青い春の音
作者/ 歌

第4音 (2)
せっかくお風呂に入って
乾かした髪もすぐに滴をたらす。
早く家に帰って体をふかないと
風邪をひく、と分かってはいるのに
動く気になれなかった。
だってこれも、自然。
なんとなく、今日は自然に
呑み込まれたい。
ふわって体が軽くなって風に
乗っからずに自分が風を
導けるくらいになりたい。
そしたら………
「っにしてんだよ!!」
一瞬、雷が落ちたのかと思った。
びくっ、と体は異常なほどまでに
震えたのは、
いきなり腕に強い痛みがはしり、
全然知らない声がすぐ耳元で
聞こえたから。
それと同時に、全然知らない匂いに
包まれたから。
「……え?」
えーと。
あのー、私は一体どこのどなたに
どうしてこのような状態に
させられているのでしょうか?
あなた、誰?
しっかり抱きしめられている腕は、
一度離れて私の肩を思い切り掴む。
そのとき、初めて相手の顔を見た。
怖い。
人の顔を見てそんなことを思ったのは
初めてだった。
赤みのかかった茶髪に、ブラウンの
瞳はひどく怒りで染まっていて。
眉間にはこれでもかってくらい
しわが寄っていて、耳にいくつもの
ピアスがさらに、怖かった。
……うん、初対面ですよね?
「てめーは何してんだバカ!」
冷静に彼をぼんやりと眺めていると、
いきなり怒鳴られて肩が跳ねた。
え、え、えぇ?
私なぜゆえに怒られているのか
さっぱり分からないんですが。
だって知らない人だし?
何も悪いことしてないし?
たぶん、それがあからさまに
顔に出ていたんだと思う。
ますますイラついた表情になって、
「とりあえず、こい!」
と。
わけも分からぬままに腕を
引っ張られて、階段を足早に
駆け上った。

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