青い春の音
作者/ 歌

第4音 (1)
あ、今日は満ち潮だ。
いつも見ている海でも、日によって
砂浜の見える面積が違ったり、
海水の量が全然違く見える。
風は北風、波はちょっと荒くて、
もう薄暗いけど雲はとても厚みを
増しているように見えた。
いつもの石の階段は一番下から
3段くらいまでは海水につかってるから、
下から4段目のところに座って。
ビーチサンダルを脱いで
足首までを海水につけた。
暑気当りかしら
海に捨ててきたあなたが
途の真ん中に見える
優しさに触れたくて
水に触れたくて
近づいてもあなたが逃げる
渇いた途にわたしはひとり
ゆらゆら ゆらゆら
逃げ水ゆらり
遠くで見つめるしかないの
ふらふら ふらふら
旅路をふらり
ひとりで歩いていく
こんな歌詞の曲をあのバンドには
あげようかな。
バンドにしてはちょっと
しっとり系のやつをあそこは
上手く歌ってくれると思うから。
そのバンド自身の魅力を最大限に
引き出せる曲を作るのが私のポリシー。
だってそれでお金とかもらうときも
あるから、やるからにはしっかり、ね。
しばらく海を見ながらぼーっとしていた。
歌を歌うことも何かを考えることも
せずに、ただ、風に乗っかっていた。
まだ暗くはないけれど、太陽は
厚い雲にのまれて本当は
いないんじゃないかと思わせる。
それでも必ず雲の後ろには太陽がいて。
次また太陽を見たとき、なんだか
ほっとするんだ。
すっ、と目を閉じて波の音だけに
集中する。
どうして自然の音はこんなにも
美しいのだろう。
どんなに楽器で綺麗な音色を
響かせたって、
どんなに人を癒す曲だって、
人の手で作られたものは、
自然から生まれた音には絶対に
叶わない。
だからこそ、人は自然を愛せる。
ゆっくり瞼を持ち上げると、
当たり前のように海があることは。
本当はとてつもなく幸せで、
贅沢なんだよね。
そんなことを考えていると、
ぱらぱらと光る玉が落ちてきて。
頬にぱちぱち当たっては砕け散り、
私の熱を奪っていった。

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