― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

神の言葉が嘘ならば

 君の言葉も嘘であり

 私の言葉も嘘になる

 嘘で塗り固めた愛の結晶

 塗り固めた嘘を剥がしてよ



第24夜 ―チェリーside―



 月が光り輝いている。



 その月から私に降り注ぐ月光は、私の瞳を貫くように綺麗だった。



 今宵は満月。



 チェリーは大きな青白い満月に微笑みかける。


「何独りでニヤニヤしてンだよ」


 後ろから聞こえた低い聞き覚えのある声に、チェリーは振り向いた。


 息を切らしながら屋根を上ってきた神田が居たのだ。



「・・・神田ぁ」


 チェリーが息を切らしている神田に微笑みかける。



「チッ・・・
 こんな馬鹿げた所に上りやがって」


 神田はつかつかと歩いて来てチェリーの隣に腰を下ろした。


「馬鹿げた・・・って言ったわりには・・・
 私の隣なんかに座って・・・

 ねぇ?神田」


 チェリーが意地悪そうに言う。



 神田からの言葉は返ってこなかった。


「・・・・か・・」



「何故名前で呼ばない?」


 チェリーの言葉を神田が遮る。



 その言葉を耳にして、チェリーは怪しく笑った。



「バレちゃった?
 理由・・・なんだと思う?」


 チェリーが神田の顔を覗き込んで言う。



「知るか、そんなもん」


 神田が月を真っ直ぐに見つめながら言う。


「分かんない?
 ヒントは・・・

 〝欲〟」


 チェリーが神妙な顔つきで言う。



 ガタンッ!!



 その瞬間、神田はチェリーを押し倒した。



 つまり、チェリーの上に神田が居る状態。



「そっちが欲しいんじゃなくて!!

 神田の鈍感!!」



 チェリーが叫ぶ。


「・・・チッ
 だったら何だよ」


 神田は覆い被さるのを止めて、屋根に座り直して言う。


「もう・・・だから・・・
 〝欲求不満〟だって言いたいの!!」


 チェリーが欲求不満を強調して言う。


「あってんじゃねェかよ」


「そんな欲は欲しくないもん!!

 ただ・・・心配なの」


 チェリーが視線を下に向ける。


「セリーヌ達はキスとかいっぱいしててラブラブなのに・・・
 ユウは私に何もしてくれないから・・・

 だから・・・不安なの。

 キスも何もしてくれないし、言葉だけのような気がして・・・」


 チェリーは両手の指を絡めながら俯いて言う。



「ねぇ、ユウ・・・
 1個だけ・・・お願いしてもいい?」


 チェリーが顔を上げて、神田を見つめた。



「ンだよ」


 神田は無愛想に答えた。





「今此処で、私にキスをして」


 チェリーが神妙な顔つきで言う。



 真っ白な肌は、月光によってもっと白く輝いている。



 神田の答えは――――。



第25夜



「セリーヌ・・・大丈夫?」


 リリーはセリーヌの肩を支えながら言う。


「・・・わかんない・・・
 どうしよう・・・全然駄目だ・・・」


 セリーヌの顔に不安の表情が表れた。



 2人は月光の下、屋敷の庭で歩く練習をしていた。



 昨日の戦いのせいでセリーヌの足が酷い怪我をしてしまったのだ。


「強制開放なんかあまりするものじゃないよ・・・
 体力も倍に消耗するし、影響が出るし」


 リリーは呟く。


 一歩歩く度に、草の擦れる音がした。



「でも・・・
 ああやって強制開放してまで闘うって・・・・

 なんか・・・とても素敵な事のような気がして」


 セリーヌが柔らかく、草に向かって微笑んだ。


「闘ってたあの時・・・
 とっても辛くて痛くて、哀しかった。

 でも、仲間の為に闘ってる・・・
 そして自分の為に闘ってる・・・

 仲間を護りたいって思えば・・・・

 Lv3でもノアでも、伯爵でも怖くないんだよ」


 セリーヌは一息をつくと、リリーを見た。


「だから私はどんな相手が来ても戦い続ける。
 でも・・・悲しい時は悲しくて、

 嬉しい時は嬉しいでしょ?

 エクソシストだからって人間じゃないはず無いから・・・
 だから私は悲しい事は見てる事しか出来ない。

 嬉しい事は見てる事以外にも出来るけど・・・

 悲しい事には参加出来ないから・・・
 ブックマンとエクソシストって似てるよね・・・・

 エクソシストもブックマンも・・・

 離れる度に泣いてはいけないんだもの」


 セリーヌは悲しそうな顔をして笑った。




〝離れる度に泣いてはいけないんだもの〟




 確かにそうかもしれない。


 でもそんな事が許されないのは悲し過ぎる。



「・・・私達はいつ死ぬか分からない。
 もしかしたらこの屋敷で死体となるかもしれない。

 それでも私達は闘わなければいけない。

 その辛さと悲しみはこの世で一番だと思う。
 だけど、その辛さと悲しみを次の任務に生かす。

 そこで思った感情は、決して無駄にはならないと思うの」


 セリーヌはリリーの手を離してバサリと草の地面に膝を落とした。



「雨が降って来た・・・
 だいぶ上達したよ・・・有難う」


 セリーヌはよろよろと立ち上がると、リリーの手を引いて歩き出した。



君の言葉だけは

 嘘じゃないって信じてるから

 だから信じてよ

 私の言葉は嘘じゃない



第26夜 ―チェリーside―



「あはは♪嘘だよ、嘘♪
 本気にしたと・・・・・・・」


 チェリーの唇を神田の唇が塞いだ。



 チェリーの顔に赤い火が灯る。



 しばらくして唇を離す。



 銀色の糸が2人を繋いだ。


「・・・ユウ・・・」


 チェリーが頬を赤く染めて神田を睨んだ。


「ンだよ?
 先にしろって言ったのはお前だろ」


 神田が睨み返す。


「だって・・・
 言ったら恥ずかしくなっちゃったんだもん・・・

 こんな高い所だとみーんな見えちゃうでしょ?」


 チェリーが俯く。


「見せ付ければいいじゃねェかよ」


「見せ付けたらはずか・・・・」


 再び神田が唇を塞いだ。



 時折漏れる吐息が、チェリーを酔い痴れさせる。



 再び唇を離せば、銀色の糸が2人を繋ぐ。


「ユウばっかずるい・・・」


 チェリーが涙目で睨んだ。



 どうやら相当苦しかったらしい。



「抵抗しなかった奴誰だよ」


 神田が一瞬だけ怪しく笑った。



「・・・ッ・・・それは・・・・」






「キャアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!」





 チェリーの声を、誰かの悲鳴がかき消した。



「・・・?!・・・セリーヌ・・・・?」


 チェリーがポケットから扇子を取り出して呟く。



「イノセンス・・・発動!」


 チェリーのブーツの模様が変化し、扇子が開いた。



「ユウ、私様子見てくる・・・・」


「おい!!待て!」


 神田の声は虚しく空に響いた。




「・・・チッ・・・罠だったかもな」