青い春の音

作者/ 歌



第10音  (2)



そんな“いつものこと”を感じられる今は
本当に幸せだな、と思いながら
海に隠れようとしている夕日を眺めていると。


夏の匂いのする風が、来た。





ピンクの薔薇が花びらを
揺らし絡んでゆく
風が小道を駆け抜けるときに
垂れた緑の影に揺られている
小さな白い道は
春の最後の足跡のように

季節という旅人は
新たな季節へと移り変わる

止まることなく
繰り返し 変化を望んで
繰り返し 誕生を待ち
希望と悲しみを
振り返ることもなく

ぽたぽたと土に水が
落ちることを希望しながら
枯れた葉にもなれない
こころを待つこともなく

こころが笑顔になって
追い付くだろうか
つかめない風に似た季節を
残された花に似てる
絡みたいと言う

切望のこころは






「……もうすぐ、夏だね」



最近作った曲を歌いあげて、水平線から
目を逸らさずに呟いた。

ビニール袋から大量に買ってあった花火の
1つを取り出して、子供のような笑みを
浮かべている煌。


そんな煌に大きく頷いて見せて、
花火に飛び込んだ。

「もう夏だね、の間違いだろ」

「あっという間に時間ってすぎるもんね」


大和、日向が隣に立って私と同じように
水平線を見つめる。

波の音が心地よくて、心を持っていかれそうになる。



「ほら、3人とも。そろそろ暗くなってきたから
 花火始めよっか!」



ビニール袋の中にあるたくさんの
花火の中から1つ取り出して子供のような
笑みを浮かべる煌。

そんな煌に大きく頷いて見せて、
勢いよく花火に飛び込んだ。




まだ浜辺で寝ていた玲央を叩き起こして
花火を持たせる。

ライターを持っていた大和と煌のもとに
寄ってたかって火の奪い合い。



「ぎゃっ!空雅危ないじゃん!
 こっちに火向けないでよバカ野郎っ」

「うひょー!やべぇ、超綺麗じゃね!?」


花火にかなりテンションが上がっている空雅。


「ちょっ、玲央!?あなた、何やっちゃってんの!」

「玲央っ!待て、待つんだっ。花火というものは、
 振り回すものじゃない!火が飛び散って
 紙や服に燃え移ったら大変だろ!?」

「……ふふ」


花火が付くと同時に、ぼーっと突っ立ったまま、
花火をその場で大きく振り回す玲央に。

その近くにいた大和が叫び声をあげる。


「ぶはははっ」

「楽しいねー」


そんな大和のリアクションに
大爆笑している煌。

1人、穏やかに笑っている日向さん、
一緒に玲央と空雅の暴走を止めるの、
手伝って下さい。


「論理的に言うと、花火とは火薬と金属の粉末を
 混ぜて包んだものに火を付け、燃……」

「うん、築茂。今はそういう話は誰も聞いてないや」


花火がどうできているのか、詳しく
説明したいらしかった築茂の言葉をシャットアウト。



ぎゃーすか、わーすか、うるさすぎる
私たちの声は、いつもの穏やかな海には
似合わないだろう。


それでも、楽しすぎて私も思いっきり笑った。



こうして心から笑っていられる、
一緒に笑ってくれる仲間がいる、
楽しいと思える時間を持っている。



私は、笑顔を大事にする人間でありたい。





コンビニで見つけただけ買いよせた
花火はあっという間にラストの線香花火のみ。

やっぱり最後はこれ、なんだよね。



「もう線香花火かよー。何か緊張してきた」

「緊張とか!とは言っても線香花火も
 大量に残っているから終わるまでに長いよ」


胸をさすりながら意味不明な行動を
取る空雅に、線香花火を見ながら苦笑する煌。



「じゃあさ、7本だけ取り除いて余ったやつを
 7つに分ければ?1回目に分けたやつをやって、
 2回目に1本だけのをやるの」

「確かにそれが時間短縮だな」

「じゃあそうすっか!」


私の言葉に築茂は冷静に頷いて、大和は早速
線香花火の袋を開け始めた。



「そんじゃ、やるぞー」


大和から適当に分けられた線香花火の束を
受け取って煌に火をつけてもらう。

1本だと弱々しい線香花火でもこうして
集まって1つになると、以外にも大きな光が
散り始めた。



「なんだか、俺たちみたいだね」


日向がぼそっと呟いた言葉に線香花火に
落としていた視線を上げた。

その理由が“僕”じゃなくて“俺”と
言ったことでは、もちろんない。

既に日向は私たち6人の前では自分を
そう呼ぶようになっていたから。

誰も指摘することもなく、さもそれが
当たり前のように。



「どういうこと?」

「だって、1つじゃ小さな光でも集まれば
 大きな光になる。まさに俺たちじゃない?」

「確かにそうかも。俺たちの力は1人1人、
 弱いかもしれないけどこうして7人が集まれば
 7倍の力になる。7倍の楽しさになる」


オレンジ色の光に染まっている日向の
横顔を見つめながら尋ねると。

私が考えていたことの延長が返ってきた。


煌もすぐにそれを理解して光を見つめながら、
微笑んでいる。



「俺、この光、好き」

「俺も玲央と一緒。やっぱりいいよな、こういうの」



暗いことをいいことに、照れくさそうに
しているはずの大和の顔が見れないのが残念。


でも。


言葉にはしない築茂も、微かに笑みを
浮かべていることは何となく、分かった。