青い春の音
作者/ 歌

第1音 (4)
歌い終えたことに満足し、階段に腰をかけて
いつものように繰り返す波の音に心癒されていた。
あ………
その時、どこからかきれいな音色が
微かに聞こえてきた。
この音は私も弾くバイオリン。
うわ、すごいかも…
とても優雅な音に私の好奇心が芽を剥き出す。
「こっちからだ」
音のするほうへと階段を登り、辺りを見回すと
浜辺に1つの人影が見えた。
近付いていくたびにその音は大きく、
華やかさを増す。
弾いている人の顔はよく見えないけど、
この音に私はすごく興味があった。
すると私の視線に気付いたのか、ピタリと
音がやんで弾いていた人物が振り返った。
漆黒とも言えるさらさらの黒髪に
頭がよさそうな眼鏡をかけ、雰囲気は固い感じ。
思わず目を見開いてしまった。
あんな音を奏でられるのに、彼の目は冷たい。
そして私は思わず、
「もったいないなぁ…」
初対面の人の前で平然と口にしてしまった。
私の第一声に不信感を抱いたようで顔を歪め、
拳銃を突きつけるように睨まれる。
あははー…そりゃそうか。
私の性格上誰に何を言われても
どんな態度をとられても動じないからいいけど。
「あなたさ、すごくキレイな音だけど
“孤独”の音をしてるね。それに雰囲気も最悪。
もったいなさすぎるわー」
初対面とは思えないほどの
言い様は私の興味がある証拠。
ま、かなり失礼だけどそんなんは気にしない。
だけど彼はかなり勘にさわったようだ。
「お前に何が分かる。うざい。消えろ」
殺気を立たせてものすごい険相とドス黒い声。
こんなやつに弾かれている
バイオリンの身にもなれってんの。
「あんたさ、何でバイオリン弾いてるわけ?」
彼の言葉は軽くスルーして
一番疑問だったことを口にする。
すると一瞬寂しそうな顔をしたのを
私は見逃さなかった。
「そんなことお前には関係ない。教える必要がない」
「あっそ。まぁいいや。私は神崎悠。
あんたは?…って聞いてもどうせ答えて
くれないだろうし。また会おうね~」
それだけを言い残して私は踵を返して
その場をあとにした。
「神崎……悠…」
私が去ったあと、彼が小さく呟いた言葉は
風の音に消された。
今日は朝から騒がしかった。
「悠!!聞いた聞いた!?」
朝誰よりも早く登校し、課題をさっさと
終わらせて机に突っ伏していたところに
イツメンの甲高い声が響いた。
「転校生だってよ転校生!」
眠たい目を半開きにして彼女の目を見れば
輝きすぎていて余計に瞼が重い。
教室には半数以上の生徒がすでにいて
その話題は転校生で持ちきりらしい。
若い子って好きだよなー
反応を示さずに無言で再度頭を下げようとすると、
「おっはよー!聞いた?転校生うちのクラスだって」
もう1人のイツメンが私の首に腕を
回して抱きついてきたかと思えば耳元で大声を出された。
あー私の貴重な睡眠時間が…
「っさいなー。別に興味ないから寝かせろ」
「はぁ!?何で興味ないの!?転校生とかちょー楽しみじゃん!」
不機嫌MAXでギロリと2人を睨むが全く効果はなく、
逆に火をつけさせてしまった。
こうなったらもう寝られない、ってか眠れない。
「あーはいはい。だから朝っぱからどこもかしこも
うっさかったのね。おかげで寝不足だわ」
「寝不足の顔でも悠は美人だから問題ないよ。
それよりさぁ!男だって!イケメンかなぁ」
ダメだこいつ、私の心配より今は
転校生のことしか頭にない。
どーでもいーんですけど!
メンクイの彼女はとにかく妄想の中で
イケメンであろう転校生くんに目を
ハートマークにしている。
後から私の背中に乗ってきた彼女は
まだ常識があるのか、自分の席へと戻ったみたいだ。
ってか、あいつ柔道部だから軽く
乗っかられるだけでも結構な痛みだったんですけど。
首をゴギゴキと鳴らして時計に目をやると
もう8時30分になろうとしていた。
あー…寝れなかった。
「うわ、ひでー顔!」
寝れなかった憂さ晴らしを時計に視線で
語っていたところに突如現れたかと思えば、
人の顔を見て大変失礼な低い声を
吐き出す奴はアイツしかいない。
「あら、神崎様に向かってどの口が
言ってるのかな?大高くん☆」
語尾にしっかり☆をつけて口角を
これでもかってくらいあげるが
目ではしっかりと殺意を向ける。
残念なことに私の目の前の席である大高は
遅刻ギリギリの時間に着いたらしく、
シンプルな黒いリュックをボスッと机の上にほおりなげた。
ここからいつもの言い合いが始まったということは
書くことでもないだろう。
1時間目の授業は担任の授業だから恐らく
転校生を紹介したりプリント配ったりで、
早く終わるはずだ。
教室の扉が開くのを今か今かと
楽しみにしている女子たちや好き勝手に
想像している話し声が飛び交っている。
そんな中、いつの間にか私の斜め前の席、
尚且つ大高の隣の席に愛花が座っていた。
…来たことに気付かなかった。
たぶん、私と大高が言い争ってる時にでも
こっそり来たんだろうな。
いつもなら挨拶くらいするのに
しなかったってことは…
まずい、何とか埋め合わせしないと。
私の気は転校生何かよりも
愛花のことで頭がいっぱいだった。
そんな時、教室の扉がガラッと勢いよく開き、
40代には見えない、いつもの背の高い中々の
イケメン担任が入ってきた。
その後ろに担任に負けず劣らずの背丈があり、
小麦色に焼けた肌に校則違反であろう金髪、
ぱっちり二重のいわゆるイケメンが。
あーあ、確実に女子らのハートを射てしまった。
「えー今日からうちのクラスに入った月次空雅くんだ。
分からないことばかりだろうから、協力し合うように」
普通すぎる担任の紹介を右から左に流して
愛花の後頭部とにらめっこを開始。
「月次空雅(ツキナミクウガ)でーす!
みんなと楽しくやりたいと思うからよろしくぅ」
うわ、こいつ見た目も中身もバカの塊だ。
すぐにそう判断した私はもう興味が
なくなったため、愛花と大高の距離を少しでも
近付ける計画を頭の中で練っていく。
その間にも転校生くんは席に着いたらしく、
担任は真っ先にいつものプリントを配り始めた。
あれれ、転校生くんの紹介が
終わってしまっている…
と、言うことはプリントを
配り終わるのはあと約3分。
げっ授業はいつも通り50分
しっかりあるじゃないか!
はぁー…うん、寝よ。
「神崎ー初っぱなから寝ようなんて
考えてないよなぁ?」
授業時間が削れると期待していたが、
その願いも儚く散ってしまったことが
分かったから寝ようと決意した直後の担任の言葉。
何だろうね、この人前々から宇宙人だと
思っていたけど再確認しちゃったよ。
「俺は宇宙人じゃないぞー。お前の頭の中は
常に授業=寝るだから水をさしただけだ」
その瞬間、いつものようにクラスが
どっと笑いの音の波で包まれる。
ちぇっと机に項垂れてみれば大高が振り返り、
「ばぁーか」と言われたので
神崎様特別デコピンをお見舞いしてやった。

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