― 君と出会えた日― 名の無い少女 作者/浜頭.悠希...〆

第9夜
「ねぇ・・・皆ぁ・・・」
セリーヌが弱々しく口を開く。
「・・・私って本当に・・・
必要な存在なのかなぁ・・・」
突然言い出した言葉に3人が一斉に振り返った。
「な・・・何をいってるの?
必要に決まってるじゃない・・・」
ファルが驚いて言う。
「・・・そうかなぁ・・・
私って・・・バカだなぁって思ったの・・・
あんなに・・・あんなに好きだったのに・・・
簡単に嫌いって言えるようになって・・・
私の想いっていうのは間違いなの・・・?
想いが間違ってたら・・・
私が生きているコトも間違いなんじゃないかな・・・」
セリーヌの声が涙声になる。
ファルがその声に反応してつかつかと歩いて来る。
リリーはそっと後ろに下がる。
パシッ!!!
ファルの拳がセリーヌの頬を叩いた。
セリーヌがファルを睨む。
そんなファルの目は涙で満ちていた―――。
「セリーヌのバカ・・・。
人は価値が無かったら生きていないの!!!
価値が無い人間なんて居ないの!!
こうやってベットに寝てる事・・・
こうやって私と話してること・・・
こうやって頬に痛みを感じてること・・・
全て・・・全て価値なんだよ!!!」
ファルが泣き叫ぶ。
「私に価値なんかあっていいの・・・?
訊きたいの・・・なんで私は此処に居るの?」
セリーヌは人形のように涙を流し、ファルを見た。
「・・・価値があっていいんだよぉ・・・
価値が無いのは生きて居ないんだよ・・・?
セリーヌは決められた運命の道を歩くの!!!
その道で倒れて目を瞑るまで歩くのよ!!
途中でこうやって無理矢理倒れてどうするの!?
セリーヌは私達と伯爵を倒すのが運命なの!!!!」
ファルは泣き叫んだ。
そしてセリーヌを強く抱き締めた。
セリーヌの深くえぐられたような手首の傷に一雫の涙が零れ落ちた。
心の悲しみ全てが風になって消えるように、優しくて哀しい一雫―――。
―見知らぬ誰かの笑顔で
笑えるような私は
罪なのだろうか
存在価値はあるのかと訊ねる私は
弱いのだろうか―
第10夜 ―アレンside―
時計の針は夜10時を過ぎていた。
晩御飯を食べるのも忘れて自室のベットで蹲り、虚ろな目で灰色の壁を見つめていた。
「・・・はぁ・・・」
出るのはため息ばかり。
こんなにも愛しい人から離れるのがどれだけ辛いことかを思い知った。
僕はこうやって曖昧な自分が嫌いだった。
***
「早く復旧するといいねー・・・」
月の光に照らされながら輝いていた君の笑顔。
「あはは・・・ビーカー投げられちゃったよ・・・」
泣くのを必死で我慢して笑った君の顔。
「有難う・・・」
僕の言葉に力を抜いて泣いたセリーヌの泣き顔。
「・・・・・痛い・・・痛いわ・・・・
貴方・・・・・誰――――?」
目を覚ましたセリーヌが僕に言った言葉。
本当は嫌いになんかなってない。
嫌いなんかじゃない。
君の顔を思い浮かべれば君を抱き締めたくなる
そしてまた君を傷付けてしまう
だから僕は君に近寄らないことを決めたんだ
君のためにも・・・僕のためにも――――。
―忘れられない君の歌声
君の歌の翼が
君が遠くで笑っている姿が
何故かとても遠く見えて聞こえて
とても哀しいけれどとても優しい―
第11夜 ―セリーヌside―
あれから1ヶ月の月日が経った。
「・・・しくて・・・・しい♪」
相変わらず麗しい歌声が聞こえて来る。
だが、その歌声は少しずつ小さくなって行く。
「・・・れ・・・・い・・・・」
セリーヌの歌声は止まった。
バサッ・・・
何かが倒れたような音が部屋に響いた。
―リリーside―
「・・・くて・・・しい♪
気持ちは・・・・・どこで♪
・・・・・・いくのだろう♪
蒼い・・・・中♪」
歌声を響かせながらセリーヌの部屋に向かう。
差し込む朝日は私を照らしていた。
コンコン・・・♪
気分がいいからか、音が軽やかだ。
しかし、何の返答も返って来ない。
「・・・セリーヌ?」
機嫌よさそうなリリーの表情が一瞬にして変わる。
「・・・セリーヌ!!」
リリーは叫ぶとドアを開け放った。
目の当たりにした光景。
「セリーヌ!!」
蒼白く、痩せこけた頬。
左腕に残る無数の切り傷。
肌色の絨毯には涙が染みて、右手に黒いリボンが握られていた。
「・・・セリーヌ・・・」
あの後も貴女は1人自分を責め続けて居たんだね―――。
「1人で悩まないで・・・・って・・・
言ったのに・・・」
リリーは涙を零しながら左腕の無数の傷をそっと撫でた。
―貴女はいつも
自分で背負い込んで自分を責めて
私達を頼ろうとはしないの
貴女が笑えるならば
私は死んでもいいのに―

小説大会受賞作品
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