花言葉の約束 空花 /作

【51】
何でもっと早くに気付けなかった?
虐待した理由を他人のせいにして、そのせいで虐待してしまうって決め付けて。
私は涙を拭いた。
泣きたいのは岡田さんや七海なのに、私が泣くなんて最低だ。
今更後悔しても、もう、戻れない。
だったら自分の手で変えていけばいいって分かっている。
勇気がないだけで、本当はいくらだってできたはず。
岡田さんを私だけで助けることはできなくても、相談に乗ることくらいはできるのに、『何もかも岡田さんのせい。だから、助けない。許さない』そんなことを思った私がバカだった。
七海に許してもらえなくたって、謝ることはできるなのに。
――許してもらえない。
それを、心のどこかで怖がっている自分が居る。
私には、七海に謝ってもう二度とあんな過ちを犯さないようにすることしかできない。
たとえ、許してもらえなくても。
それくらいは出来るのに、どうして私はいつもそうなのだ……。
いつもいつも、あと一歩のところで間違ったり躊躇う。
そんな性格を変えるのは私しか居ない。
七海目線
私がドアの方に視線を向けたとき、玄関のドアが開く音がした。
お母さんだ……。
お母さんが歩き回る音は少ししか聞こえなかった。
いつもなら結構聞こえてくるのに。
再び時計に目を向けたその時――。
「……さんは許さ……い!!」
お母さんの叫び声が聞こえ、同時にテーブルを叩く音が響く。
何て言っているのかははっきりと聞こえなかったが、お母さんが怒っているのはよく分かる。
何があったのかな……。
そう思うと、どうしても今日はいつもより酷く虐待されるような気がしてきた。
……怖い。
優奈目線
私はテレビのスイッチを切り、テーブルに顔を伏せた。
どうすればいいのだろう。
さっきまであれほど解決策を考えていたはずなのに、その考えが頭の中から消えていくような気がする。
私は――私は――。
このまま生きていても、幸せになんかなれない。
いつも考えるばかりで、少しも行動に出さない。
意図的に、しないのだ。
このままの方がずっと楽なよう気がしてくるけれど、それは間違い。
七海は今、どんな気持ちでいるだろう?
嬉しい? 悲しい? 怒っている? 苦しい? 辛い? 楽しい?
嬉しい、楽しい。
そんな答えがあるわけなかった。
――あの事故で、私だけが死ねば良かったのに。

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