花言葉の約束  空花 /作



【54】



緑花公園の前まで来たときには既に空は赤に包まれていた。

私は『疲れた、休みたい』と叫ぶ体を引きずり、緑花公園へと入っていく。

滑り台やブランコなどの遊具に人の姿はなかったけれど、遊具の横にあるベンチには――琴音が座っていた。

「七海!? 会いたかった!」

琴音の方へ向かおうとすると、琴音が私に気付いて手招きをした。

私はそれに答え、琴音の方へと向かっていく。

「……琴音」

「どうしたの?」

嬉しそうに笑う琴音。

それとは対照的に俯く私。

「お母さんが居なくなった」

「え?」

琴音は驚いたような表情。

それもそうだろう。

せっかくまた会えたのに、いきなりこんな事言われたら普通は驚くはずだから。

「いきなり、ごめんね」

「ううん……お母さん、どうして居なくなっちゃったか分かる?」

「分からない……本当に、いきなりだったから」

俯いたまま私は答える。

「どうしてここに来たの?」

琴音に言われて、私は初めて気付いた。

私は、どうしてここに来たの?

何の、ため?

単に琴音に会いたかった?

お母さんを捜すのを琴音に手伝って欲しかった?

答えは……分かっている。

「お母さんを捜すのを琴音に手伝って欲しかったから……」

それが私の本心なのだ。

認めたくない、けれど、琴音に嘘はつけなかった。

「そっか。じゃあ一緒に捜しに行こう?」

頷こうとすると、それを拒否するかのように私はその場にへなへなと座り込んでしまった。

「七海? どうしたの?」

「……嫌だ」

「え?」

「お母さんがもう二度と元に戻らないって分かっているはずなのに何で……っ!?」

「落ち着いてよ!」

琴音が混乱したように叫ぶ。

けれど今の私には届かなかった。

「お母さんがこのまま居なくなる方が私は幸せになれるはずなのに!! 捜したくなんて、ないのに……どうして……本心は捜したいって思ってるの?」

「七海……とりあえず座ろう? 話は聞いてあげるから」

「……うん」

私はさっきまで届かなかった琴音の言葉に頷き、座った。

琴音も隣に座る。

「ね、どうしたの?」

「お母さんが、元のお母さんにいつかは戻るって信じてる自分が嫌だ……! 昔から信じてきたけどもう分かってるのに! 戻らないって!」

「七海。未来はまだあるんだよ?」