― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

またもや見つけた
ちいさな亡骸
第27夜 ―セリーヌside―
夜の街はざわざわと騒がしかった。
道路で倒れている3体の亡骸を見て、通りすがりの住人達は騒いでいた。
「人形なの?気味が悪いわ」
「人形が動くなんて科学的に有り得ない」
人はだんだんと増えて行くばかり。
人が増えれば声も増える。
セリーヌは思わず耳に両手を押し当てた。
「セリーヌッ!!!」
聞き覚えのある声に、セリーヌは振り返った。
人々の頭上をすり抜けて来たのはチェリーだった。
「・・・・何よ・・・・これ・・・・・」
チェリーが目を見開いた。
セリーヌが小刻みに震えて涙を流す。
手足を無残にも潰され、服は黒く汚れて、顔はさらに青白くなっているような気がした。
今にも虚ろな目が動きそうだけれども、動かなかった。
変わり果てた瑠璃、癒梨、萌衣の姿。
「・・・・偶然なのかな・・・
今まで3体も殺されて・・・
瑠璃と癒梨と萌衣は事故で・・・・」
セリーヌはその瞬間崩れ落ちた。
「嫌だよ・・・
私は・・・・私は・・・・」
セリーヌは小刻みに震えながら呪文のように繰り返す。
「・・・・私は・・・私は一体どうすればいいの・・・?」
セリーヌの震えは止まらない。
これ以降も、誰かが殺されるだろう。
そしてこれ以上に、悲しみは深く――――。
これは何でしょう
貴方達は私達をどうしたいのでしょう
きっと貴方達は私達を殺すのでしょう
ねぇ?違わないでしょう――――?
第28夜 ―蒼海side―
-翌朝-
セリーヌさんとチェリーさんが瑠璃と癒梨と萌衣の変わり果てた姿を運んできてから1日。
翡翠石様は、この事を大変遺憾にお思いになって、今朝早く鋼水晶様の部屋へとお持ちになって行った。
これで6体のドールが亡骸となってしまった。
私は一体、どうすれば良いのだろう――――。
そして今、残りの5体のドールは夜が明けないうちに談話室へと集まった。
「もう嫌よ!!
私達はあのお方達に殺されるんだわ!
萌衣・・・何故あんな人を!」
沙希は恐怖のあまり、怒り狂っていた。
「私だって嫌だわ・・・
神様は私達に死ねとおっしゃっているわ・・・・」
永久も沙希と同じ様に、恐怖で狂っている。
「沙希、永久・・・・
落ち着くんだ・・・
今そんな事を言ったってどうにもならないでしょう?」
光姫が沙希と永久を慰める。
「落ち着いてなんていられるもんですか!!!
光姫はいいわね!!
あんたは憎まれる事何もしてな・・・・」
「いい加減にしなさい!!!!」
黒姫が怒鳴った。
その声は黒姫で無いと思わせるほど怒りに満ちていて、そして震えていた。
「私達が今こうしてる間に誰かがまた殺されるのかもしれない・・・!!
そんな事態なのに喧嘩している暇なんかあると思うの!?」
黒姫が永久と沙希に向かって怒鳴った。
その言葉に我に返った沙希と永久は、俯いて口を開いた。
「・・・じゃぁ黒姫は怖くないのかしら?
黒姫は自分がたった今殺されても、痛くないのかしら?
ねぇ・・・黒姫が言っている事はそういう事でしょう?!」
「みんな止めて!!!」
沙希の言葉に連なって、蒼海が叫んだ。
「・・・・私・・・
持っていた透視能力で・・・
次に誰が殺されるか・・・・分かってしまった」
蒼海の言葉に、その場に居たドール全員が動揺した。
「次に殺されるのは誰なんだ?蒼海」
光姫が冷静を装って言う。
「・・・それは・・・・私・・・蒼海です。
恐らく・・・
あちら側は私達5体の、誰かの心の翡翠を盗ろうとしているの」
蒼海は俯いて言う。
「蒼海が殺されなかったとしたら・・・?」
沙希が蒼海を見つめながら問う。
「・・・殺される順番を言います。
1番目が私・・・2番目は光姫・・・・
3番目は沙希・・・4番目は永久・・・
5番目は・・・・黒姫」
蒼海の顔に不安の表情が表れ始めた。
「あちら側は・・・
一番頼りにされていた緑嬢を一番最初に殺害した・・・
あの殺された順番は、全て私達の鈍感さを予測して作られた殺害順番だったんです・・・」
蒼海は息を飲んで言う。
「そこで・・・
あの方達に私が・・・
あとの4体は事故で跡形も無く消えてなくなりましたと伝えて・・・
屋敷に居た私だけ殺されれば被害はすくな・・・」
「ふざけないで!!!
私達がどれだけ蒼海を信頼してるか・・・!」
黒姫が机をバンと叩いて怒鳴った。
「・・・黒姫、皆。
もうそろそろ夜が明ける。
今日の話し合いは此処までとしよう」
光姫が言う。
「・・・こんなの聞かれてはたまらないものね」
光姫に続いて沙希が言う。
「私は翡翠石様に会って来ますわ」
永久が椅子から立ち上がった。
「僕と蒼海は仕事に戻るとしようか?
黒姫は朝食の支度を」
光姫が言う。
5体のドール達は、それぞれの場所に散って行く――――。
どんなに自分を責めても
どんなに自分が憎くても
ドール
人形達を殺した罪の償いは出来ず
御免なさい
謝っても通じないけれど
それでも
それでも御免なさい――――。
第29夜 ―セリーヌside―
水が流れる音で賑わう、洗面所。
「・・・ねぇ、セリーヌさん?
任務も終盤になって来ましたね」
レイアが顔についた水滴をタオルで拭う。
「・・・そうだね」
虚ろな目をして鏡に映った自分を見つめているセリーヌの表情は無かった。
「・・・・セリーヌ、元気出しなよ。
そんなに悩んでたってしょうがな・・・」
「黙ってよ。
リリーがそんな事言える?」
セリーヌは表情一つ変えずに鏡を見つめる。
「・・・・セリーヌ・・・・」
ファルが心配そうにセリーヌを見つめる。
「・・・私、やっぱり悲しい。
エクソシストって言っても人間は人間だし・・・
嬉しいことは嬉しくて、悲しい事は悲しい。
離れる度に泣きたいよ。
人形達が死んで行く1つ1つの間に、泣きたい。
泣き叫びたい」
白い洗面所の台に一粒の水滴が零れ落ちた。
「・・・・矛盾してるよね?でも実際はそうなの。
私は現実の辛さも苦しさも知っているつもりだよ。
よく人はつもりじゃ駄目って言うけど、なんでつもりじゃいけないの?
〝つもり〟は私達の目標となる物であるけれど、嘘かもしれない。
それでも私達は何かを知って、次に生かさなきゃ。
エクソシストの仕事が嫌だと言っているわけじゃない。
でも、黒の教団にいるってそういう事なのだと思う」
セリーヌはそういうと右手で蛇口を捻った。
音を立てて水が勢いよく流れ出す。
「確かにそうかもしれないね。
それを乗り越えて行くのは辛い、苦しいよ。
私達だっていつ死ぬかも分からないんだから。
私達は死ぬ為にあるようなもの。
死ぬような思いまでして世界を守らなきゃいけない。
でも世界の為に在れて、仲間の為に在れるっていうのは私にとって、とても大きな幸せだよ」
チェリーがセリーヌに向かって微笑んだ。
「皆さん、私と母の約束の合言葉、教えてあげましょうか?」
薄い沈黙に包まれた室内を、レイアが沈黙を破る。
「・・・合言葉?」
忍がレイアを横目で見つめる。
「私が教団に連れて行かれるとき、母と誓った事。
〝もしも私が殺される運命にあるならば私は貴女と世界の為に在りましょう〟。
それが私と母の合言葉です」
レイアは鏡を見つめる。
透き通った視線は、鏡までも貫くように真っ直ぐだった。
「・・・母はもう恐らく生きていません。
教団が148名の死者を出したとき、その大まかな死者が死した場所が、私の故郷。
だから・・・約束しませんか?
私と神と、此処に居る皆さんとで。
〝もしも私が殺される運命にあるならば私は貴女と世界の為に在りましょう〟」
レイアは鏡に向かって微笑んだ。
束の間の沈黙が続く。
「・・・もしも私が殺される運命にあるならば私は貴女と世界の為に在りましょう」
沈黙を破ったのは、セリーヌだった。
「もしも私が殺される運命にあるならば私は貴女と世界の為に在りましょう」
それにつられてリリーが言う。
「もしも私が殺される運命にあるならば私は貴女と世界の為に在りましょう・・・かぁ」
チェリーがその言葉にゆっくりと口端を吊り上げた。
「・・・・もしも私が殺される運命にあるならば私は貴女と世界の為に在りましょう」
一息とため息をつくと、忍は視線を落として早口で呟く。
「有難うございます!約束ですよ?」
レイアが無邪気に笑った。
コンコン
「皆様、此処にお集いでしょうか?
お食事のお時間が近付いております。
お早めに準備を済ませて頂ける様、ご了承願います」
淑やかな蒼海の声が響いた。
ちらりと時計に目をやると、時計は10分前。
たちまち洗面所内は忙しくなり、あっという間に人は居なくなった。

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