青い春の音
作者/ 歌

第10音 (4)
いつの間にか、私の歌は6人の歌にも
なっていたみたいで。
伴奏もない、声だけでハーモニーを作る、
いわゆるゴスペルが作られていた。
声だけでその世界を優しく包める。
歌は1人で歌うのが当たり前だと
思っていたけど、彼らと歌うように
なってからは誰かと歌う楽しさ、が。
生きることの楽しさ、として
感じるようにもなった。
「あーあ、玲央本当に寝ちゃったよ」
藍色を含んだ柔らかい玲央の髪を撫でながら、
寝息が聞こえてくるのを確認する。
石の階段を照らす1つの街灯と、月明かり
だけが今ここにある、光。
その小さな光に照らされているだけでも、
玲央の寝顔はいつものように、綺麗だった。
「ったく……。本当に玲央は猫だよな」
「まぁ寝ていれば悠に変なこともしない
だろうからまだ安心かな」
「変なことって!な、なんだ!?」
「お前は純粋か」
「普段は悠にハグとかチューとか平気で
言ってるくせにねぇ」
ため息を吐きながら玲央を見つめる大和に、
日向は苦笑を返す。
普段、変態発言をさらりと醸す空雅は
実はピュアで純粋だったりもする。
たぶん、突っ込んだ築茂のほうが本当は
ムッツリスケベなんじゃ……。
あ、きっと一番変態なのは最後にニヤッと
した煌であることに間違いないと思う!
「……悠、何でそんな目で見るんだよ」
「いやー、私の中である順位が付けられたから
なんだか同情したくなってさ」
「何の順位だよ?」
「さぁ?ちなみに1位はダントツであなたですね」
「分かった!将来ハゲる可能性が高い順位!」
「空雅くーん?ハゲるって何のことかなぁ?」
「あははー……。ほら、あれだよあれ!
ハゲるっていうのは……ハーゲンダック食べる!」
「あれ、おいしいよねぇ」
「うん、おいしいよなぁ」
空雅と煌の会話に日向と大和は呑気に
ハーゲンダックと言う、ちょっとお高めの
チョコレートを思い浮かべている。
私的にはあんな甘いチョコレート、
無理としか言いようがないんだけど。
気持ちよさそうに寝ている玲央を差し置いて、
私たちはいつものようにバカな会話を
繰り広げていた。
「よし、そろそろ引き上げますか!」
いつの間にか煌のこのセリフが解散の
合図になっている。
それぞれが立ち上がり、食い散らかしたり、
飲み干した缶などが入った袋を手に
階段を上っていく。
……え、何々?
私1人でこんな大きな猫を運べとでも
言うのかね、この人たちは。
「あのー、一応ワタクシの性別は女と
いうものであったと思うのですが」
「え?そうだっけ?」
そんな真面目な顔で反応を示した
大和としばらく、にらめっこ。
私たち2人以外の若干4名はこの光景を
楽しんでいるようにしか見えないですね。
「……ぶははっ!あーダメだ、我慢できないっ」
ツボがかなり浅い空雅が噴き出せば、
それにつられて全員が笑いだす。
「いやーおもしろいねぇ。悠ってMなのか
Sなのか分からないよねぇ」
「いやいやいや!どっからどうみてもSだし!
いじられキャラとか絶対に嫌だし!
そんなのは空雅と大和、あとたまに
築茂だけでいいし!」
煌の言葉がかなり聞き捨てならなくて、
まくしたてるように叫んだ。
この私がMなんてことは断じて認めない!
「おい、何で俺がたまにMなのか論理的に
説明してもらおうか?」
「あーあ、築茂怒らしちゃった。よし、
俺たちは先に逃げるぞ!」
事の発端を起こした本人はさっさとごみを
持って、消えて行った。
その後を追って空雅、困った顔をした
日向も階段を駆け上がっていった。
人でなし!!
本当は口に出して叫びたかったのを
心のうちに止めた私って偉いと思いまーす。
先に帰った、と言っても私の家に
戻っただけの3人のことは忘れるとして。
今ここで口元に薄ら気持ち悪い笑みを
浮かべている眼鏡の彼をどうしようか。
大和は知らん顔で煙草吸ってるし。
「……大和、お前は戻らないのか?」
「……煙草吸い終わったらな」
「もうだいぶ短いんじゃないか?その煙草」
「……もったいねぇじゃん」
あれれ、いろいろ言い訳を考えていたのに
築茂の言葉は大和に飛んでいく。
なんだか……不穏な空気が入り混じって
いるような気がするのは私だけ?
「それよりも!早く玲央、起こさねぇと
いろいろ危険だろ」
「え、何が危険なの?」
立ち上がって煙草を靴で踏みつぶした
大和の言っている意味が分からなくて
聞き返す、と。
「はぁ……。やっぱりあの時、何も
分かってなかったんだな」
「愚鈍すぎる」
大和の盛大なため息と築茂の鋭い言葉が
心に刺さるわけもなく、空振り。
何のことでしょうか。
「あの時のこと、覚えてないのか?」
「あの時のこと?」
「1か月前、アンサンブルコンサート
やったとき、寝ている玲央を起こそうと
しただろ?その時のこと」
「……あぁーそういえばそんなことも
あったねぇ。あれからまだ1か月なんだぁ」
「そういう意味じゃないバカ」
ため息連発の大和さん。
「なぜため息?ため息ばかりついてたら
幸せ逃げてくってよく言うじゃん」
「そのため息をつかせているのはお前だと
いうことにいい加減気付け」
あれ、ちょっと不機嫌モードに
なってきちゃったよ。
どうしましょうかねぇ。

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