― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

モノ
殺めた人形は戻ること無く
殺められた人形は永久に笑わない
その哀しみ
殺めたという後悔に
私はうなされ
必死で逃げようともがいていた
第30夜
「いっただっきまーす!!!」
食堂に響く、ファルの元気で威勢のいい声。
「ファル!!
叫ぶのは止めなさいって言ったでしょう!?
何度言ったら分かるの!!」
「忍さん、いいんです・・・・
残りに残った私たちも・・・・
近いうちに、死にますから」
蒼海の声がやけに遠く感じた。
セリーヌは人形達を次々と殺して行く自分らに、心を痛め続けていた。
1体の人形の命の重みは言葉に表せないほど重いことを、セリーヌは知っていた。
「・・・・もしも・・・・
私が・・・・私が・・・・殺される運命にあるならば・・・・
私は・・・貴女と・・・・世界の為に・・・・
在りましょう・・・・」
短期間で人形のようになってしまったセリーヌを、エクソシスト女子軍は傷ましいものを見るような目で見つめた。
最近、仲間の視線でさえ敵のように感じている。
「・・・・セリーヌ・・・・」
そう、愛しい君の声でさえも。
「おい」
しんと静まりかえった食堂に、神田の声が響く。
一瞬のうちに六幻をスラリと抜いて、セリーヌの両目の間に刃先を当てる。
「ッ・・・ユウ!?
ちょっとやめてよ・・・・」
「うるせェ、お前は黙ってろ」
神田の言葉に、チェリーが黙る。
自分の団服の裾を握り締めて。
「・・・・刺せば?」
やけに落ち着いたセリーヌの声が、食堂に響いた。
「・・・セリーヌさ・・・」
「泣く私が邪魔なら、そのまま右手を押すだけだよ?
静かになるなら殺せばいい」
蒼海の声をかき消す、セリーヌの声。
凛とした声はセリーヌでないように感じさせた。
「・・・・お前」
「うるっさいなぁ」
神田の怒りに満ちた声を、セリーヌの声がかき消す。
2人の出している威圧感によって、他は声を出すことさえ許されなかった。
神田の六幻を握る右手が震え、セリーヌの両目の間からは血が流れ出す。
流れてきた血を、セリーヌはペロリと舐めとった。
セリーヌは突然、六幻の刀身を右手で鷲掴む。
右手の平から細い血の糸が腕を伝って行く。
パキリパキリと、六幻にヒビが入って行った。
神田の表情が変わる。
「セリーヌ・・・・」
チェリーは発言途中で黙り込む。
止める勇気が無かったのだろうか。
「・・・・命の重み、知っているのは誰も居ないのね・・・・
私でさえも、敵でさえも。
エクソシストでさえも」
セリーヌの哀しい呟きと共に、一筋の涙が頬を伝う。
その涙が血のように見えてもおかしくはないような気がする。
血等雑じってはいないが、哀しみが混じる。
人々の悲しみ・・・・伯爵が、好きなモノ。
目の前で大切なモノは
次々と、次々と
殺され亡くなって行く
神は、大切なモノのヒトカケラも残してはくれない
残酷な、運命
第31夜
「・・・・この際だから言わせてもらいましょうか?エクソシスト様方」
緊迫した空気の中で、光姫が立ち上がる。
「・・・・ッ・・・・光姫!」
「いいんだ、姉さん。
・・・・この際さ、言わせて頂こうじゃないか」
黒姫からエクソシスト達へと向けられた光姫の鋭い閃光が、セリーヌの心を貫いた。
光姫が言う事は、生き残ったドール達には分かりきっている。
「・・・・エクソシスト様方。
貴方達が来てからこの屋敷は急に変わりました。
何処がお変わりだと思いますか?」
「・・・・それは・・・・雰囲気とか?」
チェリーが呟く。
「貴女の言うとおり、雰囲気も変わった。
でも、貴方方が来てから雰囲気の他にも変わってしまった。
この屋敷の全てが」
光姫の鋭い閃光と共に浴びせられる、鋭い発言。
食堂の空気をさらに緊迫した空気へと追い詰める。
「・・・・エクソシスト様方が来てから、我等Citrusdollsが次々と死して、残りは半分程しか居なくなった。
これが何を意味しているかと言うと・・・・
エクソシスト様方、貴方方は我等を全て殺そうとしている。
違いますか?」
光姫の推理に、エクソシスト全員の表情が変わる。
他のドール達は表情一つ変えずに、じっと座っていた。
「・・・・何かおっしゃってください。」
光姫は容赦なくエクソシストを責める。
「六幻災厄招来」
緊迫した空気を、神田の低い声が破る。
「界蟲一幻」
神田は左から右に、自身の持つ剣で空気を切り裂く。
とたんにでた界蟲達がドール達に襲い掛かる。
一瞬の事だった。
「・・・・光姫・・・・沙希・・・永久・・・」
「光姫・・・沙希様・・・・永久様・・・・」
蒼海と黒姫の声が被る。
攻撃を受けたのは、5体のドール全員では無く、光姫と沙希と永久だけ。
「・・・・さよなら、我が姉妹達よ」
沙希はそういうと一瞬のうちに、姿を消した。
中に入っていた、心の翡翠を除いて。
「・・・・そんな・・・・嫌です・・・・沙希様!!」
心の翡翠を手にし、泣き叫ぶ蒼海。
「・・・・全く・・・最後まで泣き虫なんだから・・・・
蒼海・・・・あんたは最後まで生きるの・・・
黒姫、そんな顔はしない・・・
2人とも、Citrusdollsなんでしょう・・・・?」
永久の青白い顔に、ひびが入る。
パキパキリと体全体が音を立てて割れて行く。
「永久様まで・・・嫌・・・・行かないで・・・・」
「蒼海・・・!!」
足が崩れた永久が、力ない声で怒鳴る。
「・・・・青い海のように、輝いて生きなさい」
永久は蒼海に笑いかけると、ボロボロと崩れる銅像のように粉々に崩れ消えた。
出てきた心の翡翠も、蒼海が手にして抱き締める。
「・・・・ああ、愛しい姉妹よ・・・・
僕は、永久に・・・永久に生き残った君達を離れない・・・・
だから、生きて・・・・
また、僕に笑いかけてくれ・・・・」
フラフラと立っていた光姫が、崩れ落ちる。
崩れ落ちた光姫を黒姫がしっかりと支えた。
「光姫・・・・
駄目!!行っちゃ嫌・・・・!!!
貴女が居なくなったら私はどうすればいいの?!」
「・・・黒姫・・・・
君は、僕が居なくとも生きられる・・・・
何もしなくていい・・・・だから・・・・
せめて・・・死んだ仲間の償いとして、最後まで生きてくれ」
光を帯びてひびが入った光姫の右手が、黒姫の涙を拭う。
「駄目!!
死んじゃ嫌よ・・・・
光姫!!
貴女と私はずっと一緒だって・・・・約束したじゃない・・・・」
黒姫の涙が光姫の肌に落ちて行く。
「・・・・光姫・・・
僕が・・・・見えなくとも・・・・
君と僕の絆は・・・・永久に切れない」
足からボロボロと崩れてゆく、光姫。
「・・・・駄目・・・駄目よ・・・・
光姫ッ!!!!!!!!」
必死で抱き締める、黒姫。
それでも貴女は、崩れて消えて亡くなってしまう。
私は、目に見えて貴女に居て欲しかったのに――――――。
「・・・・光姫・・・
御免ね・・・・いつまでも・・・・頼りないお姉ちゃんで・・・・
御免ね・・・御免ね・・・・」
残りに残った光姫の心の翡翠を両手で包むように抱き締めて、振り絞った声。
「・・・残りは、お前等2体か」
「ユウ!!」
神田の言葉に間髪入れずにチェリーが叫ぶ。
「ユウ!!ユウッ!!!」
チェリーは、叫び続ける。
「目を覚まして・・・・ユウッ!!」
涙で濡れた目から、溢れた涙が零れる。
遠ざかった背中を見つめる怖い夢は、正夢となった。
君が泣いている寂しい夢も、正夢となって。
全てが崩れて行く、静かな夢も――――。
いつかは、いつかは。
張られた結界
もう、逃げる道は無い
それでも私達は逃げ続けるの
仲間の為に
自分の為に
第32夜
皆が寝静まった夜、2つの物音が廊下に響いた。
「・・・・蒼海、静かに歩いて」
「すいません」
同じ黒いドレスに黒いヘットドレス、黒い靴という葬式に行くかのような格好をした、2体のドール。
宝石のような星が輝く夜に、彼女らは玄関の扉を開く。
誰にも気付かれぬよう、こっそりと。
「・・・・翡翠石様、申し訳ございません・・・・
どうか・・・・ご無事で」
蒼海が哀しそうに目を細めて言うと、綺麗に頭を下げて、先頭を歩く黒姫につこうと振り向いた。
「・・・・蒼海・・・」
黒姫がしりもちをついて外を見つめている。
「・・・どうしたんでしょう、黒姫」
蒼海が慌てて走り駆け寄った。
「・・・・この屋敷に・・・結界が張られているわ・・・・」
黒姫が何かに触れるように手を上げる。
黒姫の動く指先が少し離れた別の場所で動く。
「・・・・エクソシスト様方・・・・」
そんな様子を見て蒼海が哀しげに呟いた。
その後、気の遠くなるまで結界を出る方法を考えた。
そして、出ようとした。
でも、全て無駄になって消えて行くだけ。
「・・・・蒼海・・・
この結界、一瞬なら破れるわ」
黒姫の言葉が、結界に体当たりしていた蒼海の動きを止めた。
「・・・・その方法とは?」
蒼海は訊ねる。
「・・・・私の力で、この結界を一瞬だけ拒絶する事ができる」
黒姫が自分の右手を見つめながら言う。
「・・・・でも、この結界って物凄く強い・・・・」
「大丈夫、私には簡単なことなのよ?
さあ、荷物を持って、準備を整えて」
黒姫に言われるがまま、蒼海は準備を整える。
一方、黒姫は準備も整えずにただ草の地面に結界と向かい合っているだけ。
「黒姫も、早く準備を・・・・」
「悪いけど、私はこの結界と自分を同化させる事が一杯なの。
あと、結界を破る事が出来るのは30秒だけ」
黒姫の鋭い閃光が、蒼海の心を射る。
「・・・・30秒・・・・」
「そう、30秒。
私は結界を外から閉めて行くわ。
・・・・ほら、結界が」
黒姫の視線が結界へと移される。
そこには、黒姫の力によって透いた青色になった結界。
四角い入り口が出来ていた。
「黒姫・・・・先に行って待っています。
どうか、追いかけて・・・・」
蒼海は黒姫に向かって礼をすると、大きな黒い鞄を抱えて走り去って行った。
「・・・・あぁ、行ってしまった」
黒姫は結界に触れるのをやめる。
敗れた入り口は元に戻り、決壊は透明に。
「・・・・?!」
黒姫は、自分と草が同化している事に気付いた。
「・・・・こうだと思いましたわ、エクソシスト様方・・・・
嗚呼、女神様・・・・
もしも貴女が居るならば・・・・
最後の一人だけでも、生き残してやってくださいな・・・・女神様」
黒姫の体は、粉のように結界に吸われて行く。
徐々に透き通って、憂鬱な哀しそうな顔で。
「・・・・光姫・・・
どうか許してください・・・・
頼りなくて貴女の代わりに生きられなかったような私を・・・・
怨まないで・・・
愛しい妹よ・・・・貴女の為に生きたかった・・・・」
黒姫の透き通った目から、涙が零れる。
その涙が、草に落ちる事は無くとも――――。
「・・・・蒼海・・・しっかりと・・・・・・生きて・・・・」
黒姫の手が、
黒姫の体が、
黒姫の、心が――――。
黒姫は跡形も無く結界に吸われた。
残ったのは、心の翡翠と黒い鞄だけ――――。

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