花言葉の約束  空花 /作



【33】



7月17日の日記は、そこまでしか読めなかった。

この頃はまだ、お母さんが私にしていること――

殴る、蹴る、罵る。

そういうのを、普通だと本気で信じていた。

本当に辛くて苦しくて耐えられない時は、そうやってずっと考えてた。

『これはどの家でも当たり前のことだから、仕方ない』

けれど、普通なんかじゃなかった。

普通じゃないと教えてくれたのは、あの、ポスターでした。

あのポスターに感謝なんかしてない。

事実がたとえ分かっても、嬉しくなんかなかった。

いつも支えにしていた【考え】がどんどん崩れていった。

一気にじゃなくて、時間をかけて、ゆっくりと。

その時間が、一番辛かったかもしれない。

この日記に書かれた文字がそう言っているように見えた。


そのページの最後は、7月17日の日記の書き殴りで終わっていた。

――パラッ

私は、ノートのページをめくった。

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7月18日 月曜日

やっぱりフツウじゃないの?

信じたくない でも お母さんにひどいこと、されたくないよ……。

どうして、なの? 理由があるの?

どうしても、しなくちゃいけないの?
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どうしてなんだろう。

虐待なんかして、楽しいの?

されてるこっちの気持ちも考えてよ。