青い春の音
作者/ 歌

第6音 (6)
テストとかはっきり言ってバカバカしい。
あんな紙切れ一枚に何時間も使って
力を注いで、それでそいつの学力は
人間的なレベルまでもを作る。
そんなもので自分の人生を
左右されたくないし、
自分の道は自分で決める。
行けるからとか、もったいないとか、
そんな甘ったるい言葉はいらない。
私は私のやりたいことをやるだけ。
「また1位だろ?」
「この学校で1位ってだけで何の意味も
ありませんよ」
「それ、青田が聞いたら発狂するぞ」
「だから聞こえないように言ってるじゃん。
大高はどうだったの?」
「まぁ俺は普通。いつもの位置をキープ」
「それはよかったですねー。愛花に
勉強教えてあげなよ」
「お前、残酷だなぁ」
「君ほどじゃ」
紙に集中している愛花をちらちら見ながら、
大高と掠れた声で話をした。
全員に結果が渡ったみたいで、
担任からのめんどくさい言葉を
欠伸で
もみ消して、授業は聞かずに
机に
突っ伏した。
昨日は、煌たちと会って、大和たちと
遅くまで話してたから寝ないのは
当たり前だけど、体を休める時間が
あまりなかった。
だからすぐに自分の世界へ。
そこから戻ってきたのは、
次の授業は音楽だよ、と言った
イツメンの声を聞いたとき。
いつの間にか3限目は終わっていて、
みんな音楽室へと移動を始めていた。
すぐに用意をして愛花を含めた
イツメンと教室を出た。
「ねー!そういえば今日の音楽の授業、
特別コーチが来るらしいよ?」
「え、誰誰?」
「愛花は知ってるよね?吹奏楽部の
トレーナーをやってる人って聞いたけど」
イツメン2人の話からすると
たぶん
それは煌のことだろう。
……って、授業にまで来るんですか?
「へぇ、春日井先生来るんだ。
よかったね、悠!」
「何々!?何で悠がよかったねなの?」
「悠、春日井先生のピアノ好きなんだよね。
この前も会ったみたいだし」
あは、昨日も会いましたけどね。
なーんてことは言えないから黙って
笑顔を返した。
「そうなんだぁ!どんな人?イケメン?」
空雅LOVEのイツメンはイケメンハンター
だからやっぱりそこになるよね。
キャーキャー言い始めたところに、
彼女の一番お目当ての彼が。
「何騒いでんの?」
空雅が登場したことにより、彼女の
興奮もさらに上がってしまった。
煌が授業に来ることや、さっきの
テスト結果の話で盛り上がってる。
煌とプライベートで会ったことは
学校では言わないように、と昨日
釘を刺しておいたから大丈夫そうだ。
どうやら今回のテストの最下位は
空雅だったみたい。
ま、本人は何も気にしてないけど。
そんな空雅の姿を見た愛花の表情が
イラッとしたことに気付いて、
イツメン2人と空雅を置いて先に
音楽室へと入った。
するとピアノのイスに座っている
煌の周りに集まっている女子たちの
姿が見えた。
今日もご苦労様です。
私に気付いた煌が苦笑を見せたから
ガッツポーズをして見せて、
心の中で頭を下げた。
後から空雅たちも入ってきて、
イツメン2人も煌の周りに寄って集った。
空雅は私のほうに寄ってきて、
「煌、すごいな。やっぱり大人の
男ってかっこいいのか?」
「まぁかっこいんじゃない?」
「……悠も、煌みたいな男が
タイプだったり?」
「はっ!私、男を男って見てないから
そんなの考えたことないよ」
そう言うと何故か黙って、決められている
席へと向かった。
あーあ、何か傷つけるようなこと
言っちゃったかもなぁ。
ちょっとした罪悪感に駆られながらも、
チャイムが鳴ったので指定の席に座った。
玲子先生が入ってきて、授業が始まった。
煌の紹介を得て、オペラについての
DVDを観て、煌の説明を聞いて
プリントにまとめるという作業。
煌の説明は誰が聞いても分かりやすくて、
玲子先生より煌の授業のほうがいい。
と、思った生徒がほとんど。
あっという間に授業が終わって
煌に向かって拍手を送った。
チャイムと同時に生徒たちはぞろぞろと
音楽室を後にしていくけど、私は
みんなが出ていく姿を眺めていた。
愛花に先に行ってて、と言って
音楽室には私と空雅と煌だけ。
「煌!びっくりしたぁ。まさか授業まで
やるなんて。何で昨日言わなかったの?」
「驚かせたくて。全然うまくなかったと
思うけど、楽しかったな」
「何言ってんだよ!めっちゃ
分かりやすかった。いつも寝てる
俺でも真剣に聞いちまったもん!」
煌に向かって私と空雅は大絶賛。
それに照れくさそうだけど嬉しそうに
笑顔でありがとう、と言った。
「でも、こうしてみるとやっぱり
高校生って若いなぁ。羨ましい」
「そうかぁ?俺は早く煌みたいな大人の
男になりてーよ」
「はははっ!俺なんて全然!まだまだ
ガキだしお前と変わんないよ」
「空雅と煌が一緒?なわけないない!
天と地ぐらいの差だわ」
「おい!どーゆーことだ!」
「そのままの意味ですけど?」
「黙れー!今に見てろよ!お前が見惚れる
かっこいい大人の男になってやるから!」
「うん、死後の世界で待ってるわ」
しばらくぎゃーすかぎゃーすか言い合って、
煌の仲裁により、ようやく収まった。
お昼を一緒に食べよう、と言うことになって
購買で買ってきたおにぎり一つを
持ってもう一度音楽室に集合。
うちの学校はどこで何を食べても
怒られないとか。
私が手にしていたおにぎりを見て
煌と空雅はそれだけ?と目を丸くした。
さっきお菓子食べた、と誤魔化して
他愛もない話をしながら昼休みを過ごした。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴って、
私と空雅は教室に戻る準備を始める。
煌はこの後も6限目まで授業があるみたいで
放課後は吹奏楽部の練習を見る。
「2人は放課後どうするの?」
「俺は部活ー!大会が近いんだよな」
「悠は?」
と、聞かれて一瞬大高との約束があることを
思い出したけど、言う必要はないだろう。
「私はいつも通り、かな」
「そっか。じゃあまたな。授業、寝るなよ」
「それは分かりませんなぁ。煌も
授業頑張れよ」
「頑張ってね!」
そうエールを送って、教室へと戻った。
教室に戻る間も、戻ってからの授業の間も、
さっきの煌の質問で考えないようにしていた
放課後のことがどうしても頭から離れない。
もし、私が予想している話だとしたら。
なんて言おう。
なんて答えよう。
そんなことをずっと考えては、何も出てこなくて
焦りが積もっていく。
斜め前の席にいる愛花が視界に入れば
入るほど、それは大きくなって
次第にはため息までつくようになった。
もしかしたら、予想している話とは
違うかもしれない。
いや、そうであってほしい。
そうすれば今まで考えていたことが
バカバカしくなって笑えるのに。
大高の背中を見つめて、どうか
違いますように、と願った。

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