青い春の音

作者/ 歌



第4音  (9)



あ、そういえばまだ
音楽をかけてなかった。


話に夢中になりすぎて
CDをかけようとしていたことを
すっかり忘れていた私は。

まだ黙り込んでいる大和を
そのままにして、ソファから
立ち上がった。


大和も結構音楽のジャンルが
広いってことが分かったから、
洋楽でもかけよう。

マイケルジャクソンのCDを
セットしてまたソファに戻った。


私たちから出る音だけだった
部屋に、リズム感のいい
メロディが流れ始めた。


それでも大和はまだ上の空。


「大和?」


ちょっと心配になったから
名前を呼んでみるものの、
全く反応なし。

え、本当にどうしちゃったの?


「大和ー?大和さーん」


座ったばかりのソファを
もう一度立ち、大和の座っている
ほうまで近寄る。

大和の目の前まで来て、
その場に座り瞳を合わせるように
覗き込んだ。



「う、……わ!」


と、いきなり変な叫び声をあげて
体を後ろに倒した大和。


「ちょっと、大丈夫?」


やっと反応を見せたこいつに
半ば飽きれながらも、立ち直す。


「え、あ、ごめん」


へぇー……。

大和でもこんなことあるんだ、
と少しおもしろくなった。


「自分の世界に勝手に
 行かないで下さい」


私も人のこと言えないけど、さ。




それにしても、荻原先輩が
一方的に大和を敵視している
みたいだけど大和は何とも
思ってないみたい。


「荻原先輩に嫌な態度とられて
 何とも思わないの?」

「あぁ、別に。男ってそんなもん。
 でも俺は昔から日向に対する
 想いは変わらねーから」


え、もしかしてそれって……


「いやいやいや。ホモじゃ
 ねーから。絶対ありえないから」

「ですよねー」


大和が正常で何より。


でもこいつ、あんな態度とられて
まで変わらないなんてすごいと思う。

たぶん、2人は親友とも呼べる
存在だったんだろう。

大和は今もその想いは健在だけど、
荻原先輩にはない。


「ってか、お前も食えよ。
 お前が買ってきたんだろ」


このことに関して全く
執着はないみたいだし。

大和からは何を聞いても
無駄話だな。

だとしたら、荻原先輩に直接
聞くのがいいか。

今度会ったときにでも聞いてみよう。


「あぁ、私お菓子とか食べないから
 どうぞご遠慮なく」


お菓子の皿を大和のほうへ
押し付ける。


「そうなのか?じゃあ頂く」



余計なお世話かもしれないけど、
このままでいいはずがないと
思うから。




仕事行ってくる、と言って
帰って行った大和に笑顔で
見送った。

もちろん、お菓子の皿は
綺麗に空っぽ。


なんだかちょっと、不思議。


私は今まであまり他人に
興味がなかった。

めんどくさいことに
巻き込まれるのが嫌だし、
どうでもいいから。


でも大和と荻原先輩のことを
どうにかしたいって思う
気持ちがとても大きくて。

こうやって自分の好きなもの
以外のことを考えるのも
悪くはないかもしれない。
    


携帯のランプが点滅している
ことに気付いて、見てみると。

新着メールが8件と電話が1件。

メールを開いて中身を
確認すると、これまた
バンドや音楽関係の人から。

その中に『橘築茂』の
名前があったから、すぐに
それを開く。


『電話に出ろ』


と、一文。

築茂らしすぎて軽い
笑みが零れた。


電話のほうを見てみると、
やっぱり築茂で
1時間くらい前に来ていた。


何か急ぎの用事でもあったのかな。


でもたぶん、明日のこと
だろうからメールで謝っておこう。