― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

第6夜
コッコッコッコッ・・・・
廊下にたくさんの足音が響く。
楽しそうに笑いながら歩くのはセリーヌ、リリー、レイリー、シフォン、アレン、レイア、ファル、ラビの8人だった。
アレンは不機嫌そうな顔をしてちっとも喋ろうとせず、対照的にセリーヌはリリーとレイリーとファルで楽しそうに話している。
「ねぇ、アレンはどう思う?」
セリーヌは隣に居たアレンに訊ねた。
「・・・」
アレンは無表情で顔を反らした。
「ねぇー・・・。
話聞いてたぁ?」
セリーヌは言う。
「・・・おーい・・・ア・・・」
「セリーヌは僕が嫌いだからそんな事するんですよね?」
アレンが呟いた。
「え?」
セリーヌがその言葉に聞き返す。
「・・・・ちょっとアレン・・・そんな事言わないでよ・・・」
リリーが心配そうに言う。
「セリーヌは僕の事が嫌いなんでしょう?!」
アレンは怒鳴る。
「は・・・?いきなり何・・・?」
レイリーが目を吊り上げて言う。
「セリーヌは僕の気持ちが分かっててそういう事するんですか?!
もう少し人の気持ちを考えて行動したらどうなんですかね!?」
アレンが怒鳴る。
ドンッ!!!
隙間無く鈍い音が響く。
その鈍い音に反応して団員達が振り向いた。
セリーヌは団員達を恐ろしい形相で睨んで行く。
その視線に耐えられず団員達は再び歩き出した。
「ちょっ・・・セリーヌ!!」
ファルが驚いて言う。
アレンが壁に叩き付けられた体を這い上げる。
「・・・えぇ・・・
あんたなんか嫌い・・・大ッ嫌いよ・・・
あんたなんか死ネぇっ・・・死んじまえっ!!!
私とあんたはもう関係ないのになんで?!
なんでまた傷付けようとするの?!
そっちだってそんなに私の事が嫌いなの?!
私だってあんたの事大ッ嫌いよ!!!
私の事なんか忘れてレイアと愛し合ってれば?」
セリーヌは叫ぶとブーツの光速ボタンを押し、レイアをアレンの方に蹴った。
そして見えないぐらいの速さで光になり飛びぬけて行く。
―自室―
セリーヌは自室に入ると鍵も閉めずに奥へと突っ切る。
奥の部屋につけばブーツは光を消し、地に足を着かせた。
「・・・どうして・・・?どうしてなの・・・?」
ガタンッ・・・
セリーヌは顔を両手で覆って膝を落とした。
そしてふと目に入った物。
それが目に入った瞬間セリーヌの涙が消えた。
―手に入れた一瞬の快楽
この一瞬の時が全てを忘れられる時間だったの
こんな私を許して下さい
こんな私を堕としてください
地獄の奥底へ―
第7夜 ―リリーside―
廊下をひたすら走る3人。
「・・・セリーヌっ・・・何処行ったの・・・?!」
リリーが唇を噛み締めながら言う。
「自室は?!」
ファルが言う。
「自室!?
かなり歩くけど行く?」
「もちろん!!!行かなかったら何処行くの?」
「そうだよ!!もう此処しか居ないって!」
リリーの呼びかけに答える2人。
―遠く遠い仲間の部屋
走り転び歩き止まり
聞こえてくるような気がするの
誰かが歌う哀しい歌が―
走って6分ほどした所、辺りの部屋と変わらない見慣れた部屋のドアが見えた。
同じ扉のはずなのに何故か哀しく見えた―――。
「・・・・・・国で♪
僕らは・・・・・♪
・・・・・ながら♪
唄った♪」
部屋の奥からは綺麗で繊細な歌声が聞こえて来る。
「・・・・ぬ♪・・・たちが♪
・・・・・いようと♪
いつか・・・・ずに♪
戻って・・・・ように♪」
その繊細な歌声にそってリリーが唄いだす。
リリーの歌声に繊細な歌声はピタリと止まる。
リリーはそれをキャッチし、ドアノブに手を掛けた。
カチャ・・・
見慣れた広い部屋。
この部屋にはセリーヌの姿は見えない。
―だとしたら・・・奥か―
リリーはそのまま表情一つ変えずに前に進む。
近づけば強くなる・・・嫌な予感。
ファルとレイリーは黙ってリリーについて行く。
コンコン・・・
リリーはそっとドアを叩いた。
しかし、返事は無い。
コンコン・・・
もう一度叩く。
返っては来なかった。
「・・・セリーヌ!!居るんでしょ?」
ドンドンとドアを叩きながら叫ぶ。
それでも返答は無かった。
「・・・どうしたんだろ・・・」
ファルが心配そうに呟いた。
「・・・開けるよ?」
リリーはそう言うとドアノブを掴み、左回りに捻った。
カチャ・・・
扉開いても声一つしない部屋。
大きな窓ガラスから月の光が差し込んでいた。
リリーは足を踏み出す。
「・・・・!!!」
そこには言葉に出来ないほどの光景が広がっていた。
第8夜
レイリーとファルがリリーの横に来てその光景を目の当たりにする。
「・・・ハァッ・・・!!!」
レイリーは口を両手で覆って大きく息を吸った。
「・・・何よ・・・これ・・・」
ファルが呟く。
ベットのシーツに染みた鮮血。
グッタリと蒼白くなった手首が鮮血の小さな絨毯の上に置かれている。
手首は深く切れ、右手はカッターを握っていた。
麗しい目蓋をそっと閉じて、長いまつ毛が水滴を帯びていた。
頬に残った真っ直ぐな涙痕。
綺麗な涙痕が何があったかを物語っていた。
「・・・ッ・・・」
ポタリポタリと滴り流れて行く涙。
セリーヌの右手首にそっと指を当てた。
トクトクトクと脈打っている。
「・・・よかった・・・
生きてる・・・生きてるよ・・・」
一滴の涙が白いベットシーツに染みた。
「・・・タオル・・・濡らして来る」
そういうとレイリーは黙って部屋を出て行った。
「バカなセリーヌ・・・
願いとか望みなんて・・・
どんなに遠くたって・・・
誰にだって届くのに・・・」
ファルは呟いた。
「恋しくて哀しいのにどうして・・・?
どうして1人で背負おうとするの?
私達は何の仲間なの・・・?」
ファルは呟く。
「力になってあげられなくて・・・御免ね・・・」
カーペットに一滴、音を立てずに涙が染みた。
「・・・・・・・で・・・
僕らは・・・・・ながら・・・・
唄った・・・
見知らぬ・・・・たちが・・・
・・・・いようと・・・
・・・・迷わずに・・・
・・・・こられるように・・・・」
セリーヌが唄い出す。
その歌声にリリーの涙がピタリと止まった。
「・・・にも・・・・よう♪・・・
忘れえぬ・・・・・・つばさを♪」
弱々しくて、今にも掻き消されそうな小さな歌声。
「「優しくて哀しい・・・・・♪
気持ちは・・・・・で♪
・・・・・・・いくのだろう♪
蒼い・・・・・の中♪
君だけ・・・・・める♪
・・・・・蔓となって♪
・・・・・・絡みついて♪
離れたくない・・・♪」」
2人の高く繊細な歌声。
それはタオルを濡らして帰って来たレイリーの耳にまでも届かせた―――。
―1人で背負い込む仲間
目覚める前に唄ってよ
私の好きなこの歌を
貴方なら迷わない
だから唄ってよ
その歌の翼で―

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