― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

取り除くことなどしない
そんなことをして残るのは悔やみと苦しみだけだからだ
だから私は殺さない
悲しみが残るだけだからだ
今この子を逃がしたら、私は罪人なのでしょうか?
第33夜
蒼海は暗闇を走っている。
追いつかないようにと、そして黒姫が追いつくようにと。
「・・・・!?・・・・」
蒼海は黒姫を察知したのか、足を止めた。
「・・・・そんな・・・・黒姫・・・・・」
どうやら黒姫がドールでなくなってしまった事が分かったらしい。
「・・・・黒姫・・・
私・・・・どうすればいいの・・・・
1人ぼっちは嫌だよ・・・・」
蒼海はその場で崩れ落ちる。
月の光が、蒼海を寂しく照らしている。
そのとき、月の光に当たる蒼海を誰かの人影が包んだ。
振り向けば、少し離れた所にセリーヌの姿が在った。
「・・・・蒼海」
セリーヌは呟く。
「・・・・セリーヌさん・・・・何で此処に・・・!?」
「翡翠石さんが蒼海を探していたの・・・・
此処に居たんだね・・・・」
いつもより暗い、セリーヌの声。
ゆっくりと地面を踏みしめて近付いて来る。
「嫌・・・・来ないで・・・・」
「・・・・蒼海、帰らないと翡翠石さんが心配してるよ?」
セリーヌが顔を上げて笑う。
その笑顔によって、蒼海の疑いが晴れた。
「・・・・帰ろう?蒼海」
セリーヌの優しい声。
不思議と、惑わされている気はしなかった。
蒼海は気付いていなかった。
団服に染みた、涙の跡に。
「・・・・残ったのは、蒼海と翡翠石さんなんだね・・・・
辛かったでしょ・・・・御免ね・・・・?
明日、私達と一緒に逃げよう」
セリーヌの震えた声。
蒼海と手を繋いでいない方の手は、びくびくと震えていた。
蒼海は、セリーヌだけは裏切り者ではないと信じている。
無駄な信じる気持ちになるとしても――――。
しばらく歩けば屋敷の前。
蒼海が慣れた手つきで門の鍵を開け、セリーヌを引き入れた。
蒼海が後ろを向いて門の鍵を閉めている間に、セリーヌは隠し持っていた注射器の針を蒼海の首筋に注した。
「・・・・痛ッ・・・・」
蒼海がふと呟く。
「大丈夫・・・・?
虫に刺されたのかな・・・・
早く行こう?」
「そうですね・・・・」
バタッ
蒼海はそのまま倒れてしまった。
注射器の中に入っていた液体は、睡眠薬だったのだ。
解けない拘束
こんな事をして私はいつか後悔をする
第34夜
ジャリッ・・・・
金属の擦れ合う鈍い音が響いた。
なんだか体が動かない。
「・・・・ッ・・・・」
蒼海は苦しそうに目を開けた。
「・・・・!?」
蒼海の表情が変わる。
振り向けばざっくりと地面に刺された日本刀を柱に、後ろで手が鎖で固定されていた。
しっかりと床に食い込んだ鉄の輪が足を固定している。
足はびくとも動かず、手は上下でしか動かない。
それに首だって鉄の輪で剣の刀身に固定されている。
「・・・・目が覚めたんだね」
聞き覚えのある声がして、蒼海はふっと振り向いた。
「・・・・セリーヌさん・・・」
「蒼海、痛くない?」
セリーヌは悲しそうな目で蒼海を見つめている。
セリーヌの足を纏っているブーツは、静かに発光していた。
「・・・・セリーヌさん・・・
一体・・・・一体これは・・・・!?
助けてください・・・・苦しいんです・・・・」
蒼海は手を拘束している鎖の音を出しながら必死で助けを求める。
「・・・・御免ね、蒼海・・・・
私はエクソシストだから、助けられない」
セリーヌとは思えない冷酷で斬新な言葉が、蒼海の心に突き刺さる。
セリーヌは足音を立てて蒼海に近付いて行く。
その姿は、酷く冷酷なオーラを放っていた。
「・・・・嫌・・・来ないで・・・・」
蒼海が必死で手と足を動かす。
首を揺らして、涙を流す。
「・・・・大丈夫だよ、蒼海。
痛くない・・・・すぐ終わるから」
セリーヌはそういうとすっと浮かび上がって天井スレスレに後ろ向きに一回転すると、すっと床に爪先をつけた。
冷酷と化したセリーヌの鋭い閃光が、牙を剥く。
すっとセリーヌの爪先が動くと、床に直線の切り痕が残った。
爪先で私を斬ると、示していた。
「・・・・そんなに震えないで」
いつもの優しい声に戻る。
「・・・・蒼海を斬れなくなってしまうから」
優しさの牙を抜かして、冷酷の牙が剥いた。
「・・・・嫌・・・・嫌あぁぁぁぁぁ・・・・・・」
蒼海は力の入らない体を必死で動かしている。
そんな蒼海を見ていると胸が苦しくなって行く。
――――・・・・早く斬って、イノセンスを・・・・
セリーヌは自分を焦らせて、高く足を上げた。
「・・・・嫌・・・・嫌だっ・・・・!!
私は・・・・私は死んだ仲間の為に・・・・
姉妹の為に・・・・生きるって誓ったんだっ・・・・!!!」
蒼海は強く目を瞑って、小さな掌を握り締める。
半分ぐらいまで下がって来たセリーヌの足が止まる。
「・・・・瑠璃・・・弥・・・癒梨・・・・颯・・・・
萌衣・・・・黒姫・・・・光姫・・・・緑嬢・・・・
沙希・・・永久・・・・・・
皆・・・・皆ぁ・・・・ッ・・・・」
蒼海の瞳から、澄んだ涙が零れ落ちる。
「・・・・嫌・・・・
私は・・・・私はっ・・・・!!!」
蒼海の震える声が、妙に悲しくて。
パタンとセリーヌは足を下ろす。
その音に蒼海がふと目を開けた。
ドタッ・・・・!!
セリーヌは虚ろな目で膝を落とす。
瞳からは、ポタポタと涙が零れた。
セリーヌに、蒼海は殺せなかった―――――。
「・・・・セリーヌさん・・・・?」
蒼海が小刻みに震えるセリーヌに声をかける。
金属が擦れ合う鈍い音が響いた。
「・・・・ッ・・・・
うッ・・・・あああぁぁぁあ・・・・」
セリーヌはただ声を上げて、涙を流している。
その光景を蒼海は涙を流しながら唖然として見つめているのだった。

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