花言葉の約束 空花 /作

【31】
私はエレベーターに乗り、【7】の文字のボタンを押した。
エレベーターは動き出した。
琴音がここのマンションに住んでたらなあ……。
なんて、思った。
けれど琴音は私のマンションとは違う方向に帰った。
ちょっと残念……。
七階まで着いて、エレベーターの扉は開いた。
私はエレベーターを降りて、少し早歩きで家の【705】を目指した。
そして、【705】のドアの前まで来ると、ジャンバーのポケットからカギを取り出して、カギを開けた。
――ガチャ
ただいまは言わなかった。
答えてくれることはないだろうから。
*
部屋は真っ暗で灯りも何も点いていなかった。
――パチッ
私は電気のスイッチを押して、リビングに向かって歩いていった。
リビングは静まり返っていて、私が歩く音しか聞こえなかった。
お母さんは部屋で寝たらしく、リビングには居ない。
私は自分の部屋に戻り、ドアを閉めた。
部屋にはまだ割れたガラス――、あの写真立てが落ちていた。
さすがにこのままじゃあ、踏んでしまったら痛いどころではないと思い、私は部屋の壁にかけてあった小さなほうきとちりとりでその『写真立て』を片付けた。
私はそっと自分の手の平を見てみた。
琴音と握手したこの手。
お母さんに傷つけられてきたこの手。
どんな時だって、感情が私にはあった。
人間だから、当たり前だけれど、
悲しかったり、苦しかったり、辛かったり。
嬉しかったり、おかしかったり、幸せだったり。
今まで生きてきた中で、一番多かった感情は【悲しい】だと思う。

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