青い春の音

作者/ 歌



第10音  (3)



そう思ったのも、束の間。



「おいおいおーい。そんな神妙な空気に
 なってどうすんだよ!」

「こんな空気で神妙にならないお前の頭は
 大根か?いや、ゴボウだな」

「いやいや、そんなの大根とゴボウに失礼だよ」

「大根とゴボウおいしいよねー」

「ちょっと!俺は一体なんなんだ!?」

「え?結論的に言うと、バカしかないよ」


いい雰囲気をさすがの空雅くんは、
いとも簡単にぶち壊しました。

そこにお決まりの築茂のナイフが飛び、
私が大根とゴボウを敬うと。

煌は大根とゴボウが好きらしい。


私のとどめの一言に、全員が大爆笑。



それと同時に、次々とそれぞれの線香花火が
落ち始めてしまった。



「あーあ、空雅のせいで消えちゃったじゃん」

「お、俺のせいなのか!?」

「はいはい、本当のラストやるよ」


笑い疲れたらしいお母さんが、線香花火を分ける。

私も空雅も大人しく黙って最後の
1本に火がつくのを待った。


火が灯されると、キラキラと光が
吹き出してさっきよりも静かなオレンジ色が
辺り一面を包む。


パチパチとはじける音がどこまでも
広がっていく。

モクモクと白い煙が立ち込めて見える
その先に、じぃっと私を見つめる大和と
目が合った。

無言で光の弾ける音と、穏やかな
波の音だけが心に響く。



ずっと、この瞬間が続けばいいのに。




1人、そう静かに願った瞬間、風が
勢いよく7つの光をさらっていった。

ポトッと光が落ちて、辺りが真っ暗になる。



「……消えちゃったね」


名残惜しさを感じる日向の声に、私は
思わず夜空を見上げた。


そこには無数の星。




『この星の数ほどたくさんの幸せを作ろう』



「この星の数とまではいかなくても、そんくらい
 たくさんの思い出を作りたいな」

「えっ?」



ど、くん。


思わず勢いよく、聞きなれた声のほうに
視線を向けてっしまった。



もう叶うことのない約束を笑顔で言った、
あの人の言葉が飛び込んできたところに。


大和の、言葉。



「え、何か変なこと言ったか?」

「いやいや、大和にしてはかなりくさい
 セリフだったよね」

「はぁ?ど、どこがくさいんだよ」

「すべてだよすべて。ほら、だから悠も
 あまりの気持ち悪さに固まっっちゃった」


大和と日向のやり取りにすら、言葉を
差し込めないほど。


心臓が熱く、煩く、早い。



「……悠?」


隣にいた玲央がそっと私の手を握る。

暗いからたぶん、誰にも見られていないし
気付かれることもない。

そのぬくもりに少しずつ、頭が冷めていく。



「あ、れれー……。大和があまりにも
 気持ち悪いこと言うから言葉が
 出てこなくなっちゃったじゃんか」


「………」



すぐに冗談っぽく言ってみるけど、
誰も何も言わない。


やらかした、かもしれない。



「ははは、本当だよなぁ!俺も気持ち悪くて
 吐き気がしちったぜ」

「確かにな。終わったらさっさと
 片付けするぞ」

「築茂ってばちょっとくらい惜しもうよ」


そんな空気が嫌いな空雅が、明るい
声を出してくれた。

そのおかげで話が逸れて、すぐに立ち上がった
築茂に煌も重たい腰を上げた。




私たちも続いて立ち上がり、落ちていた
花火やごみを拾う。

その間もくだらない会話は無くならない。


それが、私を気遣ってくれた空雅が
絶えずに話を振っていることくらい、
すぐに分かった。


最初は私を観察するように見ていた
大和と玲央も、少しずつ、空雅に
話を合わせてくれて。

何とか何も起こらずにすんだ。



片づけを終えてもまだ帰らずに、石の
階段にそれぞれ好きな体勢で座り、
お菓子やらおつまみやら、ビールを飲んでいる。

玲央は寝ているだろう、と思っていたけど
きちんと起きていてどうしてか、
私をじっと見ている。


空雅1人だけが落ち着かずに海に
向かって砂浜に落ちている石を投げていた。



「……悠」


しばらく黒い海を眺めていると、隣に
玲央がいて、私の隣に座った。

そしてごろん、と私の膝の上に頭を
乗っけて寝そべる。


いわゆる、膝枕。



「眠い。歌って?」



前髪に隠れていない右目だけがじっと
私の瞳の奥を見据える。



「おい!玲央、何やってんだよ」


後ろから大和の罵声が飛んできたけど、
ゆっくり、息を吸った。






ベランダからの夜空
蒼い月が時を刻んでいたよ
蒼色の月の時計が君を思い出させ
冷たさの夜をすこしだけ
幻想的な雰囲気にしてたよ

会えない時間が僕らを大人にし
大切な人を思いやる気持ちを身に着けていく
叶わなかった夢の中にでも
成長の種を見つけることができる

晴れた空は自由
雨が降るならすこし窮屈だけど
雨が止んで ほら 虹が出たよ

雨上がり
君に会いに行くって決めたよ
雨上がりに自然に一緒に立ち止まって
虹の色 みつめたいよ

夜には蒼色月時計
僕と君の未来を刻み始めることを
願いながら






歌い始めは1つの声と音だけが響いていたけど、
歌い終わりには6つの声と6つの音が重なっていた。


途中から煌の声が重なり、その後に
次々と玲央以外の声が混ざってきた。

この曲は、1週間前くらいに完成して
1番に6人に聞かせた曲。

そしたら好き勝手にアレンジを混ぜてきて、
誰かがこの曲を口ずさむと。


次々と声が加わり、歌いあげる。



そして玲央は、この曲を聞くとすぐに
眠れるらしい。


……いや、聞かなくてもすぐに
眠れると思うんだけどね。