花言葉の約束 空花 /作

【44】
七海目線
私は、ベランダから外を眺めていた。
マンションの下に見える景色は、小さな子供達とその親達と公園。
楽しそうな笑い声が私にも聞こえてきて、ふとこう思った。
子供達の笑顔は見えないけど、声で楽しそうなのが分かる。
私も、虐待されていなければ、あんな風に笑えたのかな。
偽りのない、本当の笑顔――。
羨ましい。
私は、あんな風に笑えるのかな?
昔は、あんな風に笑えていたの?
分からない。
でも、少しあの笑顔が懐かしくなった。
お母さんの笑顔が。
多分、もうその笑顔は見れないんだろうな。
無理矢理にでもいいから昔に戻りたい。
今までのこと、0に戻して、もう一度、戻りたい。
ゲームみたいに、リセットボタンがあればいいのに。
一度終わらせて、また始める。
それがいい。
何事もなかったみたいに、また時は過ぎていって。
少しずつ見える景色が変わっていって。
幸せは変わらずに生きていくんだ。
……なんて思っても、それはただの想像――。
想像するだけなら誰でも出来る。
それは現実にはきっとならない。
時が戻るなんて、そんなゲームみたいなことが本当に起きるわけがない。
どんなに祈ったって、その思いは届かない。
心の手紙は配達できない。
たとえ記憶が消えたって、傷はきっと心の奥に存在し続ける。
記憶のカケラは胸に突き刺さったまま――。
そのままずっと過ごしていくんだ。
時は涼しい顔して進んでいく。
それを戻すことは――できない。

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