花言葉の約束  空花 /作



【49】



「姑は私の事を嫌って嫌がらせもしてきます……なのに、夫すら助けようとしてくれません……一度相談しました、でも」

少しの間沈黙が流れ、重苦しい空気の中岡田さんが再び口を開いた。

「お前が悪い、それだけで……。本当は離婚したいんです。でも、子供が心配で離婚できなくて……」

そこまで一気に言うと岡田さんはその場にしゃがみ込んだ。

「すごく辛くて怖くて……頼れる人すらもういないんです……毎日不安だらけで、あんな事して……」

「あんな事って何です?」

岡田さんはすごく辛そうだったが、犯罪は犯罪。

だから全部問い詰めたい、そう思う。

「万引きも、最初は遊び半分でした。ストレス発散のつもりで……でも、意外にバレずにできるし、万引きした後は何かスッキリするんです、やめられなくなりました」

「でもまだそれだけじゃ足りなくて……部下には、あんな風に接しました」

「私達がずっとされてきたように?」

「……そうです」

岡田さんは俯き、10秒程経った後に顔をあげてまた喋り始めた。

「……もう、私は……っ」

その後にも言葉は続きそうだったけれど岡田さんは言葉を止めた。

そして、私の顔をじっと見つめた。

まるで助けを求めているかのような目で。

でも――私は――。

――バシッ

助けない。

許さない。

「……三浦、さん……!?」

岡田さんはかなり驚いたようだ。

それもそうだ、私は岡田さんの頬を平手打ちしたから。

「……あなたがやった事は犯罪ですよ?」

「分かって、ます……でも……やめられないんです」

「やめられないって言う前にやめる努力はしたんですか? しちゃいけないってことくらい分からないんですか? 今まで部下に対して非常に冷たい態度をとっていたのもそうです」

私は問い詰め続ける。

どんなに『助けて』と言われても、助けたくない。

今まで散々人を傷つけてきたくせに、今更言われたって迷惑なだけなのだ。

「……それは、謝ります!!」

必死に助けてもらおうとする岡田さん。

私が手を差し伸べてくれるとでも思っているのだろうか。

「そうですか」

私は岡田さんに言い放つと、その場を立ち去った。

後ろを振り返らずに、家へ向かった。