― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

第18夜



「ハァ・・・?
 意味分かんない・・・カッコつけで言ってんじゃ無いわよ」

ティアナが立ち上がって笑う。


するとセリーヌが素早く振り返ってティアナに手をやった。


「!!」


ティアナの表情が変わる。


「第三術法・・・・雛蘭陽」

ティアナの右腕の傷が治っていく。


「バカじゃないの・・・?
 相手の傷治すな・・・・」

「第六術法・・・美葉参葉」


バタッ・・・!!!


ティアナが砂の地面に倒れた。



今使ったのは軽い気絶技で、発動を解いて4時間後に目が覚める。


そして気絶技とは言えども、傷が治っていく。



「セリーヌ!!!」


アレンは私を呼んだ。


「・・・アレン・・・
 傷治ったんだ・・・よかった」

セリーヌは満面の笑顔で言った。


「レイアは・・・!?」

アレンが言う。


「・・・傷が深いの・・・
 さっき見たけれど・・・私の技じゃ半分も治せない」

セリーヌはレイアを見て言う。


「半分も四分の一も治せないかもしれないけど・・・

 やってみるよ」

セリーヌが息を深く吸う。


「第三術法・・・雛蘭陽」


セリーヌがレイアの体に手をかざして呟いた。


レイアの体が円状のモノに包まれ、傷が回復していく。


治りが遅いせいか、セリーヌは眉間に皺を寄せた。


「第十五術法・・・麗陽葉」


術名を唱えた。


治るスピードが4倍以上になる。


頬のすり傷や足の切り傷は癒えた。


「・・・ほらね・・・?
 深い傷はこうやって治って行くのが遅いの・・・

 一気に治すには五十以上の術が必要・・・」

セリーヌが言う。


「その五十術以上の術は出せないんですか?」

「・・・私の限界は二十五・・・
 術名を知っているのは五十まで・・・

 五十以上なんてとてもじゃないけど・・・」

セリーヌがレイアを見つめながら言った。


「ねぇセリーヌ」

リリーが言う。


「・・・セリーヌ・・・腕上げた?」

リリーがレイアを見つめながら聞いた。


「え・・・?
 ううん・・・腕上げたつもりはないけど・・・」

セリーヌがレイアから目を放していった。


「・・・そっか」


リリーはそういうと浮かない顔をしながらレイアを見つめていた。



第19夜



―教団―


医務室でのことだった。


「傷は殆ど治り掛けています。
 ですが、戦いに行くには無理でしょうね」

医師が言った。


「そうですか・・・有難うございます」


リリーが言った。


「・・・レイア、行こう」


胸に包帯を巻かれ、その上から団服を羽織っているレイアに声を掛けた。


だがレイアは顔を伏せたままだ。


「レイア・・・?」

セリーヌが顔を覗き込み、レイアに手を差し伸べた。


パシッ!!


レイアは何も言わずに差し伸べられた手を顔を伏せたままパチリと叩き返した。


セリーヌの右手が赤くなっている。


「・・・レイア・・・?」

セリーヌが赤く腫れ上がった右手を左手で抑えた。


レイアは黙ったままだった。


「レイア??どうしたの?」

リリーが訊ねた。


「・・・」


それでもレイアは黙ったまま。


「・・・レイア??
 何があったの・・・?話し・・・」

セリーヌの話も聴かずにレイアはそばにあった小さなビーカーを床にたたきつけた。


パリィィン!!!


ビーカーの破片は所々へ飛び散る。


「・・・レイア!!!」


パシッ!!!


レイアは勢いよくセリーヌの頬を叩いた。


威力が強かったのか、5メートル程殴り飛ばされた。


レイアのイノセンス、悪魔ノ鎖が付いている手で殴ったのだ。


そこまで飛ぶに違いない。



カラカラカラ・・・


棚に入っていた物がコロコロと落ちて来る。


箱に入った石鹸の箱の蓋が開き、石鹸や箱がセリーヌの頭上に降って来た。


セリーヌはそれを避けること無く当たった。


ポタリと床に血が流れる。


頬は切れて血が流れ、耳の上の旋毛からは血が滴り流れ落ちていた。



「もう私なんかほっといてよ!!!!」


レイアは悲鳴に近い声で叫ぶと医務室を飛び出した。


「レイア!!」


リリーとラビがレイアを追いかけて医務室を出て行った。


アレンとレイリーはただ呆然と立ち尽くしていた。


ポチャン・・・


床に滴り零れ落ちていた血の色が薄くなった。




紅い鮮血を薄くしたのはセリーヌの涙だった――――。


棚に横たわるセリーヌは飼い主に捨てられた人形の様――――。



第20夜



ポタリポタリ、滴り落ちる鮮血。


セリーヌの顔に笑顔が現れた。



「セリーヌ・・・!!!」


アレンが叫んで駆け寄って来た。


セリーヌはだらりとした体をゆっくりと手を使って起こした。


「あはは・・・ビーカー投げられちゃったよ・・・」


笑うセリーヌ。


血も涙も共に頬を伝って行く。


「・・・あはは・・・
 止まんないよ・・・あはは・・・」

滴り落ちる涙を一生懸命指で拭って行く。


「やば・・・マジで止まんない・・・」


次第に指で拭う速さが速くなって行く。


レイリーは痛々しくて見ていられなかったのか、ガタンと膝を落とした。


セリーヌは立ち上がる。


「・・・顔・・・洗ってくるね・・・」


セリーヌが笑みを浮べながら言う。



泣きたくても泣けない、そんな人が出来るせめてもの気遣いだった――――。


セリーヌはクルリと後ろを向いて歩き出す。



「セリーヌ!!」


気付けば、愛しいあの人の名前を叫んでいた。


「・・・なーに・・・?」


セリーヌが笑って振り返る。


アレンは4メートル程離れたセリーヌの元へと走った。



たった4メートルしか無いのにも関わらずに――――




セリーヌの傍に着いて、後ろに手を回してぎゅっと抱き締めた。


「そんなに僕等は頼りないんですか・・・?」


かき消されそうな声でアレンが言った。


「そんな誰も泣いてはいけないなんて言いません・・・
 そんな本気で怒っちゃいけないなんて・・・誰も言いませんよ・・・」


抱き締める力が強くなって行く。


「だから・・・
 そんな風に我慢しないでください・・・
 僕等が全部受け止めますから・・・

 だから・・・」


アレンの抱き締める力がもっと強くなる。



「有難う・・・」


滴り滴り涙が零れ落ちる。



私は思いっ切り泣き叫んだ。



体の力がスルリと抜けて行く。




アレンはずっとセリーヌを支え、セリーヌが泣き止むまでずっと、ずっとそばに居たのだった――――。