― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

第24夜
「・・・本当に此処でいいの?」
ファルが訊ねる。
「地図によると此処でいいのよねー・・・
どうも人が居ない・・・」
レイリーが辺りを見回す。
「アクマに食われたんじゃない?」
セリーヌが呟いた。
その言葉に3人の視線がセリーヌに向く。
「・・・だってコレだけ人が居ないって・・・
有り得ないよ・・・?」
セリーヌが辺りを見回して言う。
「ソウダ、俺ノ仕業ダ」
後ろから堅苦しい声がした。
セリーヌはパッと反応して振り返る。
「・・・ッ・・・Lv3・・・」
リリーが唇を噛んで呟いた。
ファルの手に光の結晶が現れ始めた。
「イノセ・・・」
「待って」
ファルの言葉をセリーヌが切った。
「ファル・・・このコート持ってて」
袖が異常に長いコートをファルに投げる。
「まさか・・・セリーヌ!!!」
リリーが叫んだ。
「・・・私が此奴を相手する」
セリーヌが構える。
「セリーヌ!!!」
レイリーが叫んだ。
「・・・いいでしょ?
こんな奴お遊びにもならないじゃん・・・?
私が始末しとく」
セリーヌは内の黒い線をゆっくりと縁取る。
「イノセンス・・・・発動」
縁取られた切れ目から金色に染まる。
「・・・皆は先に行ってて・・・」
セリーヌが横目で3人を睨んだ。
3人は黙ってその場を走り出した。
「ずいぶんと強気だな・・・・
そんなに我が弱く見えるか?」
アクマが言う。
「ええ・・・見えるわ・・・
とぉっても弱くね・・・」
セリーヌは笑うと地面を蹴った。
「その希望を一気に打ち砕いてやろう」
アクマはそういうとしゅんとセリーヌとすれ違う。
「!?」
ふと髪を触ると、右半分だけ腰上ぐらいまでに短くなっていた。
「・・・チッ・・・」
セリーヌは静かに舌を打つ。
「・・・この髪の分・・・
たっぷり・・・倍返ししてあげる」
セリーヌはニヤリと笑った。
第25夜
一瞬の出来事。
表現が出来ない位、バラバラに砕け散ったアクマ。
そして、もう二度と戻らない黒髪―――。
炎に包まれた草原の草が靡いている。
その風で私の髪も靡いた。
空中にフヤフヤと浮いているセリーヌのブーツが光を失くした。
セリーヌはそのままフラリと草の地面に落下して行く。
「セリーヌッ!!」
リリーが叫んで落下したセリーヌを受け止めた。
左右長さの違う黒髪、血に染まった団服。
セリーヌは細く目を開いて刹那に笑った。
「・・・・セリーヌッ・・・」
リリーがそんなセリーヌを抱き締めた。
零れ落ちる涙がセリーヌの団服を濡らした。
ファルとレイリーはそれを涙ながらに見ていた。
ファルはそっぽを向いて目を擦っている。
レイリーは微笑みながら2人を見つめている。
キュィィン・・・
セリーヌの手から光が漏れる。
弱々しく開いたセリーヌの手には、イノセンスが3つ握られていた。
「・・・セリーヌ・・・・これ・・・」
リリーがイノセンスを1つ手に取った。
「・・・さっきのアクマが持っていたの・・・」
セリーヌが弱々しく笑った。
「・・・持って・・・帰ろう・・・?
早く持って帰らないと・・・セリーヌの努力が無駄になる」
リリーがセリーヌを負ぶって立ち上がる。
「・・・うん!!!」
ファルがそれに答えるように笑った。
―教団―
キィ・・・
医務室の奥の扉が開いて、医療班の班員が1人出て来た。
「・・・問題は無いようです。
通常通り生活しても大丈夫でしょう・・・。
ですが・・・過激な任務だけは避けて下さい」
医療班の男が言った。
「・・・はい・・・有難うございます・・・」
セリーヌが一礼をして立ち上がった。
「・・・失礼しました」
リリーとレイリーとファルと一緒に、医務室を出た。
「・・・じゃぁ・・・
リリー以外この後任務入ってるでしょ?
私は此処で・・・じゃぁ・・・」
セリーヌは重い足を引き摺って廊下の壁に這い蹲って歩き出す。
その姿は今にも泣き出しそうな目で、実に切なげだった。
キィ・・・
開いた扉に広がる、広い正方形の部屋。
セリーヌは奥の黒い戸を目指してブーツで突っ切った。
バタンッ・・・
広い正方形の部屋の奥には明るい部屋。
そして隣には全身を映せるぐらいの大きな鏡が置かれていた。
セリーヌはその鏡を見て極端に短くなった黒髪の右半分を撫でた。
「・・・不格好だなぁ・・・」
セリーヌは呟いた。
そしてハサミと小さな耳に穴を開ける機械を手に取った。
ハサミで左の黒髪をゆっくりと切り落として行く。
短く、揃って行く黒髪。
そして少量の髪を手に取り、ツインテールにした。
機械を耳に構えて、指に力を入れた。
カチン――――。
そしてもう一箇所。
カチン―――。
血も出ることなくすぐに機械とハサミを置いて、黒い音符のピアスを手に取った。
付け終わるとリップグロスで唇を飾る。
「♪♪~♪♪♪♪~」
高い声で歌いだす。
その透き通った声は部屋中に響き渡る。
―変わりたいという一筋の気持ち
奏でる歌は何処か哀しげで
どこか優しいの
そして一筋の気持ちとは裏腹に
飲み込まれそうな脅える気持ちが
私を支配している―
第26夜
コッコッコッコッ・・・・・・
凛々と廊下を歩く。
一気に集まる視線。
彼女は何処か、近付き難いオーラを放っていた。
そこで彼女の足がピタリと止まった。
そこは、人がざわめく食堂――――。
其処にピタリと止まっている彼女に気付いたリリー。
「・・・セリーヌ・・?」
リリーが呟く。
「HELLO・・・?」
セリーヌが軽く手を挙げて笑った。
「・・・どうしたの??」
レイリーが言う。
「・・・別に・・・?どうもしてないわ」
セリーヌが冷たく言い放って、レイリーとすれ違った。
「・・・・・如何したの?」
「・・・・じゃない?」
リリーとレイリーの声が聞こえる。
ビュンッ!!
リリーとレイリーの間を何かが通った。
恐る恐る後ろに振り返るレイリー。
「・・・これは・・・!!!」
「そういう話しないでくれる?
気が狂うの」
セリーヌが足を曲げて構えた。
セリーヌが右手の指を揺らす。
ヒューっと糸が釣られているように、ブーツが戻って来た。
「今日は機嫌が悪いの・・・
次に怒らせたら左のリボンを取るわ」
セリーヌはブーツを履き直すとカウンターに向かって行った。
そんなセリーヌの姿を団員達は不思議そうに見ていた。

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