花言葉の約束  空花 /作



【29】



「琴……音」

「七海、どうしたの?」

琴音は私の瞳を真っ直ぐ見つめた。

「私、もう虐待なんてされたくない……!」

家になんて帰りたくない。嫌だ!!

「僕、虐待受けたことないから分からないけど虐待は酷いことだって思う。酷いことされたくないのは僕も一緒だよ。 でも……強くなってほしい、七海には」

「強くなれるの? こんな私でも……?」

「なれるよ、きっと」

琴音は私の手を握った。

本当に強くなれるような気がした。


「すごく辛いことや苦しいことを負けないでちゃんと乗り越えられた人はきっと優しく強くなれるって、僕はそう信じてるよ」

琴音は握っている私の手に少し力を込めた。

いつまで虐待が続くかは分からない。

――でも

今の私なら、【虐待】と戦えるかもしれない。

もう少しだけ、戦おう。

強くなるために。

「琴音、今夜はありがとう。もう帰っていいよ」

私は決意を決めたあと、琴音にそう言った。

琴音は握っていた私の手をパッと離した。

「ねえ……ネリネの花言葉、知ってる?」

ネリネ?

私は花が好きだから、花言葉ぐらいは知っている。

「……【華やか】【また会う日を楽しみに】【幸せな思い出】【輝き】【忍耐】【箱入り娘】だよね?」

私はそう答えた。

すると、琴音は、

「その二番目の、【また会う日を楽しみに】……僕はこれが好きなんだ」

と楽しそうに言った。

「じゃあ、僕はもう帰るね」

琴音はそう言ったあと、付け足した。

「覚えててね、ネリネの花言葉はまた会う日を楽しみに」

……と。