花言葉の約束 空花 /作

【42】
優奈目線
「何かの間違いですよそんなの! 私、そんなことしてません!」
「だったら説明しなさい」
「本当に違うんです! 私は普通に品物を買おうとしただけで」
岡田さんはかなり焦っている様だった。
口調からしても、表情からしても。
そして会社の人は皆コソコソ話していて、その声が私にも少し聞こえてきた。
「本当にやってないの? 怪しいわよね」
「そうそう。言い訳してるって感じがあるじゃないの」
「まああんな性格だから、疑われても仕方ないわ」
私達がその光景を眺めている間も、どんどん時は過ぎていった。
「信じてください! お願いします!」
「そう言われてもねえ……」
「私が万引きをしたのを見た人って、一体誰なんですか!?」
その時、仕事場に沈黙が訪れた。
しばらく沈黙は続き、しばらくしてやっと岡田さんに事情を聞いていた岡田さんの上司――水野さんが口を開いた。
「……川村さんよ」
「川村、さん?」
「ええ。見たのは川村さんよ」
「川村さん!! 何かの見間違えなんじゃないですか!?」
川村さんは俯くようにして答えた。
「岡田さんは今までに何回も、万引きしていましたよね? 捕まったのは一回だけですが、いい大人が万引きするのは恥ずかしいことだと思わないんですか?」
"何回も"
その言葉が頭の中を少しの間、駆け巡っていた。
はっと我に返ったのは水野さんが口を開いてからだった。
「何回も? 何回も万引きしたんですか?」
「万引きなんかしたことないです!!」
必死に水野さんに訴える岡田さん。
でもそれは演技のように見えて、説得力がなかった。
本当なのかは私には分からない。
「万引きしたでしょう? 私、見ましたよ」
まるで岡田さんの"差別"に対する罰かのように、川村さんは言った。
「それは何かの間違いです!!」
そしてその"罰"を全て受け取らないと言うように反論する岡田さん。
罰は……いつまで続くのだろう――。

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