青い春の音
作者/ 歌

第6音 (1)
有意義にコーヒーをすすってる煌は、
こうして見てもやっぱりできる男、って感じ。
いや、そんなことはどうでもよくて。
「何もないのに私を呼んだの?」
「何かなくちゃ会いたい人に会えないの?」
「えー」
会いたい、ってそんな理由で先週も
会ったのにわざわざ忙しい中、
時間を作ったっていうのかこの人は。
はっきり言ってそういう気持ち、
私には理解できないです。
「でも明日じゃなかった?吹奏楽部の
練習に顔出すの」
「うん、そうだよ」
「じゃあ明日も会えるじゃん」
「うん、そうだね」
「じゃあ今日会わなくたってよかった
んじゃない?」
そこまで言って、煌は飲んでいた
コーヒーを机の上に置いて
私に視線を向けた。
な、なんか怖いんですけど……。
「そんなに俺に会いたくなかった?」
は?
「いやいや、誰もそんなこと言って
ないでしょう」
「そんなふうに聞こえるんだけど」
あははは、もう苦笑いしか出て
こなくなっちゃったよ。
何でそんなに拗ねたような顔を
してるんでしょうか。
さっきまでの大人の煌はどこに行った?
「悠が会いたくなかったのに無理に
来てもらったんならごめん」
「あ、謝らないでよ。別に全然そういう
わけじゃなくて。大学とか部活とか
忙しいのに私なんかに時間使ったら
悪いと思っただけ」
「俺の時間は俺が使いたいように使うから
そんな心配しない!悠に会いたかった
のも本当だし」
「……ありがとう」
「それに学校で会えるって言っても
悠は敬語になるんだろ?そんな
よそよそしい関係で話なんてゆっくりも
できないじゃん」
確かにそれもそうだな。
他の生徒に変なふうに思われるのも
嫌だから、学校で煌を見かけても
あまり近付かないかも。
「別にいつもいつも音楽の話とか
だけじゃなくてさ。ゆっくりコーヒー
飲みながら、小さな会話をして……。
同じ時間を共有したかったんだ」
どうして、なんだろう。
素直に煌の言葉は嬉しいけど、私と
同じ時間を共有したい、なんて。
煌なら知り合いなんてたくさん
いると思うし、私じゃなくてもいいはず。
「悠?どうした?」
いつの間にか、私の視線の先には
冷めたコーヒーがあって、煌の声に
我に返って顔をあげた。
「ううん、何でもない。それにしても
煌ってコーヒーが似合うね」
「そう?まぁ相棒みたいなものだから」
「相棒って!コーヒーが相棒とか
寂しすぎるんですけど」
「こらー、コーヒーに謝れー」
「コーヒーさん、ごめんね?煌なんかに
相棒にされちゃって大変だろうけど、
寂しい人だから相手してやってね?」
「コーヒーは嬉しいって言ってるよ。
悠よりはマシだって」
「あぁ、そうですか。コーヒーに
好かれてもねぇ……」
「うるさい!」
そう言ってお互い笑いあった。
隣の空雅と築茂も入って話の内容は
めちゃくちゃに。
でもこんなくだらないことで笑える
人たちって本当に大切にしたい。
何よりも楽しいし。
ちゃっかり空雅も煌と築茂とも
普通に話してるし、笑ってたり。
たぶん、こいつは人見知りをしないから
最初の誤解が解けた今、いい
関係になれると思う。
こーゆーところはこいつの才能だよね。
「へぇー!お前、バイオリン弾けるのか!
すっげーなぁ」
音楽の話にも興味津々みたい。
「ってか悠もなんかすごいらしいな。
スカウトとかやばいんだろ?
音楽の授業のときもなぜか先生じゃなくて
悠がピアノ弾いてるし」
「え、知ってたの?」
「当たり前だろ?悠の名前は聞き逃さない」
「いやいやいや。だったら授業聞けよ」
「それは断る!」
自信満々に言い切った空雅に
私と煌は爆笑。
築茂は鼻で軽く笑ってるけど、実際は
とても楽しんでる。
「でも俺、バンドとかは好きだぜ。
クラシックとかは全然わかんねーけど、
ドラムなら趣味でやるし」
「うっそ!?マジで!?」
初耳なんですけど!
空雅から音楽を切り離していたから、
意外すぎる。
「まぁへたくそだけどな。絶対悠には
聞かせられないな。怖い怖い!」
「えぇー!超聞きたい!見たい!」
「悠って本当に音楽になると元気に
なるよな。いつもその元気でいろよ」
「それは無理。好きなことにしか
興味がないから」
「ふーん。でもそれが悠らしいか!」
それからも音楽の話で大盛り上がり。
どのバンドが好きだの、あの人の
歌はいいだの、煌と築茂もクラシック
だけじゃなかったみたいで。
普通にJ-Popも聞くらしいし、好みも
分かってきたから、やっぱり
空雅がついてきたことには何か
意味があったのかもしれない。

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