装備している。



セリーヌとレイリーはブーツ、ファルとリリーはサンダル。



忍とレイアとチェリーはイノセンスに浮く力が備えられているため、特別な靴は履いていない。




「・・・アレン・・・これ・・・」


廊下を走っているとリリーがアレンを呼び止めた。


リリーが手に持っていたのはセリーヌの右腕の武器だった。



「此処にも!!」


ファルが続いて左腕を発見する。


「・・・どうしてこんなところに・・・?」


レイリーが呆然と立って言う。




やはり、僕の嫌な予感は的中していたのか?




「・・・急ごう」


リリーは呟いて、僕の前を走り出す。



4人はがむしゃらに、教団の全ての場所を探し回った。







「・・・残るは・・・此処?」


レイリーがドアを見上げながら言う。



「此処しかいないんじゃないかな・・・」


ファルが言った。



「・・・開けましょう・・・」


アレンが一言呟くと、扉に手を掛けた。



ガラララッ・・・!!



扉は最後まで全開に開く。



アレンは目の前の光景を見て呆然と立っていた。



音も立てず一筋の涙が頬を伝う。


そして書類の絨毯に黒い染みを作った。



「・・・・・・ッ!!!」


アレンの横でリリーが声を出さずに驚いた。



「・・・そんな・・・!!!」


ファルは呟く。



ザッ・・・



書類の絨毯を踏み締めながらゆっくりと愛しい人に近づいて行く。


髪は切られ、血だらけの顔。



腹から血がどくどくと流れ出て、ぐったりとしている体。



ピキッパチッと音を立てて足が光を帯びていた。


「・・・ッ・・・セリーヌッ!!!」


アレンは叫んだ。



―こんなにも愛しくて恋しい

  だけどこんなにも哀しくて寂しい

   どんなに強く

  君の手を握っても

   返って来ない温もり


  返ってくるのはこの冷たさと

   この悲しみだけ

  どんなに辛くても

  君だけ抱き締めて

   離れたくない―



第16夜 ―リリーside―



―医務室―



「・・・危・・・・・・・篤・・・・・・・・」


レイリーがその言葉を聞いて両手を口で覆う。


「いつ目覚めるか・・・
 そして・・・いつ死ぬかも分かりません」


医療班の言葉に皆がはっと顔をあげた。



「・・・そんな!!」


アレンは叫ぶ。



「・・・あんなに深く傷を負って・・・

 助かるはず無いと思いますけどね・・・」

医療班の班員が諦めたように言う。


「なんだとっ?!」


ファルが殴りかかろうとする。



ファルをレイリーが必死で抑えた。


「そんな事したって何になるの!!」


それでも行こうとするファルに言う。


「放せ!!!放せよ!!!」


ファルがドタバタと足をばたつかせる。



「いい加減にしてッ!!!!」



パシッ!!


レイリーの叫びは医務室を静めた。


「・・・レイリー・・・」


ファルは呟く。



「そんなコトして・・・どうするの・・・?」


レイリーの目から滴り滴り涙が落ちる。


「・・・・・じゃぁ・・・
 じゃぁレイリーは・・・皆は悲しくないのかよ!!!

 仲間が危篤だっていわれて・・・!!

 嬉しいのかよ!!!」


ファルは泣き叫ぶ。




「そんな事を言ってるんじゃない!!!!」



レイリーが叫んだ。


その声にびくりと静まり返った。



「・・・皆悲しいよ・・・。
 ただ・・・セリーヌを思うことが・・・

 こんなにも難しいなら・・・・

 諦めちゃうでしょ・・・?普通・・・


 でもさ・・・

 皆逃げないで此処に居るじゃん・・・

 今という現実を見ているじゃん・・・・


 逃げて無いじゃん・・・・



 それだけでも凄い事だって・・・思わない?」


レイリーの声はだんだん悲鳴に近くなって行く。



レイリーの悲痛な叫びはセリーヌの顔の白を濃くしているような気もした――――。



「ねぇ、医療班員さん?」


後ろから聞き慣れない声。


「大変な怪我人を連れてるの。

 早く治してくれない?」


血だらけの神田に肩を貸して淡々と言う少女。



「・・・神田・・・?!」


ファルが驚く。


「チェリー・・・?!」


リリーが呟く。



「あら、リリーじゃない?
 どうしたの?仲間みんなで」

チェリーが言う。


血で汚れた団服で、まるで人殺しを楽しんでいるようにも見えた。


「うわぁ・・・酷いですね・・・」


医療班員が傷を見て驚いている。



「あぁ、御免・・・
 また言い難い事聞いちゃったぁ?

 御免ねぇ、癖だから・・・」


チェリーは笑う。


「ううん・・・いいの・・・。
 そっちはどうしたの・・・?」

「こっち?
 私とユウが任務先でアクマと戦ってたのー・・・

 そしたら後ろから私をアクマが襲ってきてー・・・
 それをユウが庇ってこんなに」

チェリーが言う。


「俺のファーストネームを口にすんじゃねぇっ・・・」


神田が声を低くして言う。



まぁ元々低いが。



「あはははは♪御免御免♪」


チェリーが笑った。



―天国と地獄

  同じ部屋なのに違う世界2つ―



第17夜



―翌朝―



「はぁ~・・・」


朝9時、食堂にも行かずに自室で蹲っていた。



仲間が、あんな風になって元気になれるはずが無い。



「・・・寂しいなぁ・・・」


リリーはため息をついて呟いた。



「どうして寂しいんさ?」


廊下から聞こえた声。


「ラビ・・・!!!」



廊下の壁に寄り掛かって立っていたのはラビだった。


「昨日から元気無いさ・・・。」


ラビが言う。


「あ・・・うん・・・
 御免ね・・・心配かけて・・・

 廊下寒いでしょ?

 入っていいよ・・・」


リリーが言う。



ラビはつかつかと歩いて来た。



「えっ?!わぁっ!!」


ラビはいきなりリリーを抱き締めた。



突然だったので、驚きを隠せないリリー。



「どうしてさ・・・?
 こうやってオレがいるのに・・・

 なんで寂しいさ?」

ラビが耳元で言う。


「・・・だって・・・セリーヌ・・・が・・・ッ・・・
 大切な仲間があんな状態になって・・・

 元気で居られるはずなんか・・・無い・・・」


リリーの目から涙が零れ落ちた。



ラビもセリーヌの事は知っていた。


だから、励ましに来てくれたんだろうか・・・?



「・・・もう我慢すんなよ・・・
 ショックとか隠してんじゃねぇよ・・・

 護る側だけじゃなくて護られろよ・・・」


ラビの優しい言葉。



そんな言葉に、涙が止まらなくて返事も出来なかった。



―本当に辛いのはセリーヌなのに―



私なんかが泣いていいの?


セリーヌは死ぬ程哀しくて辛いだろう。



そしてそれでも笑っているセリーヌを見ている私達も辛い。



「ラビのばか・・・」


泣き嘆く私のせめてもの八つ当たり。



「バカで悪いさ?」


崩れそうな私を必死で支えてくれているラビの言葉。



「・・・リリー?」


名前を呼ぶラビ。


「・・・愛してる」


君の甘過ぎる口付け。



君のセイで愛してるも言えないんだよ?



ラビばっかり愛してるって言わないで・・・





―私だって君以上に君の事を愛してる―