青い春の音

作者/ 歌



第10音  (5)



大和が不機嫌になるのはすぐに分かる。

普段、人と話しているときは絶対に
煙草を吸わないのに、イライラしてくると
吸い始めるから。

見事にたった今、新たに煙草を取り出して
火をつけ終えていた。


彼の機嫌を直すのは結構、大変。


なるべく穏便にすませたいから
頭を高速フル回転させよう。



「大和、やめておけ。悠はどうせお前の
 機嫌を直すために本当のことを言わない」


どうやら、築茂に読まれちゃったみたい。


大和と築茂の言っている意味を、ついさきほど
気付いたけど、それは私の不得意分野。

襲われるとか、女だとかそういうこと。

確かにあの時、煌に言われて
その場しのぎのためにすぐに謝ったけど
どうでもよかったのが、事実。



「怒らせたなら本当にごめんって。でもさ、
 そんなに心配しなくても私は大丈夫。
 そういうのには慣れてるから」

「どういう意味だよ」

「どういうことだ」


2人は見事に似た表情で、声をハモらせてきた。


「だーかーら!大丈夫なんだってば。
 男とか女とか私たちにはそんな壁ないでしょ?
 友達、仲間、それだけで十分」


そう自信満々に言うと、黙り込む2人。


「ちょっと、そこは仲間として即答
 するところでしょ!」


即座に突っ込んだのは。

とてつもなく嫌な予感と、このままでは
何かが変わってしまいそうな気がしたから。


「……悠」

「だからさ!心配してくれる仲間がいるのは
 とても幸せなことだけど、心配しすぎて
 変に気遣わなくていいからね?」

「悠」

「私、いつの間にか6人といることが
 当たり前でこんなに楽しいなんて
 思いもしなかったなー。あ、今度…」



「悠!!!」




振り落とされた、私の名前。


「ん?大和、どうしたのー?」


首を傾げて、口角を上げて、真っ直ぐに
大和の瞳を見つめる。


その先を、言わせまいと。



「……早く、戻ろうぜ」

「そうだな」


乾いた笑みでそう呟いた大和に、築茂も
目を伏せて背中を向けた。

言わせたのは、そうさせたのは、
私であり、これも私の得意技の1つ。



「そうだね!じゃあ、早く玲央をどうにか
 してください」



何事もなかったかのように、笑みを向けて
玲央を指さす。

その後の大和の表情は、どこか
安堵が含まれているもので。

築茂は、無表情だけどどこか戸惑っている
ようにも見えた。



深入りさせない、絶対に。




「玲央!起きろー。もう帰るぞ」

「………ん」


物凄い勢いで大和に体を揺らされて
ようやく体を起こした玲央。


でも、私は知っている。



玲央は途中から起きていて、私たちの
会話を聞いていたことを。


2人は気付いていないけど、私には
すぐに分かった。

だって膝にある玲央の寝息が途中で
不自然なものに変わったのを感じたから。

それを指摘する必要もないし、
咎めるつもりもさらさらない。


このままで、いい。




寝起きである設定の玲央に私が
SかMかの話をしながら、道路を渡る。

なるべく、沈黙が降ってこないように。


私が1人で喋り、それに玲央がぼそぼそと
単語を喋る会話。

大和と築茂は私たちの1歩先を、終始
無言で歩いていた。


そんな雰囲気のまま私の家に入る。



「やーっと来たか。今日は全員
 ここに泊まるんだろ?」


さもそれが当たり前かのような顔で
大和たちに視線を送る煌。

私ももちろん、そうだろうと予想
していたから布団やお風呂も
準備万端、なんだけども。



「……いや、俺は今日は自分の家に行くわ」

「ならば俺も大和の家に泊まる」



初耳なんですが。

大和もちょっと目を見開いたけど
すぐに築茂と煌に頷いてみせた。


「え、そうなの?なんで?」

「普通は俺は近いんだからそれが当たり前だろ」

「築茂はなんで?」

「大和と我々の銀河に最も近い銀河の
 アンドロメダ銀河について熱く語ろうと思ってな」

「………もうちょっとマシな嘘をつこうよ」


納得がいく答えを求める空雅に対して
築茂は堂々と答えた。

日向はそれに冷たい視線を送る。



「まぁ、2人がそういうならいいだろ。
 悠、俺が先にお風呂かりるな」

「あいよー」


空気を読むのがうまい煌はすぐに
会話を転換させてくれる。

優しい日向もその場から離れ、明日ここから
学校に行くための準備をし始めた。