花言葉の約束 空花 /作

【61】
七海目線
本当は、今すぐ殺してやりたいくらいお母さんが憎い。
それぐらい、お母さんのした事が許せなかった。
けれど、所詮は"私"
犯罪に手を染める勇気なんて存在しなかった。
「ごめんねだけで片付けられる訳ないじゃない!! 私はストレス発散用の人形だったの!? 感情なんか私に必要なかったの!?」
"怒る"
今の私にはそれしかできなかったし、それ以外の方法も思いつかなかった。
「七海は、大切な私の娘なの! ごめんねって100回言っても許されないような事を私はした! ずっと後悔してきたから、それは痛い程に分かってるの!」
「また、そうやって言うんだ。分かってるならあんな事しないはずなのに。ただの言い訳じゃない」
「違う、違うのよ、七海! 信じて!」
お母さんが必死に叫んでも、私は許したくなんて無かった。
「許せるはず無い! 一番身近にいる人にずっとあんな事され続けて、逃げる方法なんて死ぬしかなかった!」
「許さなくてもいい、謝らせて!」
辺りは少しずつ暗くなってきたが、暗さに慣れたのかお母さんの表情がやけにはっきりと見えた。
向こうの歩道を走っていたお母さんを見つける事が出来たのも、暗さに慣れていたからなのだろうか?
「……七海、本当にごめんなさい!」
そう言ってお母さんが頭を下げた時、お母さんがどんな気持ちだったのかは分からない。
私は前から、何となくお母さんと私の間には壁があるように感じていた。
でも、今はその壁をお母さんが壊していくような、そんな気がした。
既に、壁は少し欠けていたのかもしれない。
頭を下げたままのお母さんを見ていると、少しだけ罪悪感を感じた。
お母さんの表情は見えなかったが、真剣に謝っている事はもう、分かっている。
お母さんが嘘をついているようには見えなかったし、何か事情があるように見えた。
許したくないという気持ちの中に、少しずつ新しい気持ちが混ざっていく。
許してもいいかもしれない。
許したくない。
対立する2つの気持ち。
もう、どうすればいいのか分からなくて混乱する。
「お母さん、顔上げていいよ」
私は、それくらいしかお母さんに掛ける言葉が無かった。
お母さんはゆっくりと顔を上げ、私を真剣な眼差しで見つめる。
その眼差しから逃げるように思わず私は目線を逸らした。

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