花言葉の約束 空花 /作

【39】
優奈目線
家を出てから、しばらく歩いて会社があるビルに着いた。
空は相変わらず眩しくて、街を明るく照らしていた。
――ガチャッ
ビルのドアを開ける。
思わず足が止まる。
嫌だ。行きたくなんかない。
でも――行かなくちゃ、いけない。
私はなるべく急ごうと足を早めて、エレベーターに乗った。
これから仕事だと思うと、ため息が出た。
ため息をつくと幸せが逃げるというけど、今の私はそんなことも忘れていた。
とにかく、仕事が嫌だったのだ。
こんなの"勉強"が嫌だから学校に行きたくないという小学生みたいだと思ったけど、どうしても嫌だった。
それからしばらくして、エレベーターの扉が開いた。
私はエレベーターから出て、仕事場まで歩いた。
仕事場までの距離は短く、それがまた私の"仕事に行きたくない"という気持ちを強めていた。
***
仕事場の前まで来ると、私は迷わずドアを開けた。
仕方ないのだ。仕事なのだから。
そう、仕方ない――
――バンッ
その時、机を強く叩く音が聞こえた。
「ちょっと三浦さん!! そんなとこにつっ立ってないで、さっさと自分の椅子に座って仕事してなさいよ!」
「……はい」
まただ……。
上司の岡田菜穂さん。
岡田さんは仕事が良くできる人だけれど、差別が激しいのだ。
例えどんな人であろうと、自分の部下には異常な程厳しく接し、自分より"上"の上司には私達、部下への接し方が嘘のように笑顔で接する。
そんな人だから、岡田さんは嫌われている。
私は、自分の椅子に座って仕事をしはじめた。
*
しばらく仕事をしていたせいか、手が少し疲れてしまった。
でもこれもいつものこと。
私が仕事の続きをしようとしていた、その時――
「佐々木さんと渡辺さん! 何しゃべってるんですか!? そんなことしてる暇があったら、さっさと仕事してなさいよ!!」
「はい……すみません」
「すみません……」
岡田さんの怒鳴り声の後に、二人が少し震えた声で返事をするのが聞こえた。
佐々木さんと渡辺さんは二人とも新米で、まだ慣れていない。
岡田さんは相手が自分より"下"であればあるほど厳しくなる。
毎日毎日こんな風だからもう慣れてしまった。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク