花言葉の約束 空花 /作

【25】
私は最初、自分がされていることを『虐待』だと思っていなかった。
でも、小学校3年生の時、廊下に虐待について書かれた市のポスターみたいなのが貼ってあった。
そのポスターには【虐待とはどんなことか】というのがあって、私がそれを見ていると、そこには【殴る、蹴る】などまさに私がされていることが書いてあった。
まだ少し意味が分からなかったけれど、信じたくなかった。
怖かったんだ。認める事――。
(※七海の回想シーン終わりです)
「七海! 七海っ!! 起きてる?」
私はしばらくぼうっとしていたようで、琴音に体をやや乱暴にゆすられてやっと我に返った。
「あっ、ゴメン琴音。ちょっとぼーっとしてて……」
ホントは昔の事を思い出してぼーっとしてた。
コレも嘘に入るのだろうか?
「何か、昔の悲しい事考えてた?」
琴音は私の考えてた事が分かるの?
まるで、魔法使いみたい。
魔法で私の心の扉を開けて、あっという間に私と仲良くなった。
お互い名前で呼び合ったりもしてる。
まだ会ったばかりなのに。
「…………」
私は思わず俯いた。
すると、琴音は私の心の中を察したように言った。
「悲しいこと、考えてたんでしょう?」
まさにその通りだ。
「……そうかも、しれない」
ホントはばっちり合ってたくせに、私は曖昧な返事をした。
私は嘘つきだな。
ふと、思った。
嘘つきだけじゃない。
私は弱い……。
「いつか裏切られる事」
――それが怖くて。
だから、自分から友達を裏切った。
それなのに、今更友達が欲しいなんていってた。
本当は友達が欲しくて……でも裏切られたくない。
そんなまだ分かんない事で裏切るなんて、間違ってるって分かってた。
なのに変えようとしなかったんだ、私は。
だから弱い……
「……悲しいこと考えて時間使わないほうがいいよ。」
琴音は私に言った。
思わず私は「どうして?」と尋ねた。
琴音は、真剣な表情でこう言った。
「時間はね、一秒一秒大切にしなくちゃいけないんだよ。 だって、今日という言葉は毎日使われるけど、でも、『今日』は『明日』になったら『昨日』という言葉に変わっちゃう。 だから、ホントは『今日』は一日だけなんだよ。七海。『今日』の一秒一秒はもう二度とこないんだから、『悲しいこと』より『楽しいこと』を考えて時間を使ったほうがいいよ」
琴音はそう言うと、静かに笑った。
なんだかこっちまで安心した。

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