青い春の音
作者/ 歌

第4音 (5)
何もなかったから諦めて
もう一度ソファに座りなおす。
まだ口をつけてなかった紅茶に
手を伸ばして、コブクロの曲に
耳を澄ました。
いつしか晴れるよ どんな空でも
僕等はおんなじ 光を分け合ってる
明日は晴れると 君が言うから
予報は雨でも 晴れる気がするよ
つくづくいい歌詞だなと思う。
ふとまだ土砂降りの雨を映している
窓に目を向けた。
こんなに雨が楽しそうに、嬉しそうに
していても私たち人間には
憂鬱を引き出す音と匂いと、光景。
「…そういえば大和は何歳?」
また自分の世界に行きそうになるのを
踏みとどめて、思考を大和に移した。
「あ?あぁ……17だけど」
「じゃあ一つ上だね。ま、今更敬語
使おうなんて思わないけどね」
「お前、敬語なんて大それたもの
使えるのか?」
「よし。しもべにしてやろうか」
「ははははは」
な、こいつ全く感情の籠ってない
笑いを吐きやがった!
しかも真顔で!気持ち悪い!
しばらくそんなくだらない
やり取りをして、自然と笑みがこぼれた。
すると大和がある一点に視線を
集中させているから私も、
後ろを振り返って見てみると。
「学校の制服がどうかした?」
藍色のブレザーに赤いネクタイ、
グレーのスカートという
至ってシンプルな制服。
私の学校の制服がそんなに
気になるのか、ちょっと眉間に
しわを寄せてまじまじと見ていた。
「悠、あれが通ってる学校の制服か?」
「それ以外、なんだって言うんですか」
「もしかして男子用のはスカートが
ズボンになっただけのか?」
「そりゃあそうですけど。
それがどうかした?」
男女共学だし男子もほとんど同じ。
「ふーん……。いや別になんでもない。
ちょっと気になっただけだ」
そう言い終えれば紅茶を一口
飲んで何もなかったかのように
話題を変えた。
ま、別に興味ないからいっか。
高校と言えば大和はどこの
高校に行ってるんだろう?
気になったから、聞いてみると。
「俺は通信制。昼間は働いてる」
予想通りの返事が返ってきた。
「ふーん。何の仕事してるの?」
「酒を運ぶ仕事」
と、言われてもいまいち想像は
湧かなかったけど何となく
どうでもよかったので頷いて
その話は終了。
そういえば、と大和が思い出したように
携帯を取り出した。
「メアド、交換しようぜ。
一応ご近所付き合いってことで」
「あ、うん」
すぐに赤外線でアドレスを交換。
「じゃ、俺はそろそろ帰るわ。
今から仕事だし」
「今からとか。夜の仕事なんだ」
「夜から朝方までだな」
そう答えた大和はソファから
立ち上がり、ごちそうさまと言って
携帯をポケットにしまった。
それに私もつられて立つ。
裏口までついていき、まだ
雨が降ってるから傘を貸した。
すぐ近くだから、と言って
断ろうとした大和に引き下がらずに
押し付けたところ。
しぶしぶ受け取って今度返すな、
と言って玄関のドアノブに
手をかけた。
「……風邪ひくなよ」
そう言い残して帰った大和に、
心の中でありがとう、と呟いた。

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