青い春の音
作者/ 歌

第4音 (8)
この人、今結構な爆弾発言
落として行きませんでした?
「なんだよ、その顔」
「あのー聞き間違いかも
しれないのでワンモアプリーズ」
「はぁ?だから、クラシックも
昔は聞いたんだよ」
「うん、そこじゃなくてその次」
「あ?サックスとトランペット
やってたことに驚いてるのか?」
……そりゃあ、もう。
そんなこと聞いちゃったら
私の音楽魂に火が付いちゃいます。
「驚いた驚いた。さぁ大和くん、
今すぐにサックスと
トランペットを披露しなさい」
「んなことするか!だいぶ前の
話だし楽器持ってないし」
「サックスなら私持ってるよ!
私も吹くから」
「それは知ってるけど。リードも
マウスピースもお前のだろ。
絶対に嫌だから!」
かなり必死で拒絶するものだから
それ以上は言えなさそうだ。
諦めはしないけど、近々必ず
聞かせてもらおう。
「今に見てろよー。絶対に
吹かせてやるから!」
「だから嫌だって。ってか
お前なんで俺を呼び出したわけ?
なんか用事があったんだろ?」
あ、そうそう。
「忘れてたー。えーとね、
なんだったっけなぁ……」
「うわー」
そんな目で見ないで下さいよ。
今一生懸命頭フル回転させて
思い出してますから。
私ってすぐに忘れるんだよね。
「あ、思い出した!大和って
荻原日向先輩と知り合いなんだ?」
って言った瞬間。
この場が凍りつく、かなと
思っていたのに。
「あぁ。もう日向から話が
回ったのか」
荻原先輩とは真逆の反応を
見せる大和。
どうやら大和は普通らしい。
「どうゆうこと?」
「前にお前の制服を見たとき、
日向が着ていた制服と
同じパターンだと思ってさ。
悠に聞く前にあいつに言ったんだ」
「なんて?」
「神崎悠ってやつ、お前の
学校にいないかって。
悠の名前なら結構学校でも
知ってるやつ多いと思って」
その理由は突っ込まないよ、うん。
曖昧に頷いて見せながら、
冷めないうちに紅茶に口をつける。
そーいえば私、お菓子なんて
一切食べないのに何で
買ったんだろう。
無意識に大和が来る時のことを
想定してたのかな。
「おい、話聞いてるのか?」
「あーはいはい、すいません。
で、荻原先輩はなんて?」
危ない危ない。
早くこの癖直さないと
変なふうに思われるぞ私。
いや、もう変とか言わないでね!
「彼女に手出したのかって
すごい形相で怒鳴られた」
「うっそだー」
あの荻原先輩が怒るなんて
聞いたことがない。
でも今日の荻原先輩の様子を
見たら、大和には別なのかも。
でも大和本人はその理由を
自覚してなさそうだけど。
「なんで怒鳴られたと思う?」
「こっちが聞きてーよ。あいつ、
いつからか俺のことめっちゃ
避けるようになってさ」
やっぱり自覚なし、か。
「その理由、聞いたりしなかったの?」
「だって話そうにも全然
口開かないからさ。お手上げ」
「でも私のこと話したってことは
口はきいてくれるんでしょ?」
「いや、あんときもお前の名前を
出すまではだんまりだったんだよ。
でも名前出した瞬間、久しぶりに
あいつの声、まともに聞いた」
そう言った大和の表情は、普通とも
とれるしちょっと悲しげともとれるし。
自嘲気味とも、とれる。
どっかですれ違いがあることは
分かったけど、その理由が
分からない。
そういえば。
「荻原先輩に言われたんだけど。
大和とは関わるなって」
「はぁ?なんで」
「女好きだし人の気持ち考えられない
最低なやつだからって」
あれ、これ言ったらまずかったかな。
大和が急に黙っちゃったから
ちょっとショックを受けたのかも
しれない。
私も何も言わずに大和が
口を開くのを待っていると、
「じゃあ、悠は俺と関わりを
絶つために今日呼んだのか?」
……………。
んん?
俺との関わりを絶つため?
「日向の言ったこと、真に
受けたのか?」
「ちょ、ちょっと大和さん。
あなた、まさか今急に黙ったのって
そのことを考えてたの?」
「他になにがあるんだよ。
で、そうなのか?」
ははは、全然他に心配すること
あるでしょうが。
この人本当にバカです。
「んなわけないでしょうよ。
逆にイラついて言い返したわ」
「なんて?」
「私は私の見たものを信じるって。
大和が最低な奴になんか
見えたことないって」
得意気にそう言うと、口元を
手で覆って視線を私からずらした大和。
なんなんだこいつは。
「……なら、いいんだ」
ぼそっと呟いた言葉の真意が
よく分からなくて、じっと
大和を見つめる。
相変わらず、ピアスの数は
減らないしいつも人を
睨むようにみる瞳は、きっと。
人からかなり誤解される
材料だろう。
もしかしたら、荻原先輩も
大和のことをどこか
誤解しているのかもしれない。

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