花言葉の約束  空花 /作



【32】



その時、棚からドサッと一冊のノートが落ちた。

私はそれを拾って、表紙を見てみた。

綺麗な空の表紙のノート。

表紙には、

[3年2組 三うら 七海]

と書いてあった。

三浦の浦の字は、よく分かんなくて小学5年生くらいまでずっとひらがなで書いていたことを思い出して、何だか懐かしい気持ちになった。

昔の私。

小学3年生の私。

――このノートの中に、小学3年生の私が居る。

会いに行ってみようか。

中身が何であるかは、よく分からないけれど、きっと懐かしいことが沢山書いてあると思った。

――パラッ

私はそのノートをめくって、一番最初のページを見てみた。

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7月15日 金曜日

明日から夏休み。

でも、お母さんが怖い。

家に居たくなんてない。

理音がこのノート、転校するからって皆に配ってたけど、理音が転校するなんてやだよ……。

理音がわたしの支えだったのに。

お母さんにひどい事されても理音が居たから、がんばれたのに。
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理音?

ノートを持つ手が少しだけ震えた。

親友だった、理音は。

お母さんに何されても理音が居れば大丈夫って、ずっと頑張ってた。

私はこのノートが日記だと分かると、下の日記も読んだ。

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7月16日 土曜日

お母さんひどいよ。

昨日は通知表を見せたら、結構いいほうだったのにおこられて叩かれた。

暑いから扇風機を使っていたら、お母さんにかみをひっぱられて、引きずられた。

どうして?

何でこんなことするの、お母さん。

いたいのに
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なぜか最後の【いたいのに】がすごく心に残った。

その下の日記は、ほぼ書き殴りで最初ぐらいしかしか読めなかった。

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7月17日 日曜日

いやだよ……お母さん

最初はこれがフツウだって思ってたけど

これがホントにフツウなの?って最近思うようになっちゃった

ちがう

これはフツウ

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